城壁門の町ラグレット4
「ど、どういう意味……ですか?」
「詳しくは説明できないけど、この町の罠士ギルドは潰されてる。そんな事が出来る奴……あるいは奴等が、マトモじゃないのは分かるでしょ?」
「盗賊団がこの町にいる、ということですか?」
「その方が100倍マシよ」
シェーラに、ヒルダはハッキリとそう答える。
「盗賊団が3、4個かかってきたところで、罠士ギルドはビクともしないのよ。そういう風に出来てるんだから」
たとえば、大戦力で罠士ギルドを襲って殲滅したとしよう。
しかしそれは罠士ギルドの建物とそこにいる人員を潰しただけであって、罠士ギルドを潰したわけではない。
アルテーロの町に宿屋を営む罠士ギルド員が居たように、罠士ギルドの人員はその町全体に深く浸透する。
表向きの人員を潰した所で、何の意味もないのだ。
そして、そういうものが活動不能になる程に潰されている。この事実は、重い。
「表と裏の両面で活動する罠士ギルドを活動停止に追い込めるような「何か」がいるのよ。正直に言って、そんなもん想像がつかないわ」
「……だとすると、すぐにこの町を出て山へと向かった方がいいかもしれないな」
「そうした方がいいと思うわ。正直に言ってヤバいもの」
アルフレッドにヒルダは頷き、周囲を見回す。
この壁に残る血を見るに、この罠士ギルドが一度物理的に襲われたのは間違いないだろう。
それがどのタイミングだったかは分からないが……。
「そう、ですね。そういう事であれば私も町を出るのに賛成です。町の現状は気になりますが……」
「それは後からどうにでもなるわよ。それよりも、今はこの町を出ないと」
ヒルダがそう言った時、罠士ギルドの扉がガチャガチャという音を立てて引かれる音が聞こえてくる。
「……しっ」
ヒルダが人差し指をたてて静かに、というジェスチャーをするが……言われるまでもない事だ。
ランタンの火も消して暗くなった空間の中で、ただ無言だけが支配する。
そうしていると……やがて、外の会話も聞こえてくる。
「鍵がかかっているな……やはり考えすぎじゃないのか?」
「まあ、な……あの男はどう見ても戦士だったし……罠士ギルドに用があるはずもない」
そのままボソボソと何かを話した後に2人の男らしき誰かの足音は遠ざかっていき……誰もドアの外に居ない事を音を聞いていたヒルダが確信すると、再びランタンの明かりを灯す。
「予想大当たりってか……冗談じゃないわね」
「町の人間に紛れ込んでいる、のか?」
「知らないわよ。とにかく町にこれ以上残る理由も無くなったわね」
そう言うと、ヒルダは罠士ギルドの床を弄り始める。
「何をなさってるんですか……?」
「隠し出口よ。町の別の場所に繋がってるはずよ」
何処かに行ったと見せかけて今の連中が見張っている可能性を否定できない以上、念のための工作は必要だ。
「……よし、あったわ。鍵をちょいっと……む、結構めんどくさいわね」
言いながら床を弄っていたヒルダは「よしっ」と小さく呟き床をスライドさせる。
その先には暗い穴と階段があり……ヒルダは笑顔でアルフレッドにランタンを渡す。
「じゃ、頼んだわよアルフレッド」
「ああ」
文句ひとつ言わずにランタンを受け取ったアルフレッドは迷いなく階段を降りて行き……それを見ていたヒルダはシェーラに「次アンタよ」と促す。
「え、私ですか?」
「そうよ。最後に私が入って隠し扉閉じるから」
そう言われてしまえば、シェーラとしても入るしかない。
おそるおそるといった様子で階段を降りていき……最後にヒルダも階段を降り隠し扉を閉める。
そうすると隠し扉には自動で鍵がかかり、その高性能さを見せつけてくる。
これで誰かが後から追って来ようとしても鍵開けから始まりというわけだ。
「さ、行きましょ」
「ああ」
暗い坑道のような道を進めば、その先には再び階段と、覗き穴のようなものがある。
恐らくは水晶を磨いてレンズにしたのであろうソレは覗けば地上の様子が見えるようになっており、ヒルダは何もない事を確信し地上への隠し扉を開ける。
「よ……っと。こっちは裏通り……っていうか小道みたいね」
建物と建物の間にあるような小さな空間に出たヒルダ達はそのまま隠し扉を閉め、地上へと帰還する。
しかし空に昇る太陽とは違い、その表情は明るくない。
「問題は多い、が。一つ一つ解決していくしかないだろう。山に登るにはどうしたらいい?」
「は、はい。えっと……登山門と呼ばれる場所がこの町にあるので、其処から登れば大丈夫です」
「じゃあ、そこ行きましょ」
「はい!」
アルフレッドとヒルダに促され、シェーラは登山門の方角へと歩いていく。
これに関しては迷う事もない。
城壁山脈の方角へ歩いていけば自然と登山口、そして登山門に到着するからであり……だからこそ、閉ざされた登山門を見てヒルダとシェーラは「えっ」という声をあげる。
「おや、どうしたんだい?」
登山門の前に立つ兵士達は、アルフレッド達を見つけると声をかけてくる。
「山に登ろうと思ったんだが……」
「ああ、そうか。すまないな、ちょっと安全を確認していて今日のところは閉鎖中なんだ。また明日来てくれるか?」
今日は通せない、と。頑としてそう主張する兵士達を突破するわけにはいかず、アルフレッド達は顔を見合わせる。
「……宿を見つけるしかない、か」
「そうね」
泊まりたくなどない。ないが……そうせざるを得ない状況が、此処にあった。
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