凡人の俺と小さな賢者
密家圭
第1話 雰囲気に流される
「プリント、持ってきました。」
担任の背中に声をかけると、パソコンを凝視していた目をちらりとこちらに向けた。
「お、サンキュ。そこに置いといて。」
…そこって、どこだ。雑然と重ねられたファイル、プリントの山。ジェンガの苦手な俺を試しているのか。
「あ、そういえば、佐藤。お前、今のままだと志望校はちょっと難しいぞ。」
担任が椅子を回転させ、体ごとこっちを向いた。
あ、これは話長くなるな。めんどくさそうだ。
「そこでだ。内申をちょっとでも良くするために、ボランティアとかに行くのが良いと思うんだがな、こことかどうだ?」
担任が見せてきた紙には、「 特別養護老人ホーム ヒカリヤ~ボランティア募集!~」のタイトルと、募集日時やらが簡単に書いてあった。
「え、でもこれ土曜…」
「写真部なんだから暇だろ?」
なんのために俺が写真部に入ったと思っている。休日を謳歌するためだ。
でも、1回くらいなら行っておいても良いかもしれない。家からもそう遠くないし。これ以上この話を続けるのも面倒だ。
「分かりました。」
「おう。じゃあ俺が出しとくから、来週しっかり行って来い。じゃ、このプリントはそのままやるから読んで置けよ。」
担任が渡してきたプリントは、よく見たら端っこにコーヒーの染みが出来ていた。
ゴミを押し付けられたようで、ちょっと溜息が出た。
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