二人で逃げよう(カクヨム版)
久保田愉也
第1話
さぁ、二人で逃げよう
君は、真正面から、この問題に立ち向かうだろう
抱き合うこともなぐり合うこともできる
それでも君が選ばなければならないのは、僕と逃げる道だ
気の強い君は言ったね
僕は、戦うことをやめた口だけの人間だって
僕はなぐり合うことも抱き合うこともしない
ただの傍観者かもしれない
君とはちがって
でも、二人で逃げよう
君は僕さえいなければ、立ち向かうだろう
君は僕の伸ばした手をつかまないかもしれない
それでも君が選ばなければならないのは、僕と逃げる道だ
強がりな君は言ったね
私は、戦わなければならないって
それでも君が選ばなければならないのは、僕と逃げる道だ
これだけは誓うよ
僕は命の限り、君と生きる
それが僕等の心意気だろう
あの日、
初めて会ったあの日から気付いていた
ありきたりな言葉かもしれないけれど
君が僕の特別だって
だから、二人で逃げよう
僕は命の限り、君と生きる
最後に交わしたのは、シェイクハンドだった。沈んでいく太陽を眺めていた時も、昇ってくる太陽を見ていたときも、二人でいた。刹那の間だったけど。最初に交わしたのも、シェイクハンドだった。
最初のシェイクハンドは右手のシェイクハンド。
最後のシェイクハンドは左手の、別れのシェイクハンド。
「シェイクハンドプリーズ」
そう言って、手を差し伸べたのは、あどけない小さな君。腰まで伸びる長い黒髪が、窓から差し込む光に反射して天使の輪をつくっていた。とても綺麗な女の子だと僕は思った。
そして、差し伸べられた手を掴んで、覚束ない英語で答えた。
「ナイストゥミーチュー」
君は、黒髪の天使の輪のように眩しい笑顔で言うのだった。
「ナイストゥミーチュー・ツー」
合っているのか、間違っているのか分からない英語での会話。この国の小学校で習う最初の英会話のようだ。この国で生まれ育った君。外国で生まれ、外国の血の流れる、君とは見た目が違う僕。そんな僕と話すには、英語が必要だと思ったのだろう。だけど、僕の方も英語は外国語だった。僕の生まれた国で使う言葉は、英語とも日本語とも違っていた。
それも、もう、できるなら思い出したくないものであるが。
ナイストゥミーチューは、あなたに会えて光栄に思います、で合っていただろうか。
まさに、そうだった。僕は君に出会えて光栄に思う。最初に伝えることができたことに、何にでもないが、感謝する。
黛あかつき、彼女は美しく強く、撫子のように可憐で儚く、氷のように冷たく鋭く、太陽のようにいつも僕を照らし出す。
僕の名前は、明王寺フレデリック太。
この名前は、今の父親から授かった名前だ。それまでの名前は、思い出したくない。確か、祖父と父の名前を受け継いでいたようだ。そして普段呼ばれていた名は、忠実という意味を持つ名前だった。しかし、どうしてその名前を付けられたのか、その由来もよく覚えていないものであり。
あの国を出た時、僕は自分の名前を捨てた。新しく生まれ変われるように。そう願って。
明王寺太。よく、名字が太なのですか?と聞かれるが、明王寺が名字だ。父の明王寺大栄から受け継いだ大切な僕の名字。太は、父・大栄がつけてくれた名前。大栄の大に一つ点をつけて字を成長させた、と聞いている。そして、太く、大きく、強く育つようにとつけられた名前だ。ミドルネームのフレデリックは、国際的な場でも通用するようにとつけられたものだ。
ただ、僕自身は、全く不満はないのだが、太という名前は、この国で暮らすようになってからずいぶんとある性格を持った奴らに目をつけられた。
「お前、太って、本当の名前なの。笑えるんですけど」
「本当の名前は違うんじゃない。太っていうよりか、細黒だし」
「本名は、細・黒しなんじゃない」
「それ、ナイス。まさにぴったり合っているな」
小学校からの下校中、高架下に流れる小川の河川敷に連れ出され、僕は四方を囲まれていた。
僕は、初めてこの小学校に来た日、さっそく俗に言ういじめっこという奴らに絡まれていた。
僕の見た目と名前が珍しかったのだろう。面白おかしくはやし立てた。
何か理由があってのことだと思っていたが、どうも、何の理由もないようだ。誰かの特徴を炙り出して、どうしてもいじり倒したい人間というものがこの世界にはいるらしい。
肩を押され、また肩を押され、僕がつまずくまでそれは繰り返された。
僕は、この時、僕がこうしていじられていることに覚えがあった。僕の生まれ育った国のせいだと思った。なぜなら、あの国は、戦争を起こした世界で悪名高い反逆者と悪政を行う国の長がいて、その国のイメージが、今この日本という国で悪者だということにされていると。
この容姿であの国の出身というだけで理由もなく悪い者だというレッテルを貼っているのだと思ったからだ。そして、僕自身も、この目の前にいる子供が知ったなら、
悪者だと言って嫌な顔をするだけのことをしてきた人間だ。
父さんは、今の僕のこの状態を見て何というだろう。
これは、しかたない事なのだ。例えどんな仕打ちを受けたとしても、甘んじて受けるしかないのだ。
そう言うのだろうか。
それとも、君が容姿やあの国の出身だという理由だけで耐えがたい仕打ちを受けるのなら、やり返してやればいい。君が、銃をその手に敵を打ったように、彼らを殺しても構わない、と、そう言うだろうか。
きっと、父さんはそんなことは望んでいない。僕は、全てを活かすようにここに存在する者。
君に全権を任せる。君自身のことなら、君の望むようにすればいい。君は自由だ。どこにでも行けるし、なんにでもなれるのだから。
父さんならきっとそう言うだろう。
僕は、彼らに事細かに僕の生い立ちについて話すこともできるし、僕の体は彼らより欠けていることについて説得して彼らの同情をかうこともできる。彼らより体格のある僕が体を使って抵抗したなら、彼らは負けることになる。何かアクションを起こせば、上手くいく自信はあった。
しかし、僕は、ただ黙って何もしなかった。
それが一番良い方法だとは思わなかったが、そうすることを僕は選んだ。何も選ばない。
それが僕の答えだ。
ただ黙って、朴念仁のように無口を演じた。尻尾を振って取り入ることも、恐怖で脅しをかけることもできたが、何もしなかった。
「何こいつ。黙ってさ」
「木偶の坊」
「何か言えば」
「そう、泣いて叫べばいいのに」
沢山の言葉たちが降ってくるが、僕の意識は遠い所にあった。
すると、彼らのうちの一人が僕に向かって拳を振り上げようとした、その時だった。
天から、太陽に照らされて金糸のように光り輝く細い糸が何本も舞い降りてきた。
突然のことだった。何の前触れもなく、突如として、その美しくファンタジックなものが舞い降りてきたのだ。僕は、この国に来て数か月と間もなく、日本には、金の糸が空から降るという天気があるのかと、本気で思ったほどだった。
金糸の降ってくるのは、小川に架かる橋の上からだった。
この小学校の同じクラスの同級生の女の子が、そこにはいた。
あの女の子だ。
僕が見たのは、橋の上で多数の女子達に囲まれている、小学校に来て最初にシェイクハンドした彼女だった。
その周りの女子達は見えてなかった。彼女しか、僕には見えなかった。
なぜなら、今朝、最初に会った時に見た彼女の長い黒髪が、無残に短く切り落とされていたからだ。衝撃的だった。彼女の黒髪は、他のどの女子達より、真っ直ぐで、美しい漆黒で、天使の輪が見えていて。
つまり、僕は一目惚れしていたとも言える彼女の黒髪が、無残に、乱雑に扱われていることに大きなショックを受けていたのだ。
「何、お前ら、毒ガス女の髪の毛切っちゃったのかよ」
「うん。そう。あんまりウザったくて、もさもさしていたもんだから、うちらで切ってあげたの」
笑い声が起こった。
僕は、そんなことに我関せず。空に手を伸ばし、舞い降りてきた金糸を掴んだ。
たちまち金糸は光を失い、黒い糸となった。
それから、彼らは僕たちに飽きたようで、その場を去っていった。
子供は、無邪気だと思った。きっと何も知らないのだろう。この世界で起こる全てのことに無関心で、無知だ。僕がどんな世界を見てきたのか、彼らに伝えたなら、この世界は変わるだろうか。
彼らはそう簡単には変わらないと思う。彼らは、無邪気故に、愚かで、残酷だ。
「この世界には、どこに行っても、魑魅魍魎がはびこっているらしいよ」
帰り道なので、仕方なく通るしかない橋に、河川敷から上がって行くと、まだそこに彼女はいた。覚束ない英語ではなく、初めて聞いた彼女の日本語だった。
「ちみもうりょう?」
僕が聞くと、彼女は、無表情で。風に撫ぜられると、瞼を閉じ、また開いた。
「この国にいる妖怪のこと。鬼とか餓鬼とかいうものを聞いたことない?」
僕は首を振った。
「怖い生き物が、この世界を牛耳っている。どこに行っても怖くて不快な思いをするのは、どこにでも奴らが居るからだよ」
僕は、知らない言葉ばかりが出てきて、よくわからなかった。ちみもうりょう、はびこる、ようかい、おに、がき、ぎゅうじる。家に帰ったら、辞書で調べてみようと思った。
「何考えこんでいるの」
彼女は僕の顔を覗き込んできた。彼女の顔は、あどけなかったが、にじみ出る芯の強さがあって、美しいと思った。
「えっと、名前」
僕が言いかけると、彼女は言った。
「my name is 黛あかつき」
「ああ!」
そういえば、初めて会った時に、名前も聞いていたことを忘れていた。
「ああじゃない。24時間のうちに同じことさせるのはよして欲しい」
「あいむそーりー」
「見せかけの英語もよして。明王寺フレデリック太君。君、日本人だったんだね」
「いや、日本人じゃ・・・」
「日本人じゃなかったら、何で、そんな名前しているの」
「や、でも、僕は、日本人じゃない、はずだよ」
「なにその問いかけるような言い方。私、今日君が一緒に登校してきた女の人見てたよ。日本人の女の人だった。お母さんなんでしょう?」
「そうだね」
「ほら、やっぱり。もしかしてと思っていたけど、外国人のフリしていたんだ」
彼女、あかつきは怒っていた。僕が彼女に合わせて英語で応対していたのが気に入らなかったらしい。僕は仕方なく彼女に僕の事情を話した。
「僕は、イギリス人でもアメリカ人でもない。あの、戦争をやっている国で生まれ育った人間なんだ。この日本には、今の父さんの子として来たんだよ。今の父さんは、僕を養子として自分の子供にした人で、僕に日本の国籍を与えてくれた人だよ」
「ほら、やっぱり日本人なんだ。日本の国籍を持っているってことは、日本人だよ」
「でも」
「日本人だよ。法律が君を日本人とするなら、君は紛れもなく日本人だ」
「僕は外国の生まれで」
「同じこと何度も言わせないで。君は日本人。英語を話したりして、私を騙していたんだ」
「騙してなんていないよ。僕は、英語もだけど、日本語もまだよくわかっていなくて、日本人とは言えないんだ」
あかつきは、どや顔というやつだと思う、誇らしげな、なんとも言い難い、これを言いたかったのだという顔をして見せる。
「明王寺君、君は、お父さんの子なんだよね」
「うん」
「なら、君のお父さんが日本人なら、君は日本人だよ」
何で、ここまで僕を日本人にしたがるのか、頑なだと思った。僕は騙したつもりはなかったが、あかつきは僕が外国人だったらいいなと思っていたのだろうか。要は、あかつきは僕と仲よくなりたいと思うことにした。気付いてみれば、僕とあかつきはまるで、仲よく話をしているようだった。
後で聞いたが、あかつきは、外国から留学してきた同い年の子と仲よくなりたかったのだと言っていたな。
あかつきは、先ほど髪を切った彼女達といた時よりイキイキしていることに気付いた。
僕と居るとまるで水を得た魚のように、すいすいと泳ぐように話をする。
あかつきと当時の僕に共通することがあった。僕等は、自身を特別だと思っているということだ。
あかつきは彼らのことを、魑魅魍魎だと言っていたのかもしれない。
気に留めるのにも至らない餓鬼達を、あかつきは心の中で亡き者にしていたようだ。思い返せば、魑魅魍魎が跳梁跋扈するあの世界で人間だったのは、僕とあかつきとほんの数人だけだったようにも思う。だから、僕等は、あの世界から逃げ出さなければならないのだ。僕とあかつきだけの世界へ。
こんな閉鎖された考えの中に閉じこもっていることは、この国で、この世界で力を持ってしまった僕等の、行き場を失くすことにつながっている。この時は、思いもしなかっただろう。僕等が、本当に特別な力を持つことになるとは。僕とあかつきと小さな箱庭だけあればよかったこのころに戻ることはできないが、できるなら、普通を彼女にプレゼントしたい。鉄仮面と鉄の心を持ってしまった彼女の手を今すぐ取ることができるなら、僕と普通の世界に逃げ出してほしい。
そんなことを未来に思うことなんて知らない僕等は、ただ、塵のように風に乗って川に消えていったあかつきの髪の毛を惜しむように、エメラルドグリーンの川底を見つめていた。
「明王寺君、これ」
そう言ってあかつきが差し出したのは、文房具の一つ、ハサミだった。
「これをどうするの」
僕が首を傾げると、彼女は僕から視線を外して、橋の欄干に手をついて空中を真っ直ぐ見つめ言った。
「私の髪の毛、切って整えて欲しいんだ。やってくれるよね」
僕は躊躇した。あの綺麗な黒髪を、僕の手で切ってしまうのか。これ以上短くしてしまったら、また伸びるのに時間がかかるだろう。しかし、この状態であっても伸びるのに時間がかかるのは目に見えていて。
「何躊躇っているの。このままじゃ不自然でしょう。帰ったら家の人に何て言われるか分からないよ。散髪してきたってことにしたいんだ。整えてよ」
僕は、おもむろにあかつきの後頭部に手を添えた。乱雑に切られた髪の毛は、虎刈りのようになっていた。汗ばんだうなじにシャンプーの残り香が、少し香っている。
「できないの。明王寺君」
「できるよ。今、切るから」
僕は、少しずつ彼女の髪を切った。さらに短く、短くなっていく。
嗚呼、こんなに残酷なことがこの国でもあるのか。
なのに、あかつき、君は、なんて晴れやかな表情をしているんだ。
僕の心に生まれたのは、絶望と、君へ焦がれる気持ち。
僕が切った綺麗な黒髪は、あかつきの手に渡って、欄干の向こうの空中にふわりふわりと漂って、川に落ちて、川の流れに乗って。
どこに行くのだろう。
「この川は天竜川に繋がっているんだよ。見たことないかな。大きな川だよ。私の髪の毛も、どこかでせき止められなければ、天竜川にたどり着くよ。きっと、天竜川の流れに乗って行けば、海にたどり着くかな」
あかつきの生まれ育った街は、この場所ではない。倉庫街のある港街だと聞いた。沢山の人が住んでいて、活気のあった街だという。しかし、今はその街はない。
後で見ることになる一枚の写真。荒涼とした焼野原に立ち尽くすボロ布を身にまとった一人の少女。何かを探し回ったのだろう。靴の底は剥げて、膝にはつくったばかりの生傷があった。虚ろな瞳をしている。それが、彼女、あかつきの数年前までの姿だ。
彼女の過去に興味はなかった。しかし、彼女を知っていくうちに、彼女が僕の失くした大切なものに見えてきた。
僕にも、一つの写真がある。
焼き払われた野原に立ち尽くし、ボロ布を纏い、反比例するように綺麗に手入れされたマシンガンを手にしている僕。僕の体を支える左足は、この時無くなった。
僕の大切な妹と一緒に。
アカシックレコードが交差した瞬間。僕とあかつきの道は接触した。
沈んでいく太陽を眺めていた。小川の行き着く先に沈む太陽を。
黛あかつき。
日の出の少し前の時間を暁と呼ぶようで、そこからとった名前のようだ。
黛は、日の出る少し前の空の色。深く深い青い色。
これから訪れる長い夜と、待っているだろう明日を予感させた。
僕等の大切なものは、過去にあって未来にはない。
僕等は若くして、余生を送っていたのだよ。
あかつき、君はまだ、自分が未来を作っていくことなんて想像していなかったし、未来があることすら君は望んでいなかった。でも、僕等は未来への歩みを止めることはできない。これからどんなに絶望的な予想しかできなかったとしても、君が望む人がそこに居なかったとしても、僕等は未来に向かって歩んでいくほかに選択肢はないのだ。
君は、涙を見せなかった。散り散りになって落ちて行ったのは、涙の代わりの金糸のように輝く髪の毛だった。
あとで、あかつきがお天気女だということを聞いた。
お天気女とは、気分が天気のようにコロコロ変わる女のことでもあるが、彼女については、彼女の居るところどこでも天気がコロコロ変わるということなのだ。雨の日には天気が好転し、晴れになり。晴れの日には天気は晴天から曇天を経て、雨降りへと変わる。風女という言葉もあるらしい。上空に風が吹き、天気をコロコロと変えることからだ。
こんな話を聞いていた。この僕の新しい故郷には、古い言い伝えがあって、暴れ狂う天の竜に例えた天竜川に人身御供をすれば、川が天駆ける竜となりこの地に雨を降らせるという。
僕が、あかつきの髪の毛を切り、川に解き放つと、たちまち空は曇天となった。彼女の髪の毛が人身御供の代わりになったのだろうか。それから程なくして雨は降り出し、土砂降りとなった。晴れていた先ほどの天気が嘘のようだった。
あかつきには不思議な力があると僕は思う。お天気女だということもそうだが、彼女は自分を取り巻く人間たちを魑魅魍魎に例えて、それなのに、彼らの長である児童会長の座についていたのだ。彼らを自分とは差別し、忌み嫌い、彼らに操られているかと思いきや彼らを操っている。それはまるで、この国の古代の女王、巫女のようだと思った。
僕は、彼女に魅入られたことに気付いてなかった。衝撃的な出会いだったし、これからも彼女なしでは考えられない人生を歩むことになるが、一番最初に出会った同い年の人間が彼女だったためか、どうしてか、彼女が隣にいること、彼女のやらかす破天荒な生き様が普通だと思っていたからかもしれない。
土砂降りの中、傘を持っていなかった僕は、あかつきの持っていた携帯傘に入れてもらい家まで送ってもらった。
明日が楽しみだと思っていた。
明日は、どんなことが待っているのだろう。魑魅魍魎の中で、彼女はどう生き抜くのだろう。そして、胸を躍らせるのは、この胸をザワザワさせる嫌な予感にだ。僕は、この世界で生き残っていけるだろうか。楽しみで仕方がなかった。銃の引き金を引く瞬間。高揚する気分。高鳴る胸。あいつらの額にめがけて放つ寸前の銃弾のようなじれったさ。やらなければ、やられる。それが無性にドキドキさせるのだ。
この世界に来ても、社会適合の訓練を受けても、こんな場所があり、こんな気持ちを誘うなんて。
僕は、自身が生まれながらの人殺しだということを実感した。
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