噂話と真実

T_K

噂話と真実

「ねぇねぇ。聞いて。あのね、1組のユリが2組の武田君に告ったんだって!」


本当かどうかは分からない噂話。


でも、私って噂話が凄く好きなのよね。


今日も色んな噂を聞いては、友達に話している。


それが真実かどうかはどうでも良い。


ただ、楽しく話せればそれでいいだけ。


「カオリの家、お父さんが凄い借金抱えて大変みたいだよ」


親友のチトセといつもこんな話ばかりしていた。




ある日の夜、チトセからメッセが飛んできた。


チトセとはさっきまで電話で話してたのに、なんでメッセ?


「なんだろう?」


これ、ほんとう?とだけ書かれている。


その後に続いたのは誰かのSNSのアドレスだった。


興味本位でアドレスをクリックしてみる。


画面に映し出されたのは、全て私の事に関する内容だった。


3組の吉田ミホは渋谷で援助交際をしている。


3組の吉田ミホはテストでカンニングをして、良い点数を取っている。



そして。



3組の吉田ミホは、中村チトセと親友の様に振る舞っているが、


他の人には中村チトセの悪口ばかりを言っている。




きっとこのつぶやきを見てチトセは私にメッセを送ってきたのだろう。


私はすぐにチトセに、


「こんなのウソに決まってるじゃん」


と、送った。


チトセからはすぐに、そうだよね。ウソだよねと返ってくると思っていた。


でも、チトセからのメッセはその後何も返ってこなかった。


既読もついてないし、きっと寝ちゃったんだ。


私はそう思っていた。




翌朝、教室に入ると、皆の視線が一斉に私に向いている事に気付いた。


それも、しっかり見ているワケじゃなく、どこか軽蔑の眼差しを向けている様に。


私は気にせず、カバンを置くとまっすぐにチトセの元へ向かった。


チトセは私が話しかけようとする前に、キッ、と睨んで私を見据えていた。


チトセが私にそんな顔をしたことは今まで一度もなかった。


私はあまりの事に、思わず目をそらせ、自分の席に戻った。


昨日までは何もなかったのに、皆いきなりなんなの?


すぐに思い付いたのはあのSNS。


カバンからスマホを取り出して、昨日のSNSにアクセスする。




映し出された画面に、私は震えが止まらなかった。



私の悪口ばかりが書かれたつぶやきに、数千のいいねがついていた。



その中には、クラスの友達や、中学校で一緒だった友達、


ネットで知り合ったフォロワーまで。


皆がその私の悪口についていいねを共有していた。



「嘘だから!こんなの嘘だから!」



私は立ち上がって思わず叫んだ。


でも、私の叫びが届いた人は、誰一人いなかった。


チトセでさえ、軽蔑の眼差しで私を見ている。



「なんで、皆こんなの信じるの!?嘘に決まってるじゃん!」



私は今にも涙が溢れ出しそうなのを必死にこらえていた。


すると、私の後ろから声がした。


私にしか聞こえないくらい小さな声で、こう呟いた。






「噂話が好きなアンタには、嘘の真実がお似合いでしょ?


皆、本当かどうかなんて、興味がないの。


皆がいいねつけてるんだから、それが真実」






私は怖くて後ろを振り返る事も出来なかった。


きっともう、誰も私の言う事なんて信じてくれない。


スマホの画面には、SNSが表示されている。




嘘を真実に変える、いいねの数を増やし続けて。

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