第28話 近づく(3)

ほどなくして夏希が帰ってきた。


「あれ、直帰ちゃうかったの?」

南が声をかける。


「え? あ~。 なんか早く終わっちゃったんで。 帰るのもなんだと思いまして、」


「真面目やなあ。 あ、そういえば高宮から電話があったよ、」

南はニヤついて言った。


「えっ??」

ドキンとして激しく反応してしまった。


「加瀬の内線に。」

と電話を指差す。


「な、なんでこっちに・・」


「携帯にかけたら悪いと思ったんちゃうのん?」

ふふっと笑う。


夏希がそのまま所在無くしてるのを見て、


「・・電話してやったら?」

気を利かせて言うと、


「え・・でも。 なんかわざわざって感じもするし・・」

モジモジしながら言うので、


「ええやん。 わざわざでも。」


「や・・でも~~~。」

南はそんな彼女にイラついて、


「もう! ええやん。 そんなん気にせんでも。 高宮、あんたのカレシやろ? つきあってんやろ? チューまでした仲やろ??」

と言うと、夏希はびっくりして、


「なっ・・なんでそこまで知ってんですかっ!」

南に食いついた。


「ホンマ、正直やなあ。 加瀬は。 ま、そんな感じなのかなァって、」


カマかけられた・・。


夏希は恥ずかしくてかああっと顔を赤くしてくるっと彼女に背を向けた。


「ちょっと外出てさあ、かけてやんなって。 あたし、斯波ちゃんには言いつけないから!」

南の言葉には反応せず、すーっと出て行ってしまった。




もう就業時間を過ぎたところだったので、高宮は携帯にすぐに出た。


「あ・・加瀬です。 ごめんなさい、さっき電話あったって、」


「ああ、ウン。 南さんが出たから。 いや、あのね。 正式に4月1日付けで北都社長の秘書になることになったから、」


「え? ほんとに?」


「ウン。 今までそういう風には言われてたけど。 なかなか正式に言われなくて。 ちょっとイライラしてたから。 もう3月に入ったし、おれほんとに帰れるのかなって不安にもなってたから・・嬉しくて。」


彼の嬉しさが伝わってくる。

夏希も本当に彼が帰ってくることを実感して、じわじわと嬉しくなってきた。


「ほんと・・良かったですね。」


「加瀬さんは嬉しいって思ってくれてるの?」

ちょっとイジワルな質問に、


「え! そりゃ・・思ってますよ・・」

どぎまぎしながら答えた。


「そっか。 よかった。 なんかその言葉が聞きたかったのかもしれない、」

高宮はふっと笑った。


ほんとに

こっちが困ってしまうくらいドキドキすることを

この人は平気で言ってくれる。


答えに困って黙ってしまった夏希に


「どうかした?」

高宮は問いかけた。


「なっ、なんか・・すっごい恥ずかしくて。」


顔も見えないのに下を向いてしまった。


「え??」


彼はしばしその意味を考えて、そんな彼女の姿を想像した。



「もうすぐ、会えるよ。」


にっこり笑ってそう言った。



「え、なに? 顔、真っ赤やん。」

戻るなり南にそうからかわれた。


「えっ!!」

またもわかりやすく動揺した。


「良かったなあ。 高宮、戻ってこれることに正式に決まったんやってな、」

先回りしてそう言った。


「あ・・ハイ・・」

小さく頷いた。


「したらもうラブラブやん! ええなあ、恋愛中って! も~~。」

夏希を小突いた。


「ら・・ラブラブ??」

目が回りそうな彼女に、


「え、何? 嬉しくないの?」


「う、嬉しいですけど、なんか怖いってゆーか。」



あの

長野で

一気にあそこまで進んでしまったことを考えると

彼がこっちに戻ってきたらいったいどうなっちゃうんだろ。



「何が怖いの?」


「・・いろんなことが、」


勘のいい南は、夏希がどこまでの心配をしているのかがわかってしまった。


「怖いとかそういう気持ちなんかどっかいっちゃうって! 好きな人ならな、もう自分でも見たことないようなトコまで見せてもいい!って思えるって!」

夏希の背中をバシっと叩いた。


その勢いによろめきながら、


「じ、自分でも・・見たことないトコ?????」


もういっぱいいっぱいだった。

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