魔法学院で主席目指しましたけど、主席の女の子が強すぎてヤバいです。
小坂井 美朱
第1話 気づけば目の前にトラウマがいてヤバい!
まだ日も昇っておらず、暗闇と静寂が支配する世界に小さな黒い影が急速な速度で落下して──
「朝だぞー!」
そんな快活な声が耳に入ると同時、イビキまでかいて快眠していた男性の腹部に鋭い痛みが走る。
「いってぇぇぇぇぇ おい鬼妖精! 普通に痛てぇよそれ!」
ベットの上で腹部に超高速で落下された事による激痛で悶えている黒目黒髪の少年、レイフォース=エストハイム
少しめくれた下着から見える引き締まった筋肉も、突然の奇襲には対応できなかったのだろう。
眼前で腹部に乗り、どうだ、偉いだろと言わんばかりに口元を吊り上げ、どや顔をしている手のひらほどの大きさの少女へと抗議している。
薄い黄金色の髪は、一本一本が細く透き通ったように美しく、滑らかに腰まで伸びたその髪は、月明りに反射して波を打つブロンドは見るものすべてを魅了する。
水色の瞳は、まるで雲一つない大空を眺めているかのように神秘的で、精緻に整ったその顔は正に絶世の美女。そして美しく透き通った薄い2対の羽がより幻想的で、手のひらほどの大きさ、森を連想させる緑のミニスカートの洋服を着た彼女はまさに絵本の世界から飛び出してきた住人だ。
先ほど腹部を全力で蹴られてなければさぞかし愛おしく思えたことだろう。
「普通起こしても起きない人を起こす方法なんてこれしかないじゃないか」
「痛いのは止めろ!」
「はぁ……明日は水をぶっかけてやるか。 後始末、頑張れよ」
ぶっきらぼうに言い放つこの妖精、悪魔か
とはいえ彼自身が朝早くに起こしてほしいとお願いしており、尚且つ全然起きないのだから仕方ない。
しかも学院に入学してはや半年、毎日起こしてもらっている上に、起こすだけに飽き足らず、彼女なりに彼に負担のかからぬよう、色々工夫しくれているのだからむしろ土下座して感謝をするのが筋というものである。
ちなみにだが今日はテンションを上げた声を出してストレスを減らそうとしてくれたようだ。
──蹴られた痛みでそれどころじゃなかったが。
完全に目も覚めた僕は、明かりをつけて、鏡に映るぼさぼさの、至る所が跳ねている黒髪とそれがよく似合う冴えない顔と向かい合う。
寝ぐせがいつもひどいく、長時間の戦いを強いられるんだ。
「明日は水だから寝ぐせも簡単に治りそうだがな」
肩に乗って足をぶらぶらさせている金髪碧眼の美女から鬼のような言葉が発せられる。
考え読んでんじゃねぇよとジト目で鏡越しに視線を合わせつつ
「先ほどの言葉は冗談とかでは?」
「ない」
ノータイムで言い切られた。
いや待って、流石に水ぶっかけられたら枕干したり布団干したりがめんどくさいって
「時間はかなり余裕を持っているだろう? 私としても君を蹴らずに済むならそれに越したことはないんだ」
「くそう。起こしてもらっている側だから強く言えないのが悔しい」
「ははっ自分から起きたら少しは君の意見を聞いてやらんこともないぞ?」
まぁいいさ、君が頑張っていることを私は応援したい。私にできることなら何でも言ってくれ。
そう言い切ると肩から飛び上がり周りをふわふわ飛び始める。
そうこうしていると寝ぐせの処理も終わり、黒が基調の少し軍服じみた制服に着替え、寮からレティシア連合学院へと向かう。
レティシア連合学院──300年前起こった大戦をきっかけに設立された学院だ。
この世界には6つの大陸が存在し、人口は圧倒的に多いが個々の力は弱い≪ヒト族≫、精霊と心を通わせることにより精霊魔法を使役し、弓を使うことが特に得意とされている≪エルフ族≫、魔法を使うことは出来ないが、身体能力や五感が圧倒的であり、また第六感と呼ばれるものを有す≪獣人族≫、魔法を使うことに長けており、腕を切られようが瞬時に回復するという圧倒的な回復力を有す≪魔人族≫、腕力など筋力が発達しており、口から豪炎を吐く≪竜人族≫ この5つの種族がそれぞれ5つの大陸を統治をしていた。
そして最後の大陸の利権をめぐる大戦、侵略されなかった大陸はなく、どの大陸も荒廃し、血で血を洗うような凄惨極まる大戦が起きた。
結果は5種族の痛み分けという形で講和。
その講和会議でこれからは手を取り合って生きていこうという《5族協調》が決定した。
その《5族協調》を形にしようと、それぞれの種族の15歳になる優秀な学生を毎年20人づつ寄せ集め、切磋琢磨させて行こうと最後の大陸に作られたのがレティシア連合学院だ。
まだ日は昇っておらず、薄っすらと蒼く輝く月が学院へと続く整然とした石畳をぼんやりと照らしていた。
ふっふっふっと規則正しく走りながら並行して飛んでいる妖精ちゃんに話しかける。
「今日から後期かぁ 馴染めると思う?」
「まぁ君の努力次第だろうな」
「はぁ、前のクラスで同じなのってシロ以外誰がいるんだろ」
不安で少し首を項垂れながらも足音のリズムは変わらない。
寮から学院まではそれ程遠い訳ではなく、少し走れば学院の大きな時計塔が見えてくる。
半年ほど使ってきたランニングコースという名の通学路を5分ほど行くと、この学院の目玉であり俺の教室がある、本棟が見えてくる。4階建ての校舎には規則正しく、美しく見えるように計算しつくされ並べられた窓があり、茶色のレンガ斜めに配置されたレンガを支えるようにして配置された白いコンクリートの柱は、まさに荘厳な屋敷のような風格を漂わせている。
まだ明かりもついて居らず、先の見えない暗闇が恐怖心を煽り立てるかのような廊下を渡り、2階にある第一学年 Aクラスの教室の一つしかないドアをガチャリと開く。
白を基調とした教室にはまだ誰もおらず、薄っすらと窓から入る月明りが教室を照らしており、少し不気味な雰囲気を醸し出していた。
「おー、一番乗りかー」
「まぁ君以外は全員寮で寝たままだったぞ」
「いやー《ヒト族》ってのはつらい種族だね、みんなが寝てるような時間から学院に来て訓練しても2位ですことよ?」
レティシア連合学院は基本的に3年制の前期、後期の2期制であり、完全な実力主義だ。
その実力主義を後押しするかのようにランキング制が出来上がっており、ランキングが上がることによりいくつかの恩恵が得られることができる。
ちなみにだが1年生前期ではランダムな振り分けでクラスが決まっていたのだが、後期からはランキングが決まるため上から20人づつ、Aクラスからアルファベット順に5クラスごとに割り振られていく。
「まぁそう卑屈になるな。次はあの女にも勝てるさ」
じょ、冗談きついかなー
多分今、俺の顔は引きつっている。
ランキングは前期後期の最後の1ヵ月に行われる1年生から3年生まで、1対1のどちらかが気絶するか降参するまで行われる総当たり形式の試合での順位によって決まる。
そして、総当たり戦最終日の最終試合、全勝中だった俺の目の前に現れた同じく全勝中だったあの女はかなり一方的に、惨たらしく、徹底的に俺をぶちのめした。
というか夏休み、ひたすらあの女バケモノに勝つ方法を模索していたが、一切勝ち筋の見えなかった僕としては戦うのすら億劫になる。
さて、朝から早く来て何をするかというと魔力循環の訓練。全身に魔力を通す基礎中の基礎であり、肩に座っている妖精さんに教えられた唯一毎日続けろと教えられた訓練。
普通、ある程度出来るようになれば辞めてしまう。そんな訓練だ。
とはいえ基礎は馬鹿には出来ない。1位の女に負けたとはいえ2位まで上がってきたのだ。どの種族よりも弱く、数でしか戦えないはずの≪ヒト族≫が、1対1で他の種族を下したのだ。基礎は馬鹿にできない。
窓際一番後ろの席に座り、魔力循環を始める。
目を閉じ、自らの心臓へと意識を集中させる。魔力とは血液のようなもので、血流に乗せて全身に巡らせることにより全身の身体能力をあげ、魔法陣として外界に出力することにより特殊な現象を発現させることができる。
心臓から流れ出す血流は脳へと、腕へと向かう血流と臓器へと、足へと向かう血流へと別れ、そして全身へと酸素を送った後、静脈を通り再び心臓へと戻ってゆく。それをはっきりとイメージし、それに合わせて魔力を全身へと流してゆく。流れる魔力は清流のごとく滑らかに、且つ淀みなく一定の速度で循環させる。
訓練を初めて20分ほどたった頃
「相変わらず凄まじい魔力操作技術ですわね」
突如として女性特有の透き通った、高く美しい声が耳に入った。
聞き覚えのある声だが思い出せない。
誰だと思い魔力循環をしたまま目を開ける。
ルビーのように透き通った朱色の髪をツインテールに纏め上げた髪に、ギラギラとまるで金塊のように濃い魔人族特有の黄金色の目、15歳とは思えないスレンダーな長身にふくよかな胸は黒を基調とした制服がよく似合い、ミニスカートと黒のストッキングから見える血色のいいきめ細かく美しい肌。
その堂々とした佇まいは正にカリスマ。机に座っていた俺は見上げながら思う。
あぁこいつか。声を忘れていたことが不思議でしょうがない。その顔を忘れるはずもない。
ランキング1位 ≪魔人族≫ マリア=ルシファー
現魔人族のトップ 魔王ルシファーの一人娘にして、実は現魔王よりも強いとかいうトンデモ少女がそこにいた。
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