第34話 遁げる

「あーもう!どうしていっつもジョーカーを取ってくれないの!?」


「顔に書いてるわよ?こっちがジョーカーですって。これじゃあ何を考えてもお見通しよ」


小々波と穏やかな風が船を少し揺らす心地の良いこの場所で、二人はトランプでババ抜きを興じていた。

サーバルは連続で何度も負けているせいか頰を膨らまし、ムムッとした不機嫌な顔をしている。対するカラカルはそんなサーバルの仕草一つ一つが面白く、ニヤニヤしている。

何とかしてこの状況を打破しようと考えたサーバルだったが、何も思いつけなかったので気分転換に遠くにある故郷を見た。


「園長の話だとあそこにはもう別のフレンズが居るんだよね?」


「そう言ってたわね。……という事はサーバルが二人ってこともあり得るわけね。ふふふふふ…」


「私が二人かぁ、どんな子なのかな?」


「きっとあんたに似ておっちょこちょいでドジでトラブルメーカーな可愛い子よ」


「最後の以外は聞かなかったことにしておくよ」


「……キョウシュウに帰ったら何する?」


「私はね、まずあそこに居るフレンズ達とトモダチになりたいな!きっと楽しいことばっかりだよ!」


「そうね……」


カラカルは神妙な面持ちでただ遠くに見えるキョウシュウを見ていた。

かつて自分の全てを、友達、親友、思い出、輝き、全てを奪おうとしたあの恐ろしい敵が居るのだと思うと、カラカルは次第にあそこには帰りたくないと思うようになっていた。

ーー例え封印されたといえど、未だ完全な解決には至っていないのだから。


「ねぇ、サーバル」


「なに?」


「もし、キョウシュウに戻ったら…」


その時、奇妙な事が起きた。

突如海底の方、ーー園長達が潜っていった方からズシンと、鈍い轟音が響いて来る。

その音を聞いたサーバルとカラカルは思わず立ち上がり、海面を見つめた。


「…………、今の音ってなんだろう?」


「わからないわ。それにしても凄い音ね、まるで海底で大きなものが動いてるような…」


「沈没船が動いてたり!」


「まさか」


しばらく眺める猫二人。

……みんなは無事だろうか

二人の心配は海の底に届く事はない。





ああ、なんて事だ。この船自体がセルリアンだったのか…!

後悔しても既に遅く、園長達は沈没船の中に閉じ込められてしまった。更に何処からともなく何かの唸り声のような、巨大な物が動くような音が聞こえてきた。

すぐに園長が発炎筒を使う。パシュッと特徴的な音を鳴らせばすぐに赤い炎の光が周囲を照らし出す。視界を確保するとそこには大量の魚型のセルリアンが蠢いていた。見た目は全体的にまるく、かわいらしいものだが舐めていては輝きを奪われてしまうだろう。

マルカ達は既に戦闘状態に入っている。

園長は周りを確認すると、出口が見えないことに気づく。この部屋から出る術がないのだ。とはいえ諦めるわけにはいかない。このセルリアン達が送り込まれたという事は、この船のセルリアンがどこかに道を開けたという事だ。それを探し出せば…

突然パシッと掴まれる右腕。見れば細く、白い腕の向こうにはナルカの姿があった。それと同時に発炎筒の明かりが消える。再び何も見えなくなる。

冷たい水とベチベチと直撃してくる魚のセルリアン。そして柔らかく、暖かな手の感触だけが園長が感じられる触感だ。

腕が引っ張られると、それに従って園長は体を動かしてそこに居るであろうナルカに着いていく。長い静寂の後、ドゴン!と、大きな音が鳴ったと思えばその音が鳴った方向へ急激に腕を引っ張られて猛スピードで水の中を通過していく。そして止まった。

園長はすぐにもう一本の発炎筒をつけて光を出すと、自分用のライトを点けて周辺の調査を始めた。

そこは通路だ。先ほど泳ぎ抜けた場所を見れば槍を振り回し次々とセルリアンを捌いていくイッカクと圧倒的なパワーで正面のセルリアンを粉砕していくシロナガスクジラの姿が見えた。そして、マルカとドルカが園長を守るような位置について居る。廊下の突き当たりの方を見ればナルカが目を閉じて何かを探すように泳ぎ回っていた。

廊下の先には壁があり、先ほどの大量のセルリアンがいた場所以外に何処かへ移動できるような経路はなさそうだが…

園長はふと疑問に思い、考えた。

…この廊下はどうやって見つけたのだろう。ここへ入るための入り口はどこにも見当たらなかった。

つまりこの廊下へ入るための入り口を作ったという事になる。先ほどの大きな音はシロナガスクジラがそれをこじ開けた音なのだろう。

そしてどうやってこの廊下を探し当てたか、それは恐らくドルカがエコーロケーションを使って探し当てたのではないかと。


となると、ドルカが次の逃げ道を探し当てる間、みんなが出来る限り戦いやすいようにこのライトでみんなの視界を確保しなければならない。

園長はなるべく光が全体に行き届くように、ライトを持って動き始めた。

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