彼女を堕とせ 蜘蛛のように
中田祐三
第1話
「本当に恭介は私が居ないと駄目なんだから」
得意そうな顔で俺に言っていた優香の顔が思い浮かんだ。
当の本人は涙をにじませながら必死で俺のモノをしゃぶり続けている。
初めての経験である以上、仕方ないがただ口の中に含むだけのつまらないものだ。 が、それでも当人は本気でやっているらしく、たまにモノをほおばりながら「ヒモヒイイ?」と聞いてくる。
そこで少し間を空けて、
「ああ……気持いいよ」とだけ答えてやった。
それだけで頭の回る優香はそれが嘘だと気づく。
そこでさらに努力するが、頑張ろうとすればするほどモノが歯に当たり、鈍い痛みとなって俺の顔をゆがませる。
その後、たっぷり15分間程やらせてあげたが当然のことながら射精には至らず。 わざとため息をついて、彼女の口からモノを抜く。
「ご、ごめんね……下手で」
顔を俯かせながら、ためらいがちに言うその姿だけで射精してしまいそうになる。 それを耐え、優しく彼女の頬を撫でてやる。
「大丈夫だよ。初めてだからしょうがないさ、優香は演劇だけ勉強してきたんだからな」
彼女の大きな瞳が動いて潤んでいく。
あえて傷口を優しく痛めつけるこの瞬間。
俺は我慢出来ずパンツの中で射精した。
近藤恭介と瀬能優香は幼馴染だ。 幼、小、中、高とおよそ十年以上一緒に過ごしている。
人見知りだった俺に対して優香は物怖じせず友達も多かった。
幼稚園、小学校のころは良かった。
俺は優香の後ろに常に居て、彼女のオコボレに預かるように遊び、孤立することは無かった。
モジモジと情けなく黙っていると彼女がすぐに来て『本当に恭介は私が居ないと駄目なんだから』と言って手を引っ張っていってくれる。
だから彼女が高校生になって演劇部に入ると聞いたときに自分も迷わずに入部した。
優香は天性の女優だ。 演劇部に入るとすぐに持ち前のリーダーシップと人当たりのよさを発揮して、あっという間に部の中心人物になっていく。
市がやっている演劇コンクールで、市民劇団を打ち破り優勝してしまったのを見たとき、絶望的なまでに自分との差に気づいてしまった。
優香は蝶だ。 美しい羽を広げて大空を美しく飛びあがる。 対して自分は何だ? 美しい蝶の周りを邪魔するように飛ぶ蛾か? それとも地面に這いつくばってただ餌が来るのを待っている蜘蛛なのか?
まぶしいスポットライトの中心、キラキラと光る演劇衣装の優香を緞帳の傍で見ながら……そんなことを考えた。
俺は優香のことが好きなんだろう。 優香がどう思っているのかはどうでもいい。 仮に俺のことが好きだったと仮定しよう。 だが蛾であり蜘蛛である近藤恭介という人間はそれを喜べない。
どうしてかって? あまりにも美しすぎる蝶は蛾の羽の醜さを気づかせ、蜘蛛の巣にかかって動かない蝶はただの置物となってしまうからだ。
だから蛾のように醜く、蜘蛛のように醜悪な俺は彼女を地面に落とすことにした。
まず彼女が使った演劇衣装をはさみで引き裂いてやった。
優香はその場では笑っていたが、俺との帰り道、涙を流して悔しがっていた。
その姿を見てすごく興奮してしまい、誤魔化すのが大変だった。
次に演劇部の部費を少しばかり拝借してやった。 部費を入れている金庫の鍵を優香が担当している……その日に。
騒ぐ部員を顧問の教師と一緒に落ち着かせ、かばんを確認したときの優香の青い顔はとても美しかった。
嬉しいことに優香はかばんの中に部費の一部と思われる金が入っていたことをすぐに相談してくれた。
嬉しかった。 だから俺は今更名乗り出たらかえって疑われると彼女を説得してその金を神社の賽銭箱に捨てさせる。
優香は罪悪感を浮かべ、どうしよう、どうしようと不安そうに俺の制服の裾を握っていた。
後で予定通り匿名の手紙で、部費を盗んだのは瀬能優香と名指しした手紙を学校に届けてあげた。
後は簡単だ。 一度嫌われてしまえば密かに優香に反感を持っていた部員達を中心にどんどん孤立していく。
たまに優香に好意を持った男が声をかけてきたが、そこはうまく幼馴染としての信頼を使って優香から離れさせるように仕向けてやった。
そして優香は蝶では無くなった。おどおどと何かに恐れるように人と話すようになって、それでも反発され、最後に残った俺との絆をまるでそれが無くなってしまったら死んでしまうかのようにすがりつく。
優香はすでに俺以下の存在へと成り果てていた。
立場が逆転した俺は安心して優香に愛の告白をする。 孤独で追い詰められていたのか、それとも元々好意を持っていてくれたのか、嬉しそうに笑いながらOKをくれる。
それは久しぶりに見る笑顔だった。
彼女は孤独で、醜い蛾以上に嫌われ、地面に這いつくばりながら、木の枝に巣をかける蜘蛛を見上げるイモムシのような存在になった。
俺は満足だ。 これで優香を安心して愛せることが出来る。
フェラチオの失敗を気に病み、まだ生々しく残っている傷にツメを立てられた優香の潤む瞳、そこに微笑を浮かべた自分を写し、優しく抱きしめながら耳元で、
「本当に優香は俺が居ないと駄目なんだな」
そう囁くと彼女は「うん、そうなの」とホッとしたように肯定してくれた。
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