第11章-5 日常時々トレジャーハンティング

 ゴウと翔太が惑星ヒメジャノメを調査している時・・・。

「翔太、一気にやるぞ」

『いやいや、一気にやるのは良いけどさ。その言い方だと、僕とゴウ兄で作業するみたいだよね。ゴウ兄は作業を手伝う気ないよね』

 ゴウと翔太はシマキジに搭乗していた。そのシマキジは森の上空に停止していて、操縦席にはゴウが座っている。

 翔太はクールグラスをかけ、自分のコネクトをオペレーションルームの端末にセットし、ルーラーリングを有線接続していた。

「当たり前だ。俺が手伝うより、翔太一人の方が早いんだからな」

『そうだけどさ。少しは手伝おうとする気遣いが必要だと思うなぁー。女性はそういうとこ、結構気にするんだけどね』

「うむ、ならば問題ないぞ。なんせ、翔太は男だからな」

『まあ、気が利かなくても構わないからさ。安全確保は、気を抜かないで欲しいかな』

 翔太のいるオペレーションルームには、シマキジの操縦系統と物理的に別の回線になっている。そのためシマキジの安全はゴウの双肩にかかっているのだ。

 新開グループのエンジニアが翔太専用に設計開発したもので、小型飛行コウゲイシ”オテギネ”を最大9機を同時に操縦できる。そのような特殊な仕様を盛り込んだため、他の操縦系統との接続が不可能だった。

 ルリタテハ王国には操作系用の標準通信規格があり、当然新開グループも標準に準拠している。本来なら操縦系統の統合は容易いのだ。新開グループ以外のエンジニアが知ったら、9機分の操縦系統を1つのオペレーションルームに装備しているのが間違っていると指摘するだろう。

 そもそも標準通信規格では9機分の操縦系統の統合をサポートしていない。ただし新開グループでは、独自仕様を追加した拡張通信フレームワークを採用していた。その拡張部分には、最大32の操縦系統を統合できる仕様を盛り込んでいた。その他にも多様な仕様が盛り込まれている。その殆どは、オリハルコン通信と各機種特有の操作を簡便にするための仕様である。

 それらの拡張部分は、翔太のマルチアジャストにとって非常に有用であった。

 またオテギネは、新開グループのコウゲイシ研究開発生産会社”機械人(きかいびと)”が生産している。つまり、新開グループの拡張通信フレームワークを使用しているのだ。

「任せろ、翔太。それより今日のノルマは8ヶ所だぞ」

『いやいや、倍でも問題ないぐらいさ』

 翔太は軽口と共に9機のオテギネを森の中へと放つと、全機が僅か数秒で最高速に達する。次々とオデギネはモニタリング端末の許に辿り着き、物理接続でデータを収集していった。

 TheWOC対策として、シマキジとオテギネは無線ではなく有線で接続している。9機のオデギネが数十ヶ所のモニタリング端末から情報収集したのだ。それにも拘わらず、線同士が絡まりもせず、また森の木や岩で切れることなく収集を完了させた。

 ノルマの8ヶ所の倍どころか、3倍の24ヶ所でも廻れそうな早さだった。

 ゴウは惑星ヒメジャノメに来る前の翔太の実力から推定して、ノルマ8ヶ所と言った。しかし翔太は、実力に裏打ちされたの軽口であったことを1ヶ所目で証明したのだ。

 翔太はオテギネをシマキジの格納庫に帰還させてから、オペレーションルームに向かった。ゴウは翔太がオペレーションルームに戻るのを待たず、次のポイントへとシマキジを飛ばす。

 暫く飛行すると森を抜けた。モニタリング端末は渓流に設置している。その渓流へと向かう途中に、小高い急峻な岩山がある。

 そこは、オオヒゲワシの群生地だった。


「ゴウ兄、戻ったよー」

「うむ、ご苦労。それにしても作業が格段に早くなったな。有線だったのに、無線通信と同じぐらいの時間で済んだぞ」

 メインディスプレイから視線を外し、ゴウは翔太を肩越しに見やる。そこには翔太の得意満面の笑みが炸裂していた。家族とアキト以外は、滅多に見ることのできない無邪気な笑顔だ。

「才能が開花したのさ」

「俺の兄弟の才能が開花したとは・・・素直に誇らしいぞ。だが、ちょーっとばかり、人という生物から遠ざかっていってる気がするな。もしかして中身だけでなく、外見まで人外へと変化しないだろうな? オレは兄として、少し心配になってきたぞ」

 ゴウの心のこもっていない心配を鼻で嗤ってから、翔太は種明かしをする。

「アキトの作ったシミュレーションが・・・凄くってさ」

「おおっ、そうなのか。アキトの自由研究は後3年半しか残ってないな。やはりアキトの才能をお宝屋の為に使い倒すには、宝船でトレジャーハンティングしてもらわねば・・・」

「いやいや、ゴウ兄。話は最後まで聞こうよ。シミュレーションが凄く底意地悪くってさ。巨大な昆虫とか、鳥とか、ムササビのような空飛ぶ哺乳類とか、そんな生物が宝船に体当たりしてくるんだよねぇー。しかも、突然雨が降ったり、突風が巻き起こったりもしてさ。それらを避けたり、防御したりするのにミリ単位の精度を求めてくるんだから・・・。宝船を移動させるのに、そこまで必要ないよなーと思いながらゲームみたいだったから、ちょっとハマったんだよね、これが。ボクはゲームクリアするのに色々と工夫したんだ。その結果、俯瞰と予測が身についたのと、マルチアジャストの精度が上がったんだよね」

「なるほど!・・・良く分からん!」

「簡単なことさ、ゴウ兄。今までボクは、ルーラーリングと機械の適合率100%なのを良いことに、機械の性能の限界に挑戦し続けてたらしいんだよね。そうすると疲れるしさ、周囲をみる余裕が少なくなってくんだよねー。適合率100パーセントなんだから、耳を澄ませば機械の声をはっきり聞きとれるはずだってアキトにアドバイスされたんだ。やってみたら簡単にできたんだよねー」

 翔太の愉しそうな声にゴウが素っ気なく応じる。

「まったく分からんが、もういいぞ。翔太が人間やめて才能を開花させた訳じゃないと・・・。俺は、それが分かれば十分だ」

「まだまだ語り足りないさ、ゴウ兄。ボクは、ちゃんと可愛い弟とのコミュニケーションをとっておくべき、と思うなー」

 軽薄な強引さが翔太の持ち味でもあり、

「うむ、メインディスプレイに向かって語りかけてても良いぞ。兄として、温かく見守っていてやろう」

 ゴウは暗に、メインディスプレイを見ろ言ったのだが、翔太の口からは緊張感のない軽薄な台詞がでてくる。

「いやいや。そこじゃないよ、ゴウ兄。ツッコんでくれないと、少しだけ恥ずかしいじゃないか」

 しかし台詞とは裏腹に、翔太の視線はメインディスプレイに釘付けとなっていた。その翔太に、ゴウは無表情かつ、平坦な口調で返答する。

「何を言う。翔太は俺にとって可愛い弟だぞ」

 台詞の中身とは、まるで印象が異なって耳に残る。ただ、台詞からも分かるように、翔太がツッコんで欲しい箇所をゴウは把握していた。しかし、シマキジのパイロットであるゴウには、全く余裕がなかった。

 シマキジの機体から二本の長い砲身が出現する。

 機体の上に一門、そしてもう一門は機体の下にある。そしてレールガンが出現した時、上は後部に砲台があり、砲口は前方を向いている。そして下のレールガンは前部に砲台があり、砲口は後方を向いている。

 ゴウは二門とも、シマキジ1時の方角に砲口を向けた。

「それならさぁ。感情を込めて言って欲しかったなーー」

 砲口の先には急峻な岩山があり、数十羽のオオヒゲワシが巣の周囲を遊弋している。どうやらオオヒゲワシの群生地らしい。獰猛な気性のオオヒゲワシは、自らのテリトリーに侵入した生物を敵と見做し、即攻撃するのだ。そしてシマキジは、そのテリトリーに侵入していた。

「今はムリだぞ」

 一旦上昇した数羽のオオヒゲワシがシマキジ目掛けて急降下してきている。

「うんうん、そうみたいだねぇーー」

 レールガンとはいえ作用反作用の法則から自由にはなれない。弾体射出の反動を別のエナジーに変えていても、完全に抑え込めることは不可能なのだ。

 いくら照準機能が優秀であっても、弾の射出した後にレールガンの反動を抑制してからでないと弾は命中しない。しかしレールガンで狙う獲物は、カミカゼより速い数十羽のオオヒゲワシ。レールガンを連射しないオオヒゲワシの鋭い爪と嘴がシマキジの機体に届いてしまう。

 シマキジの複合装甲を貫くのはムリでも、何羽ものオオヒゲワシがカミカゼ並みの速度で激突すれば撃墜できるだろう。つまり、ゴウと翔太の生命の危機が直前まで迫っていた。

 返事をしないゴウに、翔太は助け舟をだす。

「そうそう。それならさ、手伝おうか?」

 音速の10倍を遥かに超えた弾体がオオヒゲワシ貫き、胴体に大きな穴を空けた。しかも、シマキジ上部のレールガンから連射して全弾を命中させ、急降下してきたオオヒゲワシを残らず倒したのだ。

 この攻撃が戦闘開始の合図となった。

 巣にいたオオヒゲワシも飛び立ち、あっという間に100羽を超える。

「ふむ・・・翔太は休んでて良いぞ! いや、むしろ邪魔をするな。これは・・・これはぁあぁあー。俺の見せ場だぞぉおおおーーー」

 シマキジの前後に回り込んだオオヒゲワシは固定されたレールガンの餌食になっていく。その他は上下のレールガンの砲身が細かく動き、次々と弾体を射出する。

 ゴウはシマキジの機体を安定させる為だけに神経を集中させていた。

「良かった良かった。それじゃあ、ボクはゴウ兄にお任せするさ」

 そう言うと翔太は空いている座席に腰を下ろし、リクライニングにして目を瞑った。

 ゴウ兄のテンションが上がっているなら大丈夫だねぇー。ボクは本当に疲れたし、ゆっくりしてようかな。

 今まではセミコントロールマルチアジャストで、複雑な動作が必要な七福神ロボを操縦して数時間の模擬戦をアキトとこなしていた。それが9機とはいえ、単純な動作しかできないオテギネを20分間操作しただけで、脳の疲労が激しい。これは、自分のスキル・・・マルチアジャストに頼り切っていた所為なのか・・・。

 スキルを鍛えず、寄りかかって、楽をして・・・トレジャーハンターとして一流になるのにボクに操縦訓練は必要ないと考えていたからなぁー。苦手をなくし得意を伸ばさないといけないね。まあ、いいさ。効果的な訓練方法はアキトの役割だしね。

 それは任せてしまおう。

 それより今はリラックスして、脳の緊張を解ぐさいといけないよなぁ。10分もしたら、次のポイントに到着するし・・・。

 翔太の思考が淀み始め、心身ともに弛緩し、夢の世界へと旅立ったのだ。

 ゴウの放つ半端ない緊張感と外の凄惨な光景のなか、翔太の周囲だけがノンビリとした雰囲気を醸し出していた。

「安心して休んでろ、翔太。俺は俺の見せ場で失態を演じるなど、絶対にあり得ないぞぉおぉおーーー!!!」

 ゴウには、お宝屋代表としての経験がある。トレジャーハンターお宝屋のリーダーとしての経験がある。一人でトレジャーハンティングしていた経験がある。そして、常に最悪の事態を推測し、事前にリスクを推し測りっては、それを潰してきた実績がある。

 それらがゴウの放った言葉に重みを与え、翔太には安心を与えていた。


 風姫達が女子会をしている時・・・。

「恋敵に勝利するには情報が重要になるわね」

 千沙は惑星ヒメシロの喫茶”サラ”で、沙羅から受けたアドバイスを思い出していた。

「それとね。重要なのは嘘を吐かないことよ」

「え~っと・・・えっ?」

「嘘は人間関係を壊すわよね?」

「えっ?」

 嘘を吐かないのは、当然のことじゃないのかな~

「えっ、じゃないわよ。壊すわよねっ?」

「・・・は、い」

 この時の千沙は話の方向性が判らず、とりあえず肯定の返事をした。

「戦争では嘘も欺瞞情報として利用するのは有効よ。でもね、恋愛では絶対ダメよ。バレた時のリスクが、高すきするからねっ!」

「うっ、うん」

「だからねっ。自分に有利になる情報だけを開示するのよ。有利不利は、多角的に情報収集して判断することが重要ね。私の知っている話だとー・・・。遠距離恋愛中に彼氏が突然別れを告げてきたのよね。その彼氏は遠距離恋愛が無理だとか、色々理由をつけてきた・・・。仕方なくお別れしたの・・・でもね。本当の理由は、いつ死ぬかも知れない命懸けの職業に就いていてから・・・だから生きて帰れない日がくるかも知れない。彼は大怪我をして、危険を自覚して、本当の理由を告げずに別れを告げた。別れた後で・・・本当の理由を知った時の彼女の後悔は、計り知れないわよ。恋は盲目と言うけど・・・。だからといって、彼の言葉だけに耳を傾けていると間違えるわよ。複数の筋から・・・そう多角的に情報を集め、正確な判断ができていれば別れなくて済んだのよ。彼と一緒になるために王都で勉強してたのに、シロカベンへ戻る前にお別れるすることになるなんて・・・」

 千沙は怪訝な表情を浮かべ、沙羅の瞳を覗き込むように見つめる。随分と沙羅の話が逸れてきていたからだ。しかも知っている話が、経験した話に変化してきている。

 千沙の視線に気づき、沙羅は怒りから冷静な口調へと変えて仕切り直す。

「・・・とにかく。いい? 一般的には良いと言われるところ・・・しかし彼からすると良くないところ・・・そこを彼に教えてあげるのよ。そしてね・・・それは、逆も、同じ。恋敵からすると彼の良くないところ・・・そこを教えてあげるのよ。可能なら、第三者の口から彼に伝わると最高よ。そこまでいけば、もう謀略と言ってもいいレベルになるわねー」

 沙羅さんの恋愛観て、少し怖いかも・・・。

「そこまでするの~?」

「そこまでするのよっ! いい? 恋と戦争にルールはないから、相手を陥れてでも手に入れないと」

 さっきまで沙羅さんは、嘘を吐いちゃいけないって言ってたよ~。それは何処行っちゃったのかな~。

 千沙は柔らかく反論してみる。

「それは良くないですよ~」

「・・・ふーん? それで金髪のお嬢様に勝てるのかな?」

 あたしのライバルを知ってる?

「なんで?」

「うちは情報屋なのよねぇー」

「喫茶店じゃないの?」

「兼業しているだけね」

「どちらが本業なの~?」

 お茶目な性格の沙羅が、ウィンクしながら答える。それは21歳の沙羅に、ギリ許される仕草だった。

「それは私にも分からないわね。お宝屋がトレジャーハンティングユニットなのか、アキト君の護衛なのか分からないようにね」

 宝船のオペレーションルームの応接セットで、千沙が風姫と史帆に紅茶を振る舞っていた。ソファーに千沙が腰を下ろすと、暇を持て余していた風姫が紅茶の香りを愉しみながら尋ねてきた。

「暇だわ・・・ねぇ千沙は、アキトの幼馴染なのかしら?」

「幼馴染ではないよ。アキトは12歳の時に転校してきたの」

「転校? 珍しい」

 正直に答えて失敗したことに

 あたし、今なら沙羅さんの恋愛観が理解できるかも・・・。

「どうしてかしら?」

 風姫の質問に史帆が答えるより早く、千沙が口を挟む。

「そこで翔太と同じクラスになったの。翔太とアキトくんは、その日のうちに友達になったんだよ」

 アキトくんが、新開家の直系だと知られてちゃ不味いよ。新開一族だったら王位継承者でも、結婚相手として不足ないもの。

 絶対にアキトくんの家の話にはしない。

「それでね。翔太は卒業と同時にお宝屋で働くことを決めてたの。だから休日はトライアングル、トラック型オリビー、コウゲイシ、大気圏宇宙兼用の輸送機、恒星間宇宙船の訓練をしてたんだけど・・・」

「そうなんだ」

 史帆が短い言葉で答えた。声色だけでは分からないが、瞳が話の続きを強く促していた。史帆の興味を惹くのに成功したのだ。

「アキトは翔太に誘われて、訓練の見学に来たの。そして、運命的な出会いをして・・・あたしは、アキトくんと結婚するんだって、その時に確信したんだよ」

「運命的って、どういうことかしら?」

 風姫の表情が曇り、唇は強く引き結んでいた。気分を害しているのが、風姫を見なくても千沙に伝わってくる。

 千沙は史帆だけでなく、風姫も話に惹き込んだのだ。

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