第5章-2 戦闘
リモートコントロールで次々と機体を変更して操縦する為に、翔太は極限まで集中力を高めている。翔太は真剣な眼差しを7つのディスプレイに向け、ルーラーリングに全神経を注いでいるはずだぜ。
虎穴に入らずんば虎子を得ず。全力で勝機をつかみに行く。
翔太は7機を操り、戦術を駆使して戦うつもりだろうが、作戦の読み合いなら負けはしない。そして操縦技術の差は、機体性能と特訓の成果で埋まるはずだぜ。
半球陣に突入する前に、削れるだけ削るぜ。
アキトの駆るセンプウは、大黒天に狙い澄まし、轟雷の一撃で撃墜したのだ。
《バカな・・・あれがサムライの・・・軍用の武装の性能だというのか》
ゴウの呻きと同時に、弁才天にも撃墜判定が下った。アキトの先制攻撃が功を奏したのだ。
弁才天には、もう片方の轟雷を連射モードにして牽制射撃し、往く手を阻んだ。全8発の誘導ミサイルの模擬弾を一斉発射したのだった。この模擬ミサイル弾は、スラスターの横に装備できるオプションからアキトが自分で選択していた。
『アキトは、相手の手の内を知り尽くしているようだな』
《それは俺らも一緒だぞ。そして七福神ロボは、5機も残っているのだ。それに比べてアキトの武装はどうだ? 雷2挺ではないのか? 翔太の圧倒的才能の前に、散り去れ、アキトッ!》
《散り去ったら駄目だよ。ゴウにぃ~》
《そうか・・・それは、そうだな。良し往け、翔太よ。アキトを葬り去ってしまえっ!》
葬り去られてたまるか? こっちは惑星シュテファンで死にそうな目にまであって鍛えられてるんだぜ。
《葬り去ったら、もっと駄目だよぉ~》
『アキト、さっさと面白屋劇団を叩きのめすのよっ! 手加減は必要ないわ』
「まったく風の妖精姫は、物騒だよな。そんなんだからルリタテハの破壊魔なんて、2つ名をつけられんだぜ」
七福神ロボが5機に減ったからといって、楽になる訳じゃないんだぜ。翔太のマルチアジャストで怖いのは、瞬時にマシンに適合するとこじゃない。マシンの隅々まで把握し、性能を限界まで引き出せるところにある。
4機ぐらいまでなら、翔太の動きを予測して作戦を立てられる。5機以上だとパラメータが多くなりすぎて、まったく読めなくなる。
『失礼だわ。アキトの分際でっ!』
『アキトの分際で??』
史帆だけが疑問をもってくれたようだった。
『アキトのルビは下僕だわ』
『・・・なるほど』
納得するのかよっ!
心の中で突っ込んでおいた。
オレには、口を開く余裕がなくなっていたからだ。
新造七福神ロボの性能は凄まじく、牽制射撃と回避で手一杯になっていた。福禄寿と寿老人の防御力が高く、中央突破は予想通り不可能だった。その所為で、今や上左右前からの攻撃にさらされている。
上から毘沙門天のレーザービームが降り注ぎ、左から恵比須の釣り竿レールガンの乱れ撃ち、右からは布袋が堪忍袋の口を広げミサイル攻撃を受ける。後退しながら、雷の性能で判定されている2挺の轟雷で毘沙門天を集中的に攻撃する。
無論、中央突破が目的と思わせる為であり、それが、いつもの作戦なのだ。
突破できれば良し、できなければ翔太に同士討ちさせる為に・・・。
だが、今回は勝手が違った。
福禄寿と寿老人に、強力な攻撃手段があったからだ。スナイパー用の大型レーザービームライフルを持っていたのだ。
このため牽制射撃と回避しかできず、後退を余儀なくされていた。
『ジン様の特訓を受けているにも関わらず、この体たらく・・・。訓練を倍以上に致しましょう。わたくしは、最近アキトに甘くしていたと猛省しています』
どこがだっ?
《あたしならアキトくんを、すっっっごく甘やかしてあげるから~。いつでも、お宝屋に戻ってきていいよぉ~》
千沙は甲斐甲斐しく世話をしてくれる。甘やかしてるつもりかも知れないが、緊張を解くとオレの命が危険になる。
『彩香、大丈夫だわ。アキトは負けたりしないから・・・。負けたら、ジンは訓練量を3倍にはするわ。それと私と彩香で、アキトに対人戦闘訓練をしてあげましょう』
『それは良い考えです、お嬢様。それで行きましょう。わたくしは早速対人戦闘訓練のメニューを検討しますね』
彩香の声は弾み、とても嬉しそうである。
「色々とよぉ、気楽に言ってくれるぜ」
オレはジンの教え通り、全索表シスで翔太5機の配置を確認しつつ、正面ディスプレイも視界入れ、サムライシリーズ2つの視覚情報を交互にみる。詳細情報はクールメットに半透明で映し出されている。
コウゲイシの限られた情報だけだったなら、既に負けていただろう。
楕円軌道を基本にし、回避機動を楽に取れるよう動く。命中しそうでいて、全く命中する気配がない。
翔太ぁあああーーー。
今日こそ、1機対7機で勝たせてもらうぜっ!
アキトの魂の叫びは、音声として口からはでなかった。もし音声になっていたら、ユキヒョウ乗組員の少なくとも3人は、1機対5機でも勝利したことないとのツッコミを入れただろう。
もちろん3人とは、風姫、ジン、彩香である。
ロイヤルリングと史帆の設定によって、適合率は96パーセントになり、センプウの反応速度もあがっている。
そして七福神ロボは、翔太がリモートコントロールによるセミコントロールマルチアジャストの所為で、微少とはいえタイムロスが発生している。
アキトの攻撃が、徐々に毘沙門天の装甲を侵食する。それでも未だに5機残っている。毘沙門天以外へは牽制しかしていないから、翔太がミスでもしない限り破壊できない。
「アキトは想定以上に仕上がってきたな。我による訓練の成果であるのは、論を待たないがな」
「ジン様。それでは操縦訓練の他に、アキトには対人戦闘訓練を開始した方が良いと考えます。お嬢様より弱いとはいえ、多少なりとも身代わりになれるぐらいに鍛えます」
センプウのレーザービームが、毘沙門天の右腕部を直撃した。肩から下の右腕全部が使用不可となる。
「ジン、どうしてアキトは接近戦をしないのかしら? そうすれば、着実に1機ずつ潰せるわ」
「近接戦闘用の武器使用を、我が禁止にした。良いか、風姫。様々な機会で鍛え上げねばならぬ。そう、これはアキトの訓練も兼ねているのだ」
「負けたら私たち、手伝うことになるわ。7日間もよ・・・。リスク対策はできているのかしら?」
攻撃力の半減した毘沙門天にアキトは興味を失ったようだ。センプウのレーザービームが、連射モードで他の4機に襲いかかる。
「風姫よ。先読みとリスク対策を考えるよう教育したのは我だ。無論、抜かりはない」
ジンは言葉を続ける。
「アキトとヘルを20時間連続稼働させる。さすれば、ヤツら2人で5人分になるな。そして彩香と史帆で、1人分の作業を請負わせるのだ。彩香には、その作業分の怒りをアキトの戦闘訓練で発散してもらう。完璧なリスク対策だと自負している」
「流石はジン様です。わたくしの要望も入っているので安心いたしました。あの筋肉ダルマに命令されたストレスだと、相当な戦闘訓練が必要になりますね」
「アキト、死なないかしら?」
風姫の心配を無視して、彩香は自分の希望を口にする。
「ただ7日間ともなると・・・わたくしがストレスに耐えられるかどうかです。思わず筋肉ダルマを、地獄の入口に誘い突き飛ばしてしまうのではないかと心配・・・いいえ、それはそれで愉しみではありますね」
「アキトはアキトで、秘策を準備していたがな・・・。負けるそうになったら発動するだろうが、使う必要はなさそうだ」
ジンは弟子の成長に満足気な笑みを浮かべている。
「勝負あったかしらね」
毘沙門天の左腕にも、センプウのレーザービームの命中判定が下されていた。毘沙門天に興味がなくなっていた訳ではなく、他の4機からの攻撃を警戒して牽制していたのだ。
毘沙門天の攻撃力が激減したのを確認したアキトは、標的を布袋に変更する。滑らかな軌道に、踊るような動作で、センプウは危なげなく戦闘を続けている。
サムライシリーズを操縦する前のアキトなら、手負いを先に完全撃破してから、他の獲物に攻撃をしかける。しかし、センプウには全表索シスがある。七福神ロボの配置が分かれば、いくらでも有効な策がうてる。いくらでも戦術を使える。
コウゲイシを操って模擬戦闘していた頃は、翔太の操っている七福神ロボの配置を推測で補っていた。その時は安全策をとったり、危険だろうと予測できていても賭にでたりして戦っていたのだ。
今のアキトは安全策だけを選択していても、間違いなく七福神ロボに勝てるとジンは確信した。
我は己の指導力に自信を持っていたが、こうも上手く成長されると過信してしまいそうだな。
《翔太ぁあああーーっ! 今こそ、七福神ロボのぉおおお、真実の姿を見せつける時だぞぉおおおおおーーー。往け翔太よ。モード2だっ!》
布袋ロボの堪忍袋からはミサイルだけでなく、何度か訳の分からない武器が取り出されていた。
「ほう、七福神を1ヶ所に集合させようとしているようだな。それに対して、アキトも良い反応をみせている。ようやくサムライに慣れたようだ」
ジンは風姫たち同様ディスプレイに視線を向けているが、戦略戦術コンピューターを通して戦場全体を俯瞰して眺めている。轟雷で牽制射撃という名の嫌がらせをしつつ、七福神が集合する位置を把握したようだな。集合する直前を叩ける位置に、センプウが陣取ろうとしている。
手足のようにセンプウを操縦できるようになって、アキトの頭脳は作戦の立案に全力を傾けられる。頭の良さで考えながら操縦していた時でも風姫を圧倒していたのだ。考えずにセンプウを操縦できるようになった今、敵の動きを予測し罠に嵌めることなど造作もないのだ。
「これで決着だわ」
風姫も直感から、勝負の行方が分かったのだな。
「アキトが勝つ?」
まだ史帆は、戦況を理解できないようだ。徐々に鍛えねばらならぬ。エンジニアの働きが、戦況を左右することもあるのだ。少数の乗組員しかいない現状では、特にそうなのだ。
風姫が笑顔を浮かべ、断言する。
「勝つわ」
《ちょっと、待てぇええええええーっい。七福神ロボが変形合体するのだぞ。これを見ずして何を見るというのだ、アキトォーーー》
《アキトくん。これからが、翔太の最高の見せ場なんだよ~》
『バカか? 戦闘でチャンスを逃すのは、自殺と一緒だぜ』
「模擬戦闘をアトラクションとでも勘違いしているのかしら?」
《アトラクション? う~ん、舞台はクライマックスに突入。乞う、ご期待かなぁ~》
「見たい見たい見たいのだぁあああああ。そして我輩はぁあああああ、宝船と七福神ロボが欲しい、欲しい、欲しいのだぁああああ。その技術、設計思想、ともに我輩の目で確認するに相応しいぃいいいいいのだっ・・・はぁはぁ」
《良いか。そこの変態でマッドな禿頭よ。この宝船と七福神ロボはお宝屋の伝統にして、代々引き継いできたものだぞ。トレジャーハンティングユニットお宝屋と共に、永遠になるのだ》
両腕を組んだ怒り心頭のゴウが、鬼の形相でヘルを睨む。しかしヘルは、威嚇した後に己の欲求を口にする。
「がっ、ふぅうううーーー・・・だから何だというのだぁあ。我輩に寄越すのだ。丁重に分解、分析、解析を実施して・・・」
『ゴウ、何が永遠だよ。それって思いっきり新品だろ』
戦闘中だったが、アキトは突っ込まずにはいられなかったようだ。
その言動は僅かながら、アキトの攻撃を雑にしていた。ジンは、この模擬戦闘で最初の減点だと考えながらも、お宝屋に追加要求するのに利用する。
「七福神ロボの合体まで待つには代価が必要だな。24時間、ユキヒョウの全乗組員が宝船と七福神ロボを心ゆくまで見学させるのだ。これが誓えるなら、待ってやるが?」
『ちょっと待ったぁー。戦っているのはオレだぜ! オレの意志は?』
《うむ、良いだろう。お宝屋の代表である宝剛が誓約する》
『いや、だから、オレの意志は?』
《すでに誓約がなったのだぞ。相変わらず変なところでウルサイな、アキトよ》
ヘルがジンに声をかける。
「ジン」
ジンは顔を動かさず、視線だけヘルに向けた。
ヘルは、宝船と七福神ロボが欲しいと、ジンに視線で訴えている。しかし、どう妥協点を探ったとしても、それは有り得ないのだ。
有り得ないことを有り得ることへと、幾度も実現してみせたため、どうにかなるのではと期待しているらしい。自分の欲望に忠実だからマッドサイエンティストになれるのだろう。しかし評価できるのは才能だけで、人間としては最底辺に位置しているのを、ジンは改めて確認した。。
ヘルの言いたいことを1ミリも誤解せず、きっぱりと、ジンは最後通牒する。
「ダメだ」
『変形合体している最中に攻撃する予定が・・・こんなことなら、リスクをとってでも倒しに行けば良かったぜ』
ぼやきながらもアキトは、可能な事を行い、勝利のために最善を尽くす。
センプウに七福神ロボの周囲を、色々な軌道で飛び回らせている。
直接攻撃は禁止されていても、データ収集とその分析は禁止されていない。というより、そこまでの取り決めはされていない。取り決めにないことは解釈次第であり、解釈の違いを訂正する時間はない。
様々な角度から多岐にわたるデータ収集して、センプウの戦術コンピューターで七福神ロボの攻撃手段、防御の固さを分析していた。
5機の七福神ロボが集まり、翔太が高らかに宣言する。
《七福神ロボォーーー、変形合体。モード2》
寿老人を中心に次々と七福神ロボが合体していく。腕や脚の可動部分が団扇、巻物、帆に覆われた。前部は福禄寿の鶴がガッチリと固定されていて、鋭い嘴と広げた翼が刃物のようだ。下部には、恵比須の2本の腕が肘から先だけ出ていて帆柱と杖を持っている。
攻撃手段のみが可動部分となっている他は、一体化している。
ただし、上部と後部に大きな窪みがある。上部は弁才天が、後部は大黒天が納まりそうな形状だった。
七福神ロボのモード2のコンセプトは突撃艇である。
レーザービームで攻撃しながら、大黒天の米俵ジェットで敵に突撃するのだ。体当りに耐えられるよう可動部は極力なくし覆う。また突撃艇の様々な方向に窪みあり、七福神ロボの推進部が入っている。突撃中でも細かく進行方向を調整して標的を逃さない。
モード2の武装の中で特筆すべきは、備えている全レーザービーム砲をがあれば、どの方向へでも発射可能であること。そして反動は、各所にある推進部で抑え込んだり、姿勢制御に利用することを可能にしていることである。
ただし、毘沙門天の腕が使用不可となり、弁才天が撃破された状態では、レーザービームの発射方向は限られる。
《どうだ、アキトよ。変形合体はぁあああ》
「素晴らしいぃいいいいいーーーーー。我輩の感性を直撃したっ! ど真ん中を突き抜けていったのだぁああああーーーー」
ゴウに共鳴したのかのように、ヘルが魂の叫びをあげた。
「黙れ、ヘル! 我は、お宝屋の無駄な足掻きを存分に愉しみたい。すでに我の目には、お宝屋の唖然とする姿が映っている。しかしな、事実と予想が重なる瞬間を見逃すわけにはいかぬ」
翔太が、いつもの調子で軽口を叩く。
《いやいや、その目が節穴であることを証明してみせるよ》
『随分と余裕あるじゃねぇーか? オレが操縦しているのは、正真正銘の人型兵器、サムライシリーズのセンプウなんだぜ』
センプウは一瞬の遅滞もなく動き続けている。戦術コンピューターがアキトに示している分析結果の情報は芳しくないからだ。弱点はないか探っているのだ。
そしてジンは、センプウの戦術コンピューターの分析結果を、ユキヒョウの戦略戦術コンピューターから入手している。
《まあまあ、アキト。落ち着こうよ。ちなみに、モード1だと1体のロボットになるのさ》
「その情報は、この模擬戦闘に必要かしら? 手加減無用だわ、アキト。さっさと実力差を教えてあげるといいわ」
「お嬢様の言う通りですね。変形合体が完了したのなら、戦闘を再開しなさい」
《ふむ、そうだな。いいかアキトよ、七福神ロボはモード7まであるのだぞ》
「いいから再開しなさい」
宝豪と彩香の相性は、最悪なのかも知れぬな。我は嫌いではないないのだが、元が真面目なメイド長だったからな・・・。
《う~ん、10カウントで良いかなぁ、アキトくん?》
『いいぜ』
《それじゃあ、いくよ~。10、9、8・・・》
センプウと七福神モード2は戦闘再開に向けて、ゆっくりと距離をあけていった。
《2、1、0~~~》
再開の合図とともに、七福神モード2はレーザービーム砲を放ちながら一気に距離を詰めにかかる。それに対してセンプウは、距離を保とうとしながら轟雷を撃ちまくる。
戦闘再開は、派手な砲撃戦から始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます