悪魔討伐篇

第30話 シロ「授業中の子守歌はおじいちゃん先生に限る」


 冒険者ギルドとは、魔物などの討伐をして生計を立てる冒険者を管理している組織である。ギルドはどの国にも支部が存在しているため、ギルドカードは身分証明書になる場合が多い。

 ランクごとに強さが設定してあり、多くの冒険者はBランク止まりである。Aランクともなると指名依頼が増え、世界各国にその名前が轟く。Sランクは過去に存在したが現在はいない。


 一番低いGランクは、未成年である。未成年のため、保護者やギルド職員等の引率が無い場合、町の外へ出る事や、勝手に魔物と戦闘するなどの行為は原則禁止とされている。



 うんぬん、聴いている私は物凄く眠気が酷い。クロに至っては目を開けながら寝ている、器用すぎるわ……。



 今日はギルド本部にある研修室でお勉強です。

 なんでも最近、Gランクに登録する子どもが増えたことと、調子こいて町の外、城壁の外へ出ようとするGランク冒険者が増加しているらしい。危機感を覚えたギルドがGランク冒険者全員を集めて、研修という名のお勉強会を開催したというわけです。

 え、私? 何も知らないなー!

 

 女のギルド職員の話を聞いている子どもは全員で二十人ほど。多くは孤児院の子で、小遣い稼ぎで登録しているらしい。この子達は真面目なので、広場の掃除とか公共の仕事しか受けないめっちゃいい子。

 貴族の子どもが数名。こいつらが調子に乗って力試しと称し、親に黙って魔物を倒しにいこうとしたんだとか。すぐ門番のおんちゃんに捕まったらしいけどね。


 で、私とクロとトマは嘘をついて壁の外どころか、危険なお外で一晩過ごした三人組としてギルドに目をつけられてしまった。基本的には貴族のお子さんたちと私達のせいで、こんな基本的な勉強会を受けることになったのだから、関係のない子達にはごめんとしか言いようがない。まじごめんよー。反省はしてないけどな!! 

 元教師の癖にとか言わないで、教師側なら生徒に注意しなきゃいけないんだからね!! そして「まじ無いわーあのセンコー少しくらい見逃せよ」とか言われるんだからっ!



 座学の後は、実技である。

 車の教習所みたいだな、という感想を持ちつつ。案内されたのは、ギルド内にある闘技場。ここでランク上げの試験をしたり、怪我をしてブランク持ちになった冒険者へ練習用に貸しているんだとか。


 女の職員さんが色々説明しているのを聞き流していると、鬼のように角が額から二本生えた強そうな男のひとと、黒い三角帽子を被りスリットがきわどい黒色の服を着た女のひとが現れた。その後ろには見知った顔、レオンさんもいる。

 私の視線に気づいたレオンさんはフッと笑った。瞬間、子どもの黄色い声が上がる。

 え、レオンさんってアイドル系冒険者? かと思ったが、男の子も叫んでいた。


「Aランクパーティーの『紅蓮の獅子』じゃん!」

「本当だ! リーダーのレオン様と鬼族のヤジロベエ様だ!! めっちゃかっけぇ!!」

「魔法使いのビビアン様もいる! 凄い綺麗な人!!」

「ビビアン様、やばいな、」

「やばいな、胸が……」


 なんて、言っている。レオンさん、かなり有名人だったぽいなとクロに言えば、「うん」と興味無さそうに頷いていた。こいつ寝ぼけてやがる。

 ビビアン様の張り裂けそうな胸に興味がないトマも「シロさん、これ終わったら父さんに会いに来てよー」と私の服をちょこっと引っ張っている。

 お前ら、巨乳だぞ? 見て損ないだろ。いいのか目に焼き付けなくて!!


 私はしっかり揺れる様を見物させてもらうがな!!



 子どもの歓声を受け止めた紅蓮の獅子の三人。

 職員さんが「今日はAランク冒険者パーティー『紅蓮の獅子』のメンバーの方にご協力いただいて、冒険者とは何か! トップを走る冒険者とはどれほどの強さなのかを体験してもらいます!!」と言う。

 うわ、遠慮したい。と思ったのは多分私だけ。だって他の子どもは皆喜んでるんだもん……いやいや、よく考えろよ。体験するってことは、トップランカーの実力を身をもって知るってことだぜ? 痛い目にあわなきゃいいけど。


「紅蓮の獅子、リーダーのレオンだ。今から俺、ヤジロベエ、ビビアンがお前たちに稽古をつける。俺が城壁の外へ出ても問題ない強さだと思った奴は、ランクを上げてやるから全力でこい」


 なんて? と言いそうになった私である。


 そういうことで、三チームにわけられたGランク冒険者達。私とクロ、トマは『ビビアン様』の稽古を受けることになった。つまり魔法の稽古です。


「さぁ、子ども達! あたしの魔法をまずは御覧なさいな!!」


 ビビアン様が〈水よ、氷となり現れよ!〉と詠唱すると、巨大な氷が地面から出現。「おぉ!!」とよろこぶ子ども達に気をよくしたのか、さらに氷の柱が何本も増えていく。めっちゃ寒い、と身体を擦る。増やしすじゃね? と思ってたら、ちゃんと意味があったようである。


「それじゃあ一人ひとつ、氷を魔法で壊してちょうだい」


 「あたしはここで見学しているわ」と優雅に箒の上に乗って宙に浮き、紅茶片手に笑うビビアンさんの姿は魔女そのもの。期待を裏切らないそのお姿、ちょっと憧れるねぇ。

 ただベタに箒なのはなんで? 

 この世界の魔法使いって箒で飛ぶのが定番なの?


 箒に夢をはせながら、氷の柱の前へ。さて、どうすっかなこれ。他の子どもを見れば、火の魔法をぶつけていた。そりゃ溶かしたくなるだろうけど、壊せって言ってたしなぁ。


「さて、クロはこの氷をどうします?」

「かき氷にして食いたいかなぁ、メロン味がいい」

「トマは?」

「俺は風魔法ちょっとだけ使えるよ」

「んじゃ風魔法でぶっ壊そう」


 「めろんあじー」と言うクロの頭を叩いて夢から起こし、私は腰のホルダーからナイフを抜き、三本の氷の柱に適当にしるしをつける。


 目を覚ましたクロが銃を構えて、しるしを銃で撃ちぬいた。

 いつものことながら、どこかのスナイパーみたいな精度である。暗闇でも敵の頭をぶち抜く腕があるので、クロが背後で銃を撃っていても私はこわがる事無く敵陣に向かっていけた。京の狭い路地の中、銃で敵を間違える事無く、頭だけを攻撃できたのはクロだけだった。腕っぷしも強いんだよなぁ、こいつ。


 私を勝手に大将呼ばわりして、大将職をを押し付けたことは、根に持ってるんだぞ黒田めぇ。



 氷の柱に穴を複数開けた後、トマの風魔法を使ってもらう。


「トマ、クロがあけた穴に風魔法ぶつけてね。ヒビ入ってるから、何回か当てたら壊れると思う」

「了解!!」


 トマが元気に返事をして、氷に両手を向け詠唱する。



〈風よ、刃となれ!〉



 ぶわり、巻き上がった風が詠唱の言葉通り刃となって飛んでいく。

 一度では壊れなかったが、三回目でヒビが大きく入り、氷がガラガラ音を立てて壊れた。魔法銃で穴を開けて、風魔法で壊す。魔法で壊せというルールは守った、文句はいわせねーぜ!!


 と、思ってたら。別方向から攻撃がきましたよ。



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