猫と家来と気になる男子

無月弟(無月蒼)

第1話

 今日は全国的に冷えるって天気予報で言っていたっけ。だけどそんな家の外のことなんて関係ない。コタツの中に潜って丸まってさえいればホッカホカなのだ。

 え、ボクは誰かって?何を隠そう、ボクはこの白崎家に住む真っ白な毛並みと所々にある黒い斑点がチャームポイントの雑種の猫(雌)なのだ。

 寒がりなボクは今日は一日中コタツの中でグータラしている。窓から外を見るとふわふわ小さな雪が降り出しているけど、ここでは寒さなんて微塵も感じられない。

 はぁ~、人間はいいものを作ってくれたよ、褒めてつかわす。そんなことを考えていると…


「うう~、寒いよ~」


 そう声が聞こえたかと思うと、誰かがコタツの中に足を突っ込んできた。油断しきっていたボクは不覚にも避ける事が出来ずに蹴飛ばされてしまう。ニャにするんだまったく。


「あ、ごめん豆大福。いるの気付かなかったよ」


 布団をはいで中を覗き込んできたのは、学校から帰ってきたばかりの理沙ちゃん。この子は白崎家の一人娘で高校一年生の、ボクのだ。


「ごめんねー豆大福。痛くなかった?」


 優しく頭を撫でてくれる理沙ちゃん。まあ怪我も無かったことだし、怒らないであげよう。こんな小さなことで腹を立てるほど、ボクは大人げなくはニャいぞ。

 えっ、さっきから理沙ちゃんが言っている豆大福は何の事かって?決まってるじゃないか、ボクの名前だよ。

 白をベースとした毛並みに、ぽつぽつとある黒い模様。まるで和菓子の豆大福にそっくり。この家に来た時に理沙ちゃんがつけてくれた名前だよ。とっても格好良いから気に入ってる。

 こんな名前を付けてくれる良い家来を持ってボクは嬉しいぞ。

 まあそんなわけで、二人してコタツでヌクヌクしていると、ふと理沙ちゃんが話しかけてくる。


「豆大福、今日は学校で佐伯君と話せたんだよ」


 目を輝かせながら嬉しそうに喋ってくる。

 またその話か。最近の理沙ちゃんは口を開けば決まって佐伯君の話ばかりだ。


「先生に頼まれた荷物を運んでいたら、『一人で大丈夫?手伝おうか?』って声をかけてくれたの。私は重いだろうから良いって言ったんだけど、『だったらなおさら放っておけない』って言って手伝ってくれて。優しいー、紳士―!」


 とろけんばかりの笑顔を見せる理沙ちゃん。だけどそれも束の間。今度は何故かフウッと悲しそうな表情を見せる。


「でもね、放課後同じように別の子の手伝いもしていたの。私にだけ優しいわけじゃ無いみたい。もちろんそんなところも良いんだけど、やっぱり寂しいなあ」


 何だかよく分からないけど、佐伯君の話をする時はいつもこんな悲しそうな顔をする。いったい何がそんなに悲しいの?元気出しニャよ。


「あれ、慰めてくれるの?ありがとう豆大福」


 ボクがモフモフとした体を摺り寄せると、理沙ちゃんは再び笑顔を見せる。やっぱりこの子は笑っていた方が良いや。

 どうやら理沙ちゃんは元気が出たようで、ボクの顔をムニムニとつついてくる。よし、今日は特別に思う存分モフモフさせてやろう。

 するとボクが言わんとしていることが分かったのか、理沙ちゃんはわしゃわしゃと撫でまわしてくる。少しくすぐったいけど、これはこれで気持ちいい。

 それにしても、理沙ちゃんを悲しませる佐伯君って、いったいどんな奴なのかな?

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