第四話 親友
― 王国歴1025年-1027年
― サンレオナール王都、王国南部ボション男爵領
ビアンカは学院に入ってからというもの、その可愛らしい容貌と純粋な性格で男子学生の間で人気があった。本人は付き合ってくれと言われてもその気は全然なく、如何に相手を傷つけないように断るか骨を折っていた。
アメリに言わせると、軽い気持ちで試しに付き合ってみれば良い、これも人生経験のうちだとのことだった。
「しょうがないわよね。そんな割り切れないよね、ビアンカは。でも可愛い子はもてるのよね。守ってあげたいと勘違いしちゃうから、男子も」
アメリは男性に対して容赦ない。
「そうだ、眼鏡でもかけて、髪はいつもきっちりまとめてみる? だいたいね、男なんて外見に騙されるから見た目が地味だとまず声かけてこないわよ。
「そうしてみようかしら。でも眼鏡なんて高そうじゃない?」
「そんなことないと思うけど。早速今度の休みに街で見てみましょうよ」
こうしてビアンカはただの薄いガラスが入った眼鏡をかけるようになり、男子からのちょっかいもかなり減って快適に学院生活を送れるようになった。この眼鏡は職についてからもしばらく長いことかけ続けることになるのだった。
力による肌と髪と眼の変幻と共に、眼鏡も彼女を守るいわば鎧のようなものだった。
ビアンカが学院に入って初めての夏休みが近づいていた。アメリの実家、デジャルダン家は王都に屋敷があるらしかった。しかし、アメリは宿舎から学院に通っていて長い休みにも家には帰っていなかった。
学院で共同生活をするうちにアメリとはどんどん絆を深めていったビアンカだが、やはり自分の不思議な力のことは彼女にも言えずにいた。
しかし、夏休みのある日にアメリが宿舎の調理場で誤って深い怪我を負ってしまったことから、力のことを知られてしまう。長い休み中は宿舎の食堂も閉まるので、食事は外で食べるか自炊となる。
医者に診てもらう大金を払うのは嫌だ、自然に治るだろうと言い張るアメリを見兼ねたビアンカが自ら力を使ったのだ。
「まあビアンカ、こんな魔術なんて見たことも聞いたことさえもないわ」
「アメリ、お願い。誰にも言わないで。私のこの能力、魔術かどうかも分からないし小さい頃から家族しか知らないことなの」
「もちろんよ。私のこんなひどい傷をすっかり治療してもらったのですもの。その力でお金儲けとか考えずに隠しておこうというのは正しいと思うわよ」
次の夏休みはボション男爵夫妻のたってのすすめで、ビアンカはアメリも一緒に懐かしい故郷に帰省した。
なにしろ乗合馬車でまる一日かかる距離なので旅費も馬鹿にならない。ビアンカ自身も王都に出てきて以来、初めての帰省である。
「私の旅費は心配しないで。少しは蓄えもあるし、何とかなるから。滞在中はずっとお世話になるのだし」
アメリもそう言い、どうしてもビアンカの家族に馬車代を出させてくれなかった。
一ヶ月の帰省の間、アメリは親友の実家で家族の一員の様に過ごし、王都に帰る際には彼女の方がビアンカよりも別れが辛くて号泣していた。ビアンカはアメリを連れてきて本当に良かったと思った。
人生はお金に貴族の位がものを言う、プライドだけじゃお腹は満たされないわよ、というのが口癖のアメリである。実は家族愛に飢えていることはビアンカにはお見通しなのだ。
帰りの乗合馬車の中でアメリはビアンカが養女であることを妹達から聞かされたと話した。
「私思わず言っちゃった、『あなた達三人は良く似ているのに。』と。そしたらセドリックが教えてくれたのよ、養女の件は別に秘密でも何でもなくて領地中が知っていることだって。水臭いわね、ビアンカ」
ビアンカは自分たちの周りに聞こえないようにこっそり教えた。
「実を言うと本当は私家族とはもっと似てないのよ。肌は真っ白で髪は明るい金髪、眼は灰色なのだけど領地で目立ちたくないから小さい頃に力で今の姿に変えたの。王都ではそうでもないけどね、やっぱり地味なこの姿の方に慣れているから。はい、これが私のもう一つの秘密よ」
「まあ、もう他にはこのアメリさまに隠していることないでしょうね」
「ないと思うけど」
しかし、ビアンカもジャン=クロード・テネーブル卿に憧れ続けていることをアメリにまだ言っていなかった。
パレードの日以来アメリは薄々気づいていたのだった。時々夜中にビアンカが夢を見ながら涙を流し、うわ言を言っていることも彼女は知っている。
手の届かない相手に対してあまりに健気すぎるビアンカをアメリもそっと見守ることしか出来なかった。
そして学院の新学期が始まり、再び勉学に励む二人であった。季節は移り、以前アメリの言っていた通り二人とも晴れて王宮に職を得た。アメリは王妃付き、少し遅れてビアンカは王太子付きの侍女としてである。
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