平民編

26日目 逃げるのも楽じゃない

 凡人編の教習を無事に終え、晴れて新たなクラスの教習に来たアナタ


「ようこそ勇者候補よ、待っていましたよ」


「・・・・」


「今までの試練を乗り越えよくぞここに来られました。これでアナタは・・・みごと平民クラスに昇格しました!」


「・・・・」


「残り日数少ないし、もしかしてそのまま終わるの? はいその通りです! アナタは冒険者ですらない旅人以下の存在として教習を終える事でしょう」


 女神はそうハッキリと言い放った


「・・・・・」


「そう落胆しないでください。教習を終え平民から旅人になるか、戦闘技術を極め戦士になるか、索敵や隠匿を得意とする盗賊紛いの者になるか、はたまた神秘を学び精神をコントロールする事を覚えて魔術師になるかはアナタ次第です。この教習を乗り越えればそれ等に進むための勇者の卵にはなれるでしょう」


「・・・・・」


「さて、勇者候補よ。記念すべき平民編の第一回目の教習は逃亡です。逃げろとは教習で何度か言いましたが、肝心の逃げ方をまだお教えしてませんからね」


「・・・・・」


 女神はホワイトボードにチンピラの絵を描いた


「まず、暴漢などに正面から襲われた場合、さっさと叫んで助けを求めましょう。他の人を巻き込んで相手が想定する戦力以上のものを相手にしなければならない脅威を与えてやるのです。巻き込まれた人は被害を被るでしょうがね。逃げる時は相手からできるだけ目を離さず、モノを投げたりして離れてください。上手く距離をとってから全力で逃げましょう」


「・・・・・」


「かっこ悪い? そう言わないでください命掛かってるんですから。ただタスケテ―と叫ぶだけでなく。相手の特徴や何を要求して来たのか叫びまくって、相手の情報と状況証拠をばら撒いてやるのです。手負いの獣の如く、ただでは死なんぞ!もし私に何かしようものなら必死に抵抗してらるからな!と相手に伝わるような気迫を見せて全力逃亡です。並みの強盗なら相手を間違えたと思う事でしょう」


「・・・・・」


「火事だと叫ぼう? 襲われてる!と言うと人が来ないからそう叫ぶ手はありますが、逃げながら移動している時点でその手は使えないですよ。もし善良な人が逃げながら火事だと叫ぶアナタ声を聞いたら、消火の為に逃げるアナタの前に立ちふさがって、どうにかアナタを落ち着かせて出火場所を聞こうとするでしょう。下手するとその善良な人ごとアナタは暴漢に殺されます。ちゃんと今の状況を考えて行動してください」


「・・・・・」


「それと相手にとっては火事だと叫ばれた方が都合がいい時もあります。目的がアナタの命ならさっさと叫ぶのに夢中で油断しているアナタを殺して、もし助けが来たら、”俺も火事だと聞いて助けに来たんだが既に刺されてたんだ、応急処置をしようとしたけどダメだったよ”とか言ってしらを切り、隙を見てその場から逃亡するでしょう。相手の目的を見極めて行動しないと命とりです」


「・・・・・」


「見極め方? そうですね何か要求が有るのなら犯人はそれを口に出して言うでしょう。殺す気なら喋る必要が無いので黙って実行します。 まあ一般論で強盗目的でも状況が変われば殺してくる危険もありますし。周りにアナタと自然な会話をしてると見せかけながら殺してくる事も有るでしょうけどね。助けを求めるにしても自分の安全は確保しつつ行うべきでしょう」


「・・・・・」


「さて次、先ほど言った様に何らかの事情で叫べない事も有るでしょう。そもそも治安が悪すぎて誰も気にも留めないとかですね。それだとただ逃げるしかないですが、逃げ切るのも真正面から戦って倒すのも難しい場合は、熊の逃げ方を参考にしましょうか」


 次は絵本の様な熊の絵を掻きながら女神は説明した


「・・・・」


「熊は猟師に遠くから撃たれると、まず茂みや森に逃げます。そのまま逃げるのではなく森に身を隠して猟師が来るまで待つのです。そのまま猟師が来ず、無事に逃げ切れればそれでよし、もし来たら隠れた場所から奇襲し猟師を仕留めるのです」


「・・・・」


「この様な作戦は人間同士にも当てはまり、もしアナタが追う側で、追いかけていた人が視界から消えたら警戒しましょう。”相手に怪我をさせたしこちらが有利!見失ったがこの先に居るはずだ!”と相手が居るのを分かっていながら飛び込んで返り討ちにならないように。逆に逃げる側なら一瞬でも相手がこちらを見失う場所を選んで逃げ、適当な場所で追跡者を仕留めましょう」


「・・・・・」


 女神は何故かトレンチコートを着こんだ


「さて、お次は追跡について。追跡者は対象に気付かれない様に相手の足を見ながら追跡して来る事が多く、無意識に相手と歩調を合わせてしまう事が多いです。そこで自分が歩調を乱したら、それにつられて歩調を乱した人間が居たら追跡者の可能性が高いです」


「・・・・」


「しかし追跡者が居たからと言って慌てない事! 互いの死角をカバーし、対象を見失うリスクを下げる為、追跡は複数で行うのが基本です。そして仲間が居る可能性も考え、追跡者を物陰に誘い込んで捕らえようとしない様に! 追跡のテクニックにはわざと相手に存在を見せ、対象の行く先を誘導しようとする場合もあり、捕らえようとしたら逆に捕らえられるなんて事にもなります」


「・・・・・」


「逃げたい時? 追跡者が何の目的で追ってるか心当たりが無いかよ~く思い出してみましょう。 襲撃してこないのは何故? 追跡者が人目を気にしてアナタに手を出してこないのなら、どうにか人目の有る場所でまく必要が有ります。公共の交通機関が有る場所、チケットが無いとは入れない劇場、セキュリティがしっかりしている高級店等、相手が嫌がりそうな場所に行きかく乱するのです」


「・・・・・」


「また、このまま目的地に行くか宿に戻っても問題無いか? 相手がアナタの行動範囲をある程度把握してるなら、まいてもそこで待ち伏せするでしょう。本気を出されてしまうと対処が難しいのが現実ですね。信頼できる人物が居るなら、その人に対処をお願いするしかありませんね」


「・・・・・」


「さて、今回の教習はここまでにしましょう。帰り道にお気をつけて勇者候補よ」


 そう言って女神は去って行き、アナタは日常に戻っていった

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