第18話

 俺と優香の家の間は数十メートルも離れていない。 

 

 あっという間に俺は優香の家の前に着いた。


 悩んでいたときはこの距離が無限のように遠く感じられた。


 そして幸運なことに彼女の両親は居ない。

 

 そしてこれまた幸運なことに玄関は施錠されていた。 


 俺は家の横に回りこむ。 そして優香の家のリビングの窓に拳を叩きつける。 


 痺れるような痛みと共に窓は割れた。


 『俺と彼女を隔てる部分』を一つこうして破壊された。


 割れた隙間から手を入れて鍵を開ける。


 その際に割れたガラスの切り口で腕に傷が出来た。 


 幸い太い血管ではないようでポタリと少しだけ血が垂れるだけだった。 


 致命的な怪我では無い。


 俺と彼女の『間の障害を壊すリスク』としては十分なほどに小さい。


 死ぬほどの怪我を負わなかったことに感謝した。


 そして窓を開けて俺は彼女の家のリビングに入る。


 その際には靴を脱いだ。


 もちろん割れたガラスの上は避けながらだが、一歩先は暗いのでもしかしたら大きいガラスの欠片を踏み抜いて死んでしまうかもしれない。

 

 まったく意味の無い行為だ。 


むしろ『他人から見れば理解できないし馬鹿だと思われる』だろう。

 

 だが俺はあえて靴を脱いだ。


 『どんな状況であろうと礼儀を失わない』ために。 


 そして彼女の部屋に向かいながら声を大にして叫んだ。 


 だが返事は無い。


 だから『彼女』からの『返事を待つことはもう辞めた』


 他人から見れば、『愚かであり』、『理解できない』、『逆効果で』、『嫌われる』ことになるとしても『躊躇なんてしない』。


 ただただ『自分がそうすべきだと思うこと』をするだけだ。


 なぜなら『死んでしまえば同じ』なのだ。 


まったく腹が立つことに『自分自身から湧き出てくる衝動には逆らうことなんて出来ない』のだから……。


 そして俺は『彼女の部屋の扉を開けた』。


 たとえ『その先に絶望しかないとしても俺はそうせざるを得ない』のだから。


 

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