バッカス号探索2

 続けてアルフレッドが開けたのは、扉の引き出しだ。鍵らしいものはかかっていない引き出しはするりと開き、中からゴトリと音を立てて何かが滑り出てくる。

 金色の輝きを持つソレを見て、アルフレッドは「拳銃」という言葉を頭の中に思い浮かべる。

 やはり女神ノーザンクから与えられた知識なのだろうが、使用する事で中距離攻撃を放つ武器であることは分かる。

 しかし同時にアルフレッドの知識の中にある「拳銃」とは微妙に形が違ってもいる。

 まず「弾丸」と呼ばれる攻撃用の触媒をセットする場所が無い。

 形だけは「拳銃」に似ているのだが、グリップと引き金、撃鉄らしきもの、そして砲身だけで構成されており……本来「弾丸」をセットするのであるだろう場所には透明な石のようなものが嵌っている。


「……ふむ?」


 試しに持ち上げてみると、ズシリとした重みがあるが……使い方は分からない。恐らくはアルフレッドに託された武器ではないからだろうが……物入れを調べ終わったらしいノエルが近づいてくる。


「あ。それ、ヴァンの魔導銃だね」

「魔導銃……?」

「うん、ヴァンは額に当てて集中することで魔力籠めてたみたいだけど」

「ふむ」


 そのヴァンの物まねらしき事をしてみせるノエルの動きを真似て、アルフレッドはグリップを握り銃身を額に当て集中する。

 籠める、という言葉から恐らくは魔力を込めるのだろうと意識してみると、キュイイイン……という甲高い音を立てたのは一瞬。すぐにピュインッという音が鳴りアルフレッドからの魔力の流入が停止する。

 同時に宝石部分が薄く輝き、強い魔力の気配を漂わせ始める。


「これでいいのか?」

「うん。それで……えーと、確かスイッチを射撃モードに入れて引き金を引けば大丈夫だったはず」


 スイッチと言われてアルフレッドは撃鉄を見るが……もしかして、これがそうなのだろうかと悩む。


「スイッチというのは、この撃鉄か?」

「ゲキテツっていうのは分からないけど、それだと思うよ」

「そうか……」

「ちょっとちょっと、何よ今の音!」


 宝箱を開けて中身を確かめていたヒルダがズカズカとやってくるが、アルフレッドの手の中の魔導銃を見て訝しげな顔をする。


「……何それ。短杖か何か? 変なデザインね」

「魔導銃、というらしいが」

「魔力を込めて魔法の弾を放つ武器だよ。ヴァンの愛用してたやつなんだけど……これは予備なのかな?」

「ふーん?」


 ジロジロとアルフレッドの手の中を見ていたヒルダだったが、アルフレッドは思いついたようにヒルダに魔導銃を手渡す。


「え、何?」

「持っておけ。スイッチを入れて引き金を引けばいいらしい」

「へ? そんな事言われても」

「あー、ボクが教えてあげる。使ってるところ見たことあるから」


 そう言いながらノエルはヒルダを連れて部屋の隅へ移動していく。

 魔導銃の入っていた引き出しには他には何もないらしく、アルフレッドは他の引き出しを開けていくが……そこには大量の本が詰まっているだけだ。興味が無いわけではないが、どれも現状の把握には役立たないだろうと判断し引き出しを閉じる。

 

「ねえねえアルフレッド、どう?」

「ん?」


 どう、などといきなり言われてもアルフレッドとしても困るのだが、すぐにヒルダの腰ベルトにぶら下がっているモノのことだと気付く。

 物入れの中から見つけたのか、先程の魔導銃はケースに収まってヒルダの腰に下がっている。

 しかし「どう」などと言われても何と返せばいいのか。

 女神ノーザンクに与えられた知識の中にも答えは無く、アルフレッドは悩んだあげく無難な言葉を選ぶ。


「……いいんじゃないか?」

「でしょ? 奇跡的に今のコーディネイトに合うのよ! こういうのガンマンっていうらしいけど、あたしこれからガンマン名乗っちゃおうかしら!?」


 なるほど、確かに動きやすい旅装のヒルダには少しばかり武骨に見える魔導銃も似合わないわけではない。


「それはそうと、この机には何も無さそうだ。君達のほうはどうだ?」

「物入れには特に何もなかったよ。ヴァンの着替えくらいかな?」

「宝箱はショボかったわよ。なんか変なものが一個入ってただけ」


 言いながらヒルダは金色の包装紙でラッピングされた丸い形の何かを取り出す。

 見た感じお菓子の類にも見えるソレを見て、ノエルは「あー!」と声をあげる。


「それ、金の魔力アメだ! 凄い凄い、それ一つで魔力が全快しちゃうんだよ!」

「何そのウソっぽい効果……ホントなら魔法士共が目の色変えるわよ?」


 確かに魔力を回復させる薬の類はあるが、ほとんどは僅かな効果だ。大きな効果のものもあるが「全快」などという効果は存在しない。

 何故なら魔力量はヒルダのようにほとんど持っていない者からアルフレッドのような規格外まで様々だからであり、誰かを全快させる薬が他の誰かを全快させるわけではない……というのは当然の理屈だ。


「ほんとだってば! 凄い貴重なんだよ、それ?」

「そりゃそうでしょうよ。「全快」なんてものがあればアーティファクト級よ?」


 言いながらもヒルダは大切そうにアメを鞄に仕舞い込む。

 使うつもりは、勿論無い。

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