第5章ー3 戦闘
《良かった良かった、アキト。まだまだ、面白い芝居を皆に提供できる。1機対1機だから、ミュージカルなんてどうだろうか? 僕らが歌い、七福神・モード2とセンプウが、舞台の端から端まで使って踊るんだ》
模擬戦闘中なのに、翔太は口を開く余裕ができたようだな・・・。
今まで翔太たちは、思考の陥穽に嵌り込んでいた・・・。偶然にも、翔太の能力を存分に発揮できる最適解を選択しやがった。
・・・参ったぜ。
お宝屋は人数が3人なので、7機のコウゲイシ七福神をフルに稼働してトレジャーハンティングしていた。そして戦闘において、数は力である。戦闘力は数に比例するのではなく、指数関数的に増加するのだ。
それ故マルチアジャストスキルで、翔太は七福神を複数機を稼働させ、オレは自分専用のコウゲイシ”オニマル”で模擬戦闘を行っていた。七福神ロボのどれよりも、機体性能ではオニマルが圧倒的に上であった。七福神ロボの機能を隠していたという事情もある。
1機対1機の模擬戦闘では、機体性能と作戦、策略、戦術を駆使して翔太を寄せ付けなかった。
作戦、策略、戦術ならオレが上だ。しかし操縦なら、翔太が遥かに上を行く。機体性能が互角なら、9割がた翔太の勝利に終わるだろうな。なにせマルチアジャストは、機械の性能を限界まで引き出せるんだ。戦闘において、機械と瞬時に適合できることより、機械の性能を限界まで引き出される方が脅威になる。
それに複数機を操縦するということは、複数機の視点と情報を手に入れられるが、決して戦場を俯瞰できる訳ではない。データ処理を行い、情報を整理する。それらを頭脳が有効に使って決断する・・・のは負荷が高すぎる。一度オレも試してみたが、5機を超えると作戦立案に支障をきたした。
操縦では、翔太がオレを遥かに凌駕するが、頭脳なら絶対に、それも圧倒的に優っている。
「ああっ・・・オレが踊るだって? 冗談きついぜ。テメーにダンスを指導してやるよ、翔太」
言い捨てると、アキトは七福神ロボのモード2に意識を集中する。
七福神ロボ5機分の武装が一斉に火を噴く。1機対1機だが、モード2は突撃艇というか、小型強襲揚陸宇宙船の戦闘力がある。アキトは一時たりともセンプウの加速を止めず回避し続ける。
もちろんアキトも轟雷で応戦していて、何発も直撃させている。しかしモード2の防御が堅すぎるのだ。可動部分を殆どなくし、帆などで弱点を覆っただけのことはある。それに翔太は、姿勢制御のための推進装置を巧みに操り、防御力の高い場所で轟雷の攻撃を受けるようにしている。
轟雷はトリガーを引く必要がなく、ロイヤルリングからの命令で即座に発射できる。それにも関わらずだ。
翔太の反応速度と動作予測は、もはや人間業じゃない。
まったくよぉ・・・反応速度と相手の動作予測だけなら、ジンともイイ勝負になるだろうぜ! ジンは人間じゃないけどな・・・。
《翔太よ。七福神ロボの変形合体というクライマックスは終了したんだぞ。ダラダラ遊んでないで早く終わらせるのだ》
《いやいや、ゴウ兄。折角の機会なんだから、モード2の機能を色々と試してみないとね》
翔太の台詞通り、七福神ロボ・モード2には色々な機能があるようだ。
鹿の角が回転しながら的外れな方向に進み、弧を描きながらセンプウへと迫・・・らなかった。
何がしたいのか?
ホントに全機能を試したいだけなのか?
アキトが判断に迷っているうちに、鹿角は推進装置で弧を描きながらモード2に戻っていった。
《それにさぁー、モード2を操縦するのは、すごく楽しいんだよ。モード2の全機能を扱うには、全力全開でないとムリかな?》
ああ、うん。この発言の前半は翔太らしいな。だが後半の台詞は、脅威にしかなり得ない。翔太のスキルを持ってしても、全力で操縦する必要があるというのは、それだけ機能が・・・武装が多いということだ。
果たして、初見で対応できるか?
身構えているアキトに、七福神ロボ・モード2は様々な武器を使用してくる。鹿角の次は鶴の翼が、モード2から回転しながら発射され、また戻る。鶴の嘴が開くと、レーザービームが放たれた。釣り竿レールガンの弾が切れたらしく、弾倉になっていた鯛が泳ぐように・・・ホントに体をくねらせながら、七福神ロボ・モード2から離れる。センプウと七福神ロボ・モード2の中間地点に鯛は陣取って停止した。だが、体はくねらせ続けている。どうやら鯛は、攻撃と無縁らしい・・・。そして色々な形状の砲塔から、様々な威力のレーザービームが放たれている。それらの攻撃は、1撃たりともセンプウの傍を通りはしなかった・・・。
《ああーそうそう、安心して気楽に見ててくれればイイよ。僕が勝利者になるからさ》
七福神ロボ5機が、変形合体して1機になり、5機分の火力がモード2に備わった。その結果モード2は、センプウと比較にならない程の圧倒的攻撃力を手にした。砲撃戦では、アキトの不利を覆すのは無理がある。
命中すればだが・・・。
しかも全長5~60メートルぐらいあり、センプウの数倍はある質量の突撃艇を翔太は軽快に操っている。その機動力は、センプウと同レベルに達している。これで大黒天の米俵ジェットが健在だったら、センプウは機動力でも負けていた。
アキトは翔太の宣言に対して、短く疑問を呈する。
「そうかな?」
勝てる勝てないは別として、いつもなら翔太の勝利宣言を即座に否定するとこだぜ。だが、切り札の存在を気取られてはならない。行動は大胆に、言動は慎重にすべきだな。
機体の戦闘能力の合計値だけで勝敗が決まる。それが正しいかったなら、ジンがデスホワイトと呼ばれることはなかったはずだ。
それは、操縦者に対しても同じだぜ。
反応速度が早く、動作予測が精確でも、無駄な動きが多く、対処法が間違っていれば、勝負には勝てない。それを証明してやる。
《翔太。きっと余裕なんてないよ! だってアキトくんの顔・・・順調に作戦が進行している時の顔になってるの。絶対に今のままじゃダメだよ~。あたしはアキトくんと、惑星ヒメジャノメで7日間のデートがしたいのっ。だから絶対に勝って欲しいからぁ~~》
段々と小さくなる声と口調から、胸の前で手を組んで、祈るようにお願いしている千沙の姿が容易に想像できる。
《ふむ、だがな翔太よ。窮鼠猫を噛む、という言葉があるのだ。アキトがネズミでなく、ナマケモノだったとしても油断するのは良くないぞ》
どっちかというと、オレは勤勉な方だぜ。
《まあまあ、七福神ロボ・モード2なら負けはしないさ》
翔太。戦闘の勝敗は、機体性能やパイロットのスキルだけで決まる訳じゃない。他にも様々な要素が絡み合うんだ。単純化しすぎて検討すると戦況を見誤るぜ。
「どうやってだ?」
アキトは1撃1撃に意味のある攻撃を続けている。悟られないよう適度に、翔太の意識を逸らす攻撃を加えながら、隅へと追い込んでいく。
正六面体に設定された指定戦闘宙域外へと脱出したり、押し出されても負けになるルールなのだ。
そして隅に追いつめられた状態での応戦は、非常にリスクが高くい。なにせ動ける範囲が限られ、攻撃を避けるのは難しいくなるからだ。翻って追い詰めた側は、自由に軌道を描き避けながら、相手に攻撃を加えられるのだ。
センプウは、すでに隅と言って良い位置まで、七福神ロボ・モード2を追い込んだ。
アキトは轟雷の威力を最大にまで引き上げ、苛烈な攻撃を加え始める。
隅に追い込むまでは、轟雷の威力を半分以下に落としていたのだ。砲身の使用不可判定がでたら、主武装がなくなるからだ。
だがな・・・。
七福神ロボ・モード2を追い詰めたんだ。
一気に勝負を決めてやるぜ。
《そうそう、こうやってかな》
翔太の台詞と同時に、七福神ロボ・モード2の一斉攻撃始まった。
レーザービームが無秩序に放たれるが、センプウの腕や脚を掠めるようになっていた。レーザービームの他に、七福神ロボ・モード2の各所から、合計20発以上のミサイルが発射される。
レーザービームの光とミサイルの噴射炎で、アキトの視覚が一杯になる。そして鹿角と鶴翼が回転しながら弧を描き、4方向からセンプウの背後に迫る。
先程までと異なり、センプウの脅威になる攻撃の連続だった。
七福神ロボ・モード2の武器を1回試しただけで、翔太は完全に把握したようだった。それにマルチアジャストのスキルを全力全開で発揮し、防御しながらも全ての攻撃手段を繰り出している。
《どうかな、アキト。七福神ロボ・モード2と僕の全力は》
翔太の声は、ホントに愉しそうだった。
全力全開でマルチアジャストのスキルを使うことなど、今まで翔太にはなかったのだろう。
センプウはミサイルをすべて轟雷で破壊した。しかしセンプウの四肢にレーザービーム当たり、使用不能と判定される。
《ふっはっはっははーーー。どうやら、勝負があったな。アキトよぉおおお》
センプウの背中に、鹿角と鶴翼の計4枚が命中する。
《やったぁ~。惑星ヒメジャノメでアキトと7日間デートなの~》
ゴウと千沙に対して、彩香は冷たい声音を奏で、切って捨てる。
『お宝屋とは、やはりバカなのですね』
『うむ、そのようだな。そして終わりだ。往け、アキト』
ジンの言葉に応えるよう、アキトは強烈なGの中で肺腑より声を絞り出し、勝利を宣言する。
「そうだっ! 終わりだぜ、翔太っ」
鹿角と鶴翼は手打鉦に傷一つ付けられず、センプウを更に加速させる結果に終わる。
《いやいや、僕の全力で・・・。あれあれ?》
《どうしたのだ、翔太っ》
七福神ロボ・モード2は、まったく動かない。
センプウの轟雷から放たれた無数のレーザービーム全てが、七福神ロボ・モード2を捉え撃墜判定が下ったのだ。
『アキトの勝ちだわ』
『お宝屋の身の程知らずが証明されたようですね』
《アキトくんとの7日間デートがぁ~》
『うむ、アキトの考えた切り札が有効だったようだな。翔太とやら、汝の健闘を称え、我が惑星ヒメジャノメで少し手解きしてやろう』
《いやいや、それじゃあ罰ゲームだよね?》
『汝らはヒメジャノメ星系で7日間、我らの下僕となったのだ』
『ジン様、ご褒美を与えてどうするのです?』
お宝屋とジン達が心温まる交流を深めている間、アキトは一言も言葉を発していないかった。
『どうしたのかしら? アキト、早く戻ってきなさい。少しは褒めてあげるわ』
《アキトくん、どうしたの~》
「・・・」
《アキトくん・・・、アキトくん・・・。アキトく~ん~》
千沙が泣きそうな声を出した。
『今、行くわ。待ってなさい』
風姫は、異常を察知し行動に移したのだった。
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