復讐戦
≡≡≡≡≡≡≡
「前方に次元峡層を探知!」
「各艦、回避行動!」
中継衛星から次元転移機構による直接的な攻撃に切り替えられたリフレクター・バスターが最初に狙ったのは、シトレが率いる8番艦隊である。
旗艦である[シュタットレイ]からは外れたコースだったが、それは8番艦隊の中枢と言える衛航艦が多く配備されていた地点に直撃した。
そこからオラフ29に強力な重力場が形成され、艦隊の盾を担う衛航艦が多数飲み込まれてしまった。
「くっ……!」
タルギア亡き今、艦隊の盾として機能する衛航艦は重要な戦力だった。
シトレはその豊富な実戦経験を見込まれ、多くの衛航艦を8番艦隊に配備されていた。
無人艦のため人的被害はなかったものの、衛航艦の損失は非常に大きい。とくに、次元転移機構による奇襲攻撃が可能な場合、重力場形成前に光線を止められる存在が削り取られてしまった。
不甲斐なさに歯ぎしりするシトレ。
艦隊の7割を構成していた衛航艦を失った8番艦隊。
中継衛星を用いた光線兵器を曲げる攻撃だったことまでは判明していた。
ルギアスの愛艦で、初代ルギアス艦隊旗艦であった[バルグレアス]が、それと似た原理を用いた、光学兵器を反射させるというほぼ無敵の装甲と言えた[ミラーリング装甲]を有していた。
だから、曲げる手段は限られる光線から、リフレクター・バスターのカラクリに即座に当たりをつけることができた。
正体不明のバラフミアの指令コートが宙域に発信されたことで確信を得たガルフの命令により、デブリごと紛れ込んでいる敵の衛星の破壊を敢行。
攻撃手段の封殺に成功し、飛来した光線は明後日の方向に飛んで行った。
だが、今度は次元転移を用いた攻撃をしてきた。
何者かは知らないが、アストルヒィアから得た技術を次々に応用している敵の司令官は侮れない。
衛航艦を失った結果として、それが軍帥なきルギアス艦隊に突きつけられる形となった。
『諦めるのは早い!』
その時、ガルフの回線がシトレの8番艦隊に届く。
伊達にレギオとともに父の教えを受けていたわけではない。
かの偉大な軍帥の教えは、しっかりと教え子たちに伝わっていた。
『逆境は好機だ! 次元転移座標を逆探知しろ! 敵の位置が炙り出せる!』
「……そうか!」
ガルフの言葉に、シトレも立ち直る。
中継衛星の信号は各衛星が全方位に命令コードを発信していたために、逆探知による索敵ができなかった。
それにより敵の位置は把握していない。
だが、次元転移座標の逆探知ならば、クラルデンが可能としている。
あらゆる戦術の対応策は、先人と歴史に記されているもの。打破の一手は、戦場を知る過去の偉人に習うべし。
ルギアスの教えの1つで、レギオも旨としていた方針。
奇策や新たな戦術は、使えなければ意味がない。
それよりも、先人が実用性を示してくれた常道に則ってこそ、将である。
「逆探知!」
シトレはすぐに指示を出す。
それはルギアス艦隊全体が敵に位置を知られるのも構わずに行う。
そして、見つけた。
『あった!』
リフレクター・バスターの発射地点を見つけたのは、ニコルが率いる3番艦隊である。
レギオの敵討ちにとくに燃えているニコルは、すぐに解析した座標を艦隊に掲示する。
「でかした!」
『直ぐに向かうぞ!』
いつ、次弾が飛来するか分からない。
座標データを受け取ったルギアス艦隊の各艦艇は、即座に空間跳躍の準備に入る。
『一番槍、貰うから!』
戦士の誉れである一番槍。
その権利は、最初に座標の逆探知を果たした3番艦隊が得た。
『ぶっ潰してやる!』
レギオに似て普段は物静かなニコルは、そんないつもの様子とはかけ離れた声を出し、空間跳躍の陣に入る。
3番艦隊を先頭に、随時空間跳躍に入っていくルギアス艦隊。
ガルフ自身、この状況で無理に指揮を執ろうとは思っていない。
数においてバラフミアの艦隊を上回っており、兵の士気は旺盛で、軍帥の仇を取るという1つの目的に向かって一致団結しているならば、個々の艦長の指揮に任せることが、今のルギアス艦隊の能力を最大に発揮するものと判断したからである。
シトレもまた、ガルフの判断の意図を即座に理解して、8番艦隊の残存艦艇に命令を飛ばす。
「貴様ら、各々の思いのままに戦え! クラルデンに勝利を!」
オラフ26、オラフ29に集結していたルギアス艦隊は、タルギアと彼らを率いた軍帥の仇を討つべく、カミラース星系第2惑星である[メッザニア]へと空間跳躍を敢行した。
≡≡≡≡≡≡≡
メッザニアに展開していたデーヴィットの率いる艦隊は、ルギアス艦隊が逆探知を終えたことなど分からぬまま、冷却シークエンスに入ったリフレクター・バスターの再充填作業に取り掛かっていた。
分からないというより、そんなことはないと考えていたのだろう。
その決め付けは傲慢と言わざるおえない。
戦場に絶対はない。
それは、時代がどれほど過ぎようとも変わらない、戦場の常識である。
「ククク……所詮知性の欠片もない野蛮人ども、このリフレクター・バスターの前に手も足も出ないだろう。ハハハ!」
勝利を確信し、笑い声をあげるデーヴィット。
だが、その慢心が命取りとなる。
リフレクター・バスターの冷却シークエンスが終わらない中、その反応は突然現れた。
「ん……?」
最初に気づいたのは、オペレーターである。
周囲に空間の歪みが多数発生した。
「空間が歪んでいる……? どういうことだ?」
空間が歪み、別の空間との接続点となる回廊が形成されるのは、クラルデンのテレポート航法である[空間跳躍]の前兆である。
しかし、敵に見つかっていないはずという過信が、バラフミア軍の目を曇らせ現実を否定させた。
「何だ?」
2つの空間をつなぐ、無限でありゼロである距離を持つ回廊。
それが形成され、円形に広がる。
空間の歪みが回廊の出口という形を持ち、確認できる状態になったところで、デーヴィットもその事態に気づく。
「空間が歪んでいます」
オペレーターも空間跳躍の予兆などとは考えていなかったため、見たままを報告する。
しかし、ワームホールを利用するフォトンラーフの航跡に似ていなくもない現象のため、クラルデンの空間跳躍という可能性を完全に無視していたデーヴィットは味方の艦艇によるものだと考えた。
「増援か……? シェグドアの奴、何を考えていやがる?」
シェグドアは、カミラース星系に集結している艦隊の1つ、第5惑星[レステネー]の軌道に展開している艦隊の司令官である。
カミラース星系に集結している艦隊は、アルフォンスが総司令官であるが、4つの艦隊の共同戦線という体制をとっており、その各艦隊司令たちは階級的には同格であった。
その上、この艦隊司令たちは結束も統制もなっておらず、己の考えに則り好き勝手に動いていた。
総司令官であるアルフォンスは古代兵器を入手することしか考えておらず、デーヴィットにオリフィードの遺跡調査からわざと外す配置を命じて艦隊内に亀裂を生じさせるという愚行を犯している。
デーヴィットは権力闘争にのめり込んでいたためにライバルであるアルフォンスを快く思っておらず、その上オリフィードの遺跡調査から外されて[メッザニア]に送られたために遺跡調査を無視して身勝手な行動を取り、アルフォンスの艦隊が壊滅したというのに救援要請を無視して攻撃を加えた。
第6惑星[ハデラント]の駐留艦隊司令であるマクスウェルは、アルフォンスにもデーヴィットにもつかず、それにより両者の不興を買ったことで、アストルヒィアから奪った艦艇が主力の艦隊を押し付けられ、外惑星系調査を名目に完全な貧乏くじを引かされた。それに腹を立てたのか、他の艦隊との連携は完全に無視している形となっている。
そしてもう1人の艦隊司令であるシェグドアは、アルフォンスにもデーヴィットにも媚び諂っている、保身欲の塊のような男である。そのため外惑星系との境界となる宙域に展開し、まるで対立するマクスウェルを牽制するような役割を担っていた。
クラルデンが派遣してきたルギアス艦隊と比べ、ただでさえ総艦艇数において劣っているバラフミア軍は、指揮系統もずさんで連携のなっていないという、その実情はあまりにもひどい艦隊だった。
結局のところ、艦隊司令同士で対立しているバラフミア軍は、軍帥であるレギオを頂点に据えた明確な指揮系統を持ち、艦隊同士をライバルとみなすクラルデンにありがちな風習も見られない堅い結束で結ばれているルギアス艦隊とは、正面からぶつかれば勝ち目のない烏合の衆であった。
そして、デーヴィットはクラルデンの技術、戦術を全く見ようとしなかった。トランテス人を野蛮人と見下し、バラフミア王朝の支配階級であるオルメアス人の優位性を過信して、勝手に相手の格を決めつけていた。
確かにリフレクター・バスターを用いてタルギアを倒したのはデーヴィットの指揮によるものである。
しかし、フォトンラーフとは似ても似つかない空間跳躍の航跡を、艦隊の所在がトランテス人ごときに発見できるはずがないと高をくくっており、現実を見ようとしなかった。
だが、そんなこと、ルギアス艦隊にとっては知ったことではない。
彼らにとってデーヴィットの率いる艦隊は、彼らの標であり尊敬に値する伝説の将帥を祖父に持つ軍帥の仇である。
回廊から、次々に煙を突っ切り回転して出てくる艦隊。
3番艦隊を先頭としたルギアス艦隊は、次々にメッザニアの宙にその姿を現し、出てきた艦艇から先制攻撃で迎撃体制など整えていなかったデーヴィットの率いる艦隊に攻撃を開始した。
「て、敵襲! クラルデン艦艇多数出現!」
デーヴィットの率いるバラフミア艦隊にとって、その敵襲は完全な想定外だった。
「あ゛!?」
野蛮人と見下すトランテス人に奇襲を受けた事実に、苛立ちをあらわにするデーヴィット。
舌打ちをし、すぐに命令を出す。
「野蛮人のあてずっぽうな空間跳躍だろ! 敵は少数だ、数で圧倒して踏み潰せ!」
慢心と決めつけからくる油断により、バラフミア軍が完全な後手に周り開かれた戦端。
レギオが指揮する艦隊では決して許さない、ルギアス艦隊の復讐戦が幕をあげる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます