この世界の何処かに 王国物語1

合間 妹子

出会い

序話 覚醒

― 王国歴1008年4月


― サンレオナール王都



「お気づきになられたようですな。ご気分は如何かな?」


 ベッドに横たわる少年にフォルタンは尋ねた。


「あっ、つぅ。ええと、僕は一体?」


「横になったままでよろしいですよ。ジャン=クロード坊ちゃまは三日間眠り続けておいででした。ご家族とピクニックに行かれた時の事は覚えておられますか?」




 さかのぼること三日前、ジャン=クロード少年は両親の公爵夫妻と従兄弟たちと領地の原っぱに出かけていた。


 そこで急に頭痛がすると言い出しそのまま意識を失ってしまったのである。


 その場に居た従妹のミラによると、父親が乗ってきた馬の背中にまたがり、ミラに競争を仕掛けそのまま駆け出した途端に落馬したとのことであった。



「私はてっきりクロードがふざけてわざと落馬したのかと思ったのよ! だって前もいたずらで使った手口なのですもの。それでも駆け寄ってみると頭を抱えて苦しんでいて、クロードの頭の上から空高く真っ黒な雲がもくもく湧き上がってきたらいきなりすごい音がして黒い雷が街の方へ落ちたの!」



 半泣き状態のミラは王都の南端の方を指差した。そして続けた。


「怖くなって目をギュッとつむっていたんだけど、しばらくして目を開けるともうクロードは気を失っていて、黒いものはすっかり消えてしまっていたわ」


 以上が軽くパニックに陥っていたミラによる証言である。家族や従者たちの中にも暗雲と雷を見たものもいたが、一体全体何が起きたのか誰も把握できていなかった。


 しかし、意識がないだけで他に異常を発見できなかった医師はその話を聞くとすぐに王宮魔術師を呼ぶようにと公爵夫妻に進言したのだった。


「では、病ではなく呪いか災いの術の類と先生は思われるのですか?」


「断言はできませんが、その可能性が高いでしょう」




 そこで呼ばれたのが王宮魔術院副総裁のブリューノ・フォルタンであった。フォルタンはベッドに寝かされているクロードを診た後にミラの話を聞くとしばらく考え込み口を開いた。



「クロード様はしばらくして、おそらく数日はかかると思われますが、意識も戻られることでしょう。魔力は持ってお生まれにならなかったとのことですが、代々優秀な魔術師を排出してきたテネーブル家のご子息です。御年九歳にして魔術師として覚醒されたのですよ」



 フォルタンの言う通り、魔術師は二、三世代に一人はテネーブルの家系に現れている。



「それも百年に一度王国に現れるかどうかという大きな魔力を手にされました。魔力をほとんど持たない八歳のミラ様だけでなく、複数名が黒雲に稲妻を目撃したしたという事はクロード様に備わっている力は莫大なものと容易に想像できます。目を覚まされたら改めてお呼び下さいますよう。ご本人には私からお話しましょう」



 フォルタンは心の中で神に感謝していた。


 彼が生きているうちにここまでの魔力を持つ者が目の前に現れるとは、かなりの幸運であるということが分かっていたからである。


 そして、王国の歴史書によると大魔術師覚醒の稲妻が走った場所ではクロードと表裏一体である『片割れ』の白魔術師が誕生した可能性も大きいという事だった。フォルタンは稀有な白魔術までこの目で見られるかもしれないという期待を持った。




 これが王国の歴史に名を残す魔術師ジャン=クロード・テネーブルが魔力を手にし、覚醒した経緯である。そして運命の歯車は少しずつ回りだしていた。



***ひとこと***

クロードが大魔術師として覚醒したのは子供の時でした。時は流れクロードやミラが大人になってから物語は大きく動き出します。

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