探し物はなんですか

カゲトモ

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「こんばんは」

 夜も更けて来た頃、控えめに扉を開けて来店したのは見たことのある女性だった。誰だっけ? 名前が思い出せないけど、顔は知ってる。確か、男性と一緒に来ていたような。誰かの彼女だっけ?

「こちらへどうぞ」

「ありがとうございます」

 ぺこり、と頭を下げてスツールに腰かける。どこか自信なさげな彼女は視線をゆっくりあげて目を見て言った。

「すみません、注文、いいですか」

「はい、どうぞ」

 営業スマイルでにっこりと返すと、彼女は一旦噤んでから躊躇いがちに口を開いた。

「あの、実はお酒の名前が分からなくて」

 おっけー。だいたいバー慣れしてない人は普通そうだから何も気にしないで。

「それでは一緒にそのお酒を探していきましょう。そのお酒の色はどんな色ですか?」

「えっと、赤色、です」

「それは強いお酒ですか? それとも弱いですか?」

「ん・・・えーっと、そんなには強くない・・・かなと思います」

 なるほど、分からないってことね。

「それでは味や香りはどうでしょう? 何かフルーツを使っていましたか?」

「リンゴ! リンゴです!」

 両手をカウンターにつけて前のめりに言う。ここで初めて一番大きなリアクションが来た。リンゴの味のカクテルか」

「あとバラです、バラ」

「バラ、ですか」

 リンゴでバラ・・・って。あれ、もしかして?

「もしかして」

 彼女の細い指にはバラの透かしが入ったピンクゴールドの指輪がはめられていた。

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