盗賊遭遇戦
「くそっ、なんでこんな所に盗賊がっ……!」
「は、早くどうにかしろぉっ!」
「うるせー! 旦那は大人しくしてろ!」
荷馬車を中心に、三人の冒険者が盗賊達と斬り合う。
アルテーロとバッサーレを結ぶ道は野生の獣やモンスターの危険性はあれど、盗賊の危険性は少ないとされるルートだった。
それはこのルートで運ばれるのが主に塩漬けのや干物などの食品類だからであり、金品の類は少ないからだ。
特にこの馬車はアルテーロへと塩漬け魚を運ぶ馬車であり、金品などほぼ無いに等しい。
余程食い詰めた連中でなければ実入りの少ないこのルートの馬車は狙わず、王都ルートを狙うはずなのだが……どうやら今回は運が悪かったらしい。
「ぐあっ!」
「ベック! くそっ、数が多すぎる!」
岩陰に潜んでいた連中を含め、およそ二十人以上の盗賊団。
剣と弓の混合部隊相手にたった三人では、守るには難しい。
何しろ相手は、近くの者を狙ってくる獣やモンスターではないのだ。
しかもご丁寧に丸太を転がして進路妨害しているおまけ付きだ。これでは無理矢理突破する事すら出来はしない。
「くそっ……ダメだ、荷物を捨てるしかねえ!」
「ふ、ふふふ……ふざけるなよ! 何のために雇ったと思ってる!」
「言ってる場合か! 命まで落とすぞ!」
手近な盗賊を斬り捨てても、他の盗賊達は構わず襲ってくる。
多勢に無勢。次第に増える傷の痛みに剣士の男が膝をつき死を覚悟した、その時。
「ランススパーク!」
地響きと、稲妻にも似た音。そして閃光。男の横を生き物か何かのようにすり抜けていったそれは、盗賊達を捕らえ打ち据える。
「ぎゃ!」
「ごえっ!」
「あがががが!」
魔法の電撃が盗賊達を一気に倒したのだと理解した時には、すでに盗賊達は地面に転がっている。
「な、なんだあ……!?」
「騎士槍!? 魔道具か! やれ、あのバカ殺して奪っちまえ!」
巨大な騎士槍を構えて走ってくる赤い鎧の騎士。そんな冗談みたいな光景に、生き残った盗賊達が叫び襲い掛かる。
手負いの自分達を放置しても、あの電撃を放つ騎士槍さえ奪ってしまえば殺し直せる。そう考えたのだろう。
「ふざけやがって……!」
男はそう叫び、武器を構え再び立ち上がろうとして。しかし、再びの電撃が襲い掛かった盗賊達を打ち倒す。
「ひ、ひいィィィ!」
弓で遠距離を担当していたが故にたまたま生き残った盗賊が脅えたように矢を放つが、放たれた電撃の前に無力化されていく。
その姿はまさに圧倒的。瞬く間に盗賊団を全滅させてしまった騎士は槍を剣に変化させると、男達の元へと歩いてくる。
「無事か?」
「あ、ああ。おかげさまでな。それよりアンタ、凄いな。さっきの槍……いや、剣なのか? とにかく凄ぇ。おかげで助かったよ」
そう、傷つきはしたが生きてはいる。ポーションを飲んで少し安静にすれば、またすぐに動けるはずだ。
問題は深く斬られたベックだが、護衛は無理でも安静にしていればどうにかなる。
「……あまり無理はするな。少し待て」
そう言うと騎士の男は剣を掲げ、呪文を唱え始める。
「
呪文を受けて剣が青く大きな宝石のついた丸みを帯びた杖へと変化したのを見て、男はもう声も出ない。
魔道具、どころではない。間違いなくアーティファクトだ。それも町が城ごと買えて、それでも余るかもしれない程の超ド級のだ。
「……杖よ、癒しを」
―ヒーリング―
杖から声が響き、優しい光が男を包む。
男だけではなく、他の二人にも騎士の男は回復魔法をかけていき……驚くべき事に、ベックまでもが完全に回復してしまう。
「すげえ……アンタ本当に騎士か? まるで神官みてえだ」
「そうか。神官騎士だろ?」
軽い調子で騎士の男に話しかけていたベック達だが、彼等を押しのけて護衛対象の商人が貼り付けた笑顔で騎士の男にすり寄っていく。
「こ、これは騎士様! 危ないところをありがとうございます! おかげで命拾い致しました!」
「いや、気にする必要はない。たまたま聞こえたから走ってきただけだ」
「左様でございますか! その高潔な心意気、素晴らしいことでございます! ところでその」
「アルフレッド―!」
何かを言いかける商人の言葉を遮るように立派な馬と、それに先導された馬車がやってくる。
それに向かって騎士の男……アルフレッドは軽く手を振り、再び商人へと向き直る。
「すまないな、話が途切れてしまった」
「い、いえいえ。そのー……あの先頭を走っている馬は」
「スレイプニルという。頭のいい馬だ」
「そ、そうでしょうなあ……」
騎手もないのに問題なく走る馬など聞いたこともない。
槍に変わったり杖に変わったりするアルフレッドの剣も含め、ひょっとすると何処かの高位貴族なのではないかと疑う商人だが……御者席に乗る少女を見て、その考えは霧散する。
粗末ではないが、あまりにも普通の服。どう見ても庶民。そんな彼女が対等に話しているとなると……何か特殊な関係というのでなければ、何処かでアーティファクトを偶然見つけて稼いだ剣士というのが妥当だろう。
「あのー……ひょっとしてお二人は戦士ギルドの方だったりされるのですか?」
「ん?」
「あ、どうもどうも! 私、このアルフレッドの相棒のヒルダです!」
馬車から降りてきた少女はアルフレッドが答える前にそう言うと、商人に一枚のカードを指し示す。
「ほう、罠士ギルドのカード持ちですか。優秀な方のようだ」
「こっちのアルフレッドは戦士ギルドのカード持ちです。いやあ、ご無事で良かった!」
「いえいえ、おかげで助かりました。謝礼をお支払いしたいところなのですが、こちらも手持ちが……」
「正式な依頼を受けたわけではありませんから無茶は申しませんとも! とりあえずそこらへんに転がってる盗賊の装備品で無事なものをこちらが総取りという辺りで」
「いやいや、こちらとしても……」
流れるように戦利品の交渉を始めた二人を一瞥するとアルフレッドはスレイプニルを撫でる。
思うところが無いわけでは無いが……あの戦いはヒルダの戦いであり、自分が邪魔するべきではないことだ。
激しさを増す舌戦の勝利を祈りながら、アルフレッドは静かに見守っていた。
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