敗北を知りたい勇者さん
@ILFA_lobi
第1話
赤色の草原に倒れこんでいる、一体の巨大な龍。
ボロボロの服を着た1人の青年が、その龍の頭上に立っていた。
木の枝を持ち、お鍋の蓋を背負うその姿は、近くを通りかかった村人のようだった。
────────────
薄暗い物置のような場所。
特に何も置かれていない小さな部屋。
目の前にいる羽の生えた人間。
ここにいる理由は分かっていた。
昨日、トラックに轢かれそうになったところを片手で受け止めてしまった。
もちろん運転手は反動の衝撃で意識不明になってしまった。
ここまで聞いただけでは、私に非はないと思われるが、このことが原因なのだ。
トラックに接触した後、運転手は前面のガラスから吹き飛んできて、目を丸くしながらも僕に「お願いだから死んでくれ」と頼みこんできた。
なんでも彼は、この世界の住人ではないらしく、異世界へ転生させるための人員を補充するために派遣されたらしい。
「頼むよ、今日あと5人轢かなくちゃいかないだよ」
必死に血が吹き出る頭を下げながら説得してくる彼は、この言葉を最後に意識を失った。
その後、私は突然睡魔に襲われその場で寝てしまった。
と、このような形だ。
おそらくここは夢の中なのだろう。
目の前の情景に緊張しながらも、指遊びをし始めていた僕。
すみませんと小さな高い声が聞こえた。
羽の生えた人間は僕へ深々と頭を下げて
「異世界にいって下さい」
と言った。
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