赤い靴のアイドル

音水薫

第1話

 テレビ画面では、三人のアイドルが歌い踊っていた。記録媒体がビデオテープということもあり、画質は粗いものだった。それでも、三人それぞれにある赤、青、黄色のイメージカラーに合わせた衣装の違いを見分けることができた。なかでも一際目立っていたのは、赤をイメージカラーとしていた少女、マナミだった。白いジャケットの袖やネクタイ、ミニスカートの裾に赤をあしらい、ほかのメンバーとお揃いの衣装を着ていたが、彼女だけ靴が違っていた。ほかの子は靴ひもと靴底を自分たちの色で染めた白い靴だったが、マナミだけはエナメルの光沢が眩しい真っ赤なダンス靴だった。彼女が足を振り上げるたび、鮮やかな靴が描く赤い軌跡が人々を魅了した。

 そして、その輝きは世代を超えてなお人を惹きつけた。

 五歳の少女、カレンもそのひとりであった。両手でアイスココアに満ちたコップを持ち、ミネコの膝の間に座って一七年も前のビデオを繰り返し見ていた。カレンを抱っこして同じ画面を見ていたミネコも飽くほどその映像見ていたはずなのに、あくびひとつすることなくアイドルたちの踊りをひとつひとつ目で追っていた。

 カレンたちのうしろ、リビングの入口近くにある電話台の上には電話と並ぶように、ひと組の赤い靴が置かれていた。靴には細かい傷がいくつもあり、靴底も少しばかり剥げていた。いくつもの過酷なステージをこなしてきたことが容易に想像できる一品だった。そのとき、この靴の持ち主であるマナミはキッチンで皿洗いをしながら、ビデオに夢中になっている娘とその友人の背中を眺めて微笑んでいた。

 カレンがミネコの肩ごしに振り返った。微笑んでいるその人と目が合うと、カレンはさっと目をそらして恥ずかしそうにうつむいた。けれど、その口元は嬉しさを隠しきれないようだった。

 そして、時は流れて一二年。

「カレン、行くぞ」

 リョウに声をかけられ、カレンは目を覚ましたように顔を上げた。リョウはカレンに向かって手招きしたあと、ポニーテールを揺らしながら舞台に向かって走っていった。舞台の中心にはすでにハナヨがいて、観客に向かって手を振っていた。サイリウムを振る観客の歓声を聞きながら、カレンはマイクを両手で強く握り締め、リョウに続いて舞台のほうに駆け出した。

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