テレフォンオペレーター宇宙人グレイ

トヨジルシ

第1話

 20✖︎✖︎年近未来

 地球は次の丙午の年まで数年をきっていた。


 朝、職場に着いた私は銀色の小さな卵を取り出し床へ投げつけた。地球における宇宙人の舌、本日のスペース・カカポを出現させたというわけだ。カカポは飛べない鳥、しかしその会話能力はどんなベテランアナウンサーもかなわない。すばらしい滑舌の良さをもつ。ただテレパスにしか使えないのが面倒なところであった。話したい内容を明確にイメージし、言わばカカポ語へ変換してこの可愛い鈍重な小鳥の脳へ送ってやる必要がある。そのせいで私は父が死ぬまで地球人とスムーズに会話を行うことができなかった。

「グエエ!」孵化したカカポが目覚める。私は地球のカカポに改良を重ね、感能力と環境適応能力を高めることに成功していた。結果短命となったのは残念なことであるが、スペース・カカポは一個体にして全体、一羽の魂と記憶は種族全体に共有される。この鳥の力を借りなければ流暢に話せない私も会話の必要が生じれば卵を取り出し割るだけで、今日のカカポが現れるという簡便さだった。


 生まれてすぐのスペース・カカポは腹を空かせている。用意してあった果物を与え機嫌をとると、ふんふん鼻を鳴らしバナナ、みかん、缶詰の桃を平らげ大人しく肩へ乗ってきた。太った大きな鳥は小柄な私には支えきれないほどの重量があったが念力で負担は軽減できる。子泣き爺のようなカカポがいないと私に仕事はない。さあ、始業だ。


 私の名はグレイ。通称だが見た目から来たこの名を気に入っている。生まれは地球。いわゆる西暦1966年丙午の生まれ。私の肌は透明感のある灰。目は大きく漆黒。体毛はほどんど生えておらず長く醜いものは一本もない。この美しい生き物である自分がなぜこの地球の、日本、小さな東京という土地で派遣社員生活を送らねばならないのか。順を追って説明したい。


 私の父は生粋の宇宙人である。本星より地球へ探索に寄越されたまではよかったが例によって宇宙船の故障、墜落、大けが、助けてもらった地球人女性との恋、性行、妊娠、出産、子の成長、負った傷の根本的な治療は進んだ星の科学力をもっても如何ともし難く苦肉の策で脳の摘出、培養液の中で生き延び、地底深く隠した壊れた宇宙船の中でわずかに話せる存在として暮らし、私はその愛娘であった。

 地上では祖父母、母に愛され近所の公立小学校へ通う平凡な子ども時代を送ったが地下では違った。小学校高学年にもなると脳だけになった父から毎夜呼ばれ、宇宙人としての最低限の教養を教え込まれた。そして反抗期。呼び出しに応じない日々。私には父より学校の友だち、先生、そして地上の家族との生活が大事であった。


 ある日のことだ。校庭でクラスメイトとオベントウを食べていると頭の中に強いテレパシーを感知。猛烈な生への渇望を感じ、声が聞こえた。と共に瞬間的に父の死を知り、前存在の死によって我が身に超能力が受け継がれたのを感じたのだった。なんということだ。しかも前代の死に備えるという準備を怠っていた私は最悪の事態を迎えることになる。見かけはほぼ生まれたままの父の姿そのものであった私は、中身は地球人、外見は宇宙人というなんとも中途半端存在となってしまった。しかも超能力者!!どうなるのこれ!?

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