アルテーロ解決編:戦士ギルド
そしてヒルダの家まで戻ってきた二人だが、壊れた扉が直っているということは当然無い。
手早く荷物を纏めているヒルダを眺めていたアルフレッドだが、手持ち無沙汰になってヒルダに渡された戦士ギルドの身分証明書とやらを取り出す。
小さな銀色のカードの形をしているソレにはアルフレッドの名前、そしてアルテーロ戦士ギルドが身分を保証する旨の文章が書かれている。
逆に言えばただそれだけのカードなのだが……バタバタと走り回っていたヒルダが、そんなアルフレッドを見つけて「あー」と呟く。
「それね、無くさないでよ。一応身分証明書としては上等なもんだから」
「そうか。これ自体に何らかの信用があるんだな」
「んー。というか、ギルドに貢献したギルド員の証明みたいなもんね。自分は役に立つ有能な人間ですよって主張する為のものってこと」
この時代、流民や旅人の類は絶える事がない。そんな中で「有能な人間である」と示すことは新しい町で簡単に信用や仕事を得る手段と成り得る。
ギルドカードと呼ばれるこの簡素な金属板は、そういうものなのだ。
「偽造できないように色々やってるらしいけど、詳しくは知らないわ。暇なら戦士ギルドに行って聞いてきたら?」
「いや、しかし」
「行ってきなさいよ。そこに立っていられても邪魔だし……そもそもアンタ、よく見たら旅道具一切持ってないわよね」
「む」
確かに持っていない。この世界の通貨も持っていないし、旅に必要な道具も何一つない。
ひょっとすると英雄達の道具の中にそういうものがあるかもしれないが……。
「む、じゃないわよ。貸したげるから揃えてきなさいよ。ついでに戦士ギルド行って偽造じゃないって証明も貰ってきなさい」
ヒルダは言いながら罠士ギルドで取ってきた革袋を開け、中から金貨を数枚掴み出してアルフレッドに握らせる。
「これで10万イエンはあるから、戦士ギルドで旅の道具一式揃えて貰ってきなさいよ」
「ん、ああ。すまないな」
「投資よ投資。まあ、返して貰うんだけど」
さっさと行ってこい、と蹴りだすヒルダに促されながらアルフレッドは外で暇そうにしていたスレイプニルに跨る。
「さて、戦士ギルドか……」
「あ、待った!」
慌てて駆けだしてきたヒルダに振り返ると、ヒルダはその後ろに乗っかってくる。
「どうした?」
「あたしも行くわ。良く考えたらアンタ戦士ギルドの場所知らないし、なんかほっとくと余計な問題持ち帰ってきそうな気がするし」
「……そんな事は無いと思うが」
「うっさい正義バカ。行くわよ」
心配性だな、と言いながらアルフレッドはゆっくりとスレイプニルを走らせる。
そうしてかなり「普通」の速度で二人は大きめの通りへと出ていき……剣が二本組み合わされたような看板のある建物の前で止まる。
「これが戦士ギルドか」
「そうよ。傭兵ギルドって呼ぶ奴もいるけど」
戦士ギルド。金で雇われ荒事をこなす人間の集まる場所であり、その仕事は護衛から討伐まで多岐に渡る。薬草集めや溝掃除といった仕事も戦士ギルドが請け負っているが、後ろ暗い仕事が比較的少ないのが罠士ギルドとの違いではあるだろうか。
当然出入りする人間も物々しい格好をした者が多く、それ故に今大騒ぎであろう大通りとは離れた通りに存在していたりする。
……しかし、今のところこの辺りには人がほとんど居ない。
「さ、入るわよ」
促されてアルフレッドが入ると、そこは罠士ギルドとは違い広々とした造りだった。
開け放たれた窓からは光が燦々と入り、広々としたカウンターには清潔感のある服装をした女性が座っている。
壁には無数の依頼書らしき紙が貼り出されており、二階へ上がる階段らしきものもある。
気になるのは、中に職員以外の人間の姿がない事だ。
「全然っていうか……人が居ないわね、珍しい」
「そうなのか?」
「そうよ。普段はもうちょっとガラが悪いのが多いわよ」
そう答えると、ヒルダはカウンターまでアルフレッドを引っ張っていく。
「ようこそ、戦士ギルドへ。今日はご依頼ですか? それとも登録ですか?」
「残念だけど、どっちでもないのよ。アルフレッド、カード出して」
アルフレッド、という名前にピクリと反応した職員はアルフレッドの出したカードを見て、大きな音を立てて椅子から立ち上がる。
「あ、アルフレッド様!? 本物の!?」
「あ、そういう反応するってことは本物のカードなのね、これ」
「当たり前です、ギルドガードは偽造不能です! あ、いえ。まさかお越しいただけるなんて……」
興奮したようにオロオロとする職員に、アルフレッドは苦笑してみせる。
「いや、ヒルダが本物かどうか疑っていてな。確認しに来たんだ」
「はい、ご安心ください。ギルドカードは特殊な鉱石を特別な魔法で加工しており、公的に認められたギルドにのみ存在する魔道具で刻印しております。偽造はありえません!」
「そうか。安心した」
頷くアルフレッドを赤い顔で見ているギルド職員に咳払いすると、ヒルダは金貨を数枚カウンターに置く。
「で、今日はついでにアルフレッド用の旅道具揃えに来たのよ。そういうセット売ってるのは知ってるから、一番良いの寄越しなさい」
「はい。戦士ギルド厳選の旅装セットは最上級のもので300万イエンになりますが。よろしいですか?」
「じょ、上等じゃない。持ってきなさいよ」
ヒルダは頬をヒクつかせながら更に追加で金貨を袋ごとカウンターに置き「さっさと持ってきなさいよ」とヤケクソ気味に叫んだ。
……ちなみにだが町で働く一般的な成人男性が月に稼ぐ額が個人差こそあるが大体10万から30万イエン。
つまり、恐ろしい程の超高額だ。
「承りました。返品不可となりますのでご了承ください」
にこやかに微笑んだ職員はサッと金貨を回収し、奥へと走っていく。
「最上級セット入りました! 速やかに用意を!」
バタバタとギルド職員達が走り始める中で、女性職員は戻ってきてヒルダへと微笑み問いかける。
「……ところで、馬は別売りとなりますが如何なさいますか?」
「は?」
「最上級セットには馬車も含みますので。ドンケル工房から直接運んでまいりますが、馬はついておりません」
つまり、ほとんど馬車の値段。
このやろうと思いながらも、ヒルダは笑顔で「馬ならあるわよ」と返し……やがて、立派な馬車が戦士ギルド前に運ばれて来るのだった。
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