8日目 役者

売れない三流役者がステージにいる

いつヤジが飛ぶのだろうかと

観客席を眺めている

そうこうしているうちに

自分すら役に飲み込まれ

自分は生まれながらに

役柄通り!理想通り!

そんな人間だったのだ

素晴らしかったのだ、と

そういう錯覚が始まる


そして忘れた頃に投げ込まれた

悪意も好意もない

ただ事実を並べただけのヤジへ

驚き

恐怖して

そうして三流であった自分が 急に

俯きながら戻ってくるのだった


どんな顔がいいか知っている

名前を呼ぶ声 差し出される手

明るさのトーン

声の色

目の細め方

様々

お望み通り...


人の瞳を

覗き込み

一挙一動

一生懸命に

追って

追って追って


正解だと思えればただ嬉しく

不正解だと思えばただ恐怖であった

そこに騙そうだなんて魂胆はない

微塵もない

ただ期待されたことに対して

きちんと応えないといけないという焦燥感に

駆り立てただけの

劇場


今日も幕が上がる






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