第2話 究極魔法発動!

土に埋もれている彼女に話しかけてみた。


「もしもし…。大丈夫です…か?」


というと、彼女は目を覚ましムクリと起き上がった。


「クソ!なんてことだ!」


え?無傷?


女の子はこちらを見た。


「ん!貴様!勇者ではないか!クソ!」


え?どーゆーこと?


「あの~~~…。」


「ええい!殺せ!もう覚悟を決めたわい!」


といって、大の字にゴロリとなってしまった。


…話しが全然見えないんですが…。


「元です…。元勇者…。」


「ん?」


オレたちはたき火を挟んで話しをはじめた。


「キミは…誰?ケガしないなんて…何者?」


「なんだ?余を知らんのか。ふははははは!我こそは大魔王エビネスなるぞ!」


と言って、立ち上がって黒いローブを大きく広げてユラユラと動かした。


なに自分を大きく見せてんの?

威嚇??


ぜんぜん怖くねぇ…。


え?なんていった?大魔王?


だい…まおー??


「知らない…。大魔王?魔王じゃないの?」


そういうと、彼女はうつむいてしゃがみこんでしまった。


「元な。元。今は部下だったものに謀反を起こされて、ここに飛ばされてしまった。おおかた勇者の近くに落として殺させるつもりだったのであろう。さぁ殺せ!」


と言って、また大の字になって後ろに倒れ込んだ。


「部下って?」


「宰相バドガスだ。今頃は大魔王バドガスを名乗ってるだろうがな…。」


え?バドガスって魔王バドガス?

オレたちの標的じゃん。


…たちじゃねーか…。もう…。


「はぁ…。そーなんだ。」


彼女はオレの無気力な回答を聞いてムックリと起き上がった。


「なんだ。興味なさそうだな。」


「そらそーだよ。もう関係ないし。」


「ん?」


天を仰いでため息をついた。

パチパチとたき火の音だけが二人の間に静かにBGMとして流れた。


「関係ないとは?」


「オレも追われたんだ。勇者の座を。それも仲間に…。」


「ほう…。おもしろい。話しを聞こうじゃないか。」


「うん…。」


今までの経緯(いきさつ)を話した。

目の前にいるのは敵の…そのまた主君だった人物だけど…。

今は誰でもいいから聞いて欲しかったんだ。


「なるほどのう…。それはそれは。気持ちは分かる。つまり。我々は同じ境遇というわけだ。」


といって、ニヤリと笑った。


「なに?どういうこと?」


「キミは仲間にリーダーの座を追われた。余は家臣に君主の座を簒奪(さんだつ)された。同じだ。そして、敵も同じ。」


まさか…。


「敵は宰相バドガスだ!我々が力を合わせれば、きっと倒せる!」


「は、はぁ…。でも…。」


「なんだ。」


「オレは勇者じゃないわけだし。」


エビネスはグイッと顔を近づけてきた。


ん。…か、かわいい…。


「オマエはバカか?バカなのか?神から啓示を受けたんだろ?神託を受けたんだろ?」


「は、はい…。でも、オレはこんなに弱い…。仲間よりも…。」


「寝坊助が。余を見よ。」


え?は、はい…。


え、えーとですねぇ。


細い体に、美しくて長い銀色の髪…。

大きくてパッチリした目。

でも出てるところはでてらっしゃる…。


ゴクリ。


「分ったであろう。」


え?


「な、何がですか?」


彼女はフン!と鼻で笑った。


「余は大魔王と生まれ、覚醒してまだ短い。これからしばらく長い時間がかかってようやく真の力を得ることができるだろう。つまりキミの勇者としての成長も合わせてあるのだ!晩成型なのだよ。」


「そ、そうなの?」


「そーだ。あやつら…。余の覚醒を心待ちにしていたはずなのに…。こいつは弱い。しかも女だ。自分の方が上だと思ったのであろう。クソ!腹が立つ!」


なるほど!

そうなのか!

魔王バドガスの上にはもっと強い大魔王エビネスが将来出来上がるってことだったのか…。


だから、オレの成長もつまりゆっくりだったってこと??


「真の勇者の光の力。大魔王の闇の力。これが合わされば、ものすごい力になるぞ!」


そ、そういえば聞いたことがあるぞ。


光が無ければ闇はできない。

闇が無ければ光の輝きに誰も気づかない。


お互いの力を合わせると、無限の力になるって…。


エビネスは楽しそうに笑い、ツイっと手を出してきた。


「では、明日より行動開始だ。よろしく頼む。」


「あ。うん。こちらこそ。」


オレたちは固く手を握り合った。


その瞬間、オレたちの手から暖かい光と、冷たい冷気が吹きだした。


「うわぁ!なんだ!?」


「ほう。面白い。」


彼女の姿は…消えていた。


え?どこいった?

手を握ってる感触はあるのに…。


って、オレの手も消えてるぅ!


慌てて手を放すと、パッと姿を現した。


「え?どういうこと?」


彼女は笑って手を叩いた。そして


「ふっふっふ。これは合体魔法が発動したのであろう。光と闇の二人が手をつなぐと、究極魔法の透明化(クリガラ)が使えるようだな。今の時代使える術者はいないと聞いたが、こうすると簡単に使えるようだな。」


と言って、またオレの手をつないだ。


パッと消える二人の姿…。


わぁ…すげぇ…。


「つまり、オマエは真の勇者。余は真の大魔王。得心(とくしん)が行ったか?」


「い、行きました。」


究極魔法クリガラ…。

神話にあるぞ…。神々と敵対者との戦いの時に、偵察部隊の小人たちにクリガラをかけて敵の城内を潜入させたってやつだよな…。

自身の体と、触っているものを透明にする魔法…。

伝説の魔法って聞いたことがあるけど、こりゃすごいよ。

魔城に忍び込むのだって簡単じゃん!

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