第11話 酔う男
翌日、朝のうちに早速レニグレラ茸の解毒薬を作成し、それから村に向かった。
あれからわりとガチめの説教を夜遅くまで受けていたわりには、頑張ったと思う。
『お嬢、それは卑怯だよ。お嬢に好き、って言われたことで動いた騎士さんの気持ちを全部一方的になかったことにするなんてフェアじゃない。もしかしたら騎士さんだって嬉しかったかもしれない。もしかしたらお嬢の気持ちはちゃんと伝わるかもしれない。それなのに、全部なかったことにするなんて』
懇々と並べられるお小言は全くもって正論だ。
後からなかったことにするぐらいなら最初から口にすべきではないし、口に出してしまったのなら誤魔化すべきではない。
でも。
それでも、私は怯んでしまった。
私自身の想いを認めることは出来ても、告げた言葉が彼に与える影響が怖かった。
彼が良い人であればあるほど、いつか私の気持ちは彼の重荷になる。
私のことを好きになってくれて、一緒にいたいと思ってくれて、
両想い、だった。
けれど、環境が変わった。
彼は森の騎士ではなくなった。
王都に帰らなければならなくなった。
彼にとって、ここでの出来事は王都には持ち帰れないものだった。
王都に帰れば、彼には多くのしがらみがある。
だから、彼は私のことを思い出にすることを選んだ。
だから、思い出の中から出てきた私が会いにきてしまったとき、あんな顔をした。
まるで、亡霊に会ったような。
罪悪感と、動揺と、うんざりとしたような色がグチャグチャに混ざりあったような、酷い顔を。
あんな顔を彼にさせたくはないし、されたくもない。
だから、私の想いなど彼は知らなくていいのだ。
彼にとっての私は良き主であり、仕事仲間でありたい。
それであれば、きっと彼が任期を終えた後でも言葉を交わす機会ぐらいは巡ってくるかもしれないのだから。
村の入り口をくぐる。
私を見た村人たちの反応は、面白いほどに皆同じだった。
まず嬉しそうに表情を綻ばせ、それからマズイことを思い出した、というように表情を引き攣らせるのだ。
中には小走りで駆け寄ってきて、心配そうに今はまずいよ、と教えてくれる人もいた。
けれど、大丈夫だ。
心の準備はしてきた。
そんな優しい人たちには、大丈夫だと告げつつ村長の家へと向かう。
その途中、覚悟していた通り、見慣れぬ一段が私の前に姿を現した。
中心にいるのは、見覚えのある長身の騎士だ。
周囲にいる軽装の男たちは、従者だろうか。
げ。
内心呻く。
寄りにもよってお前かよ、という気持ちだ。
私はこの騎士を知っている。
王都に
あのセリフは今でも覚えている。
『お美しい魔女殿、どうか私にも一晩の寵愛をいただけませんか?』
私の前に恭しく膝をついて、そのとんでもない言葉を吐いた。
今思い出しても顔が苦く歪みそうになる。
それでもどうにか外面を保てたのは、
不意打ちで遭遇していたのなら、きっと私はみっともなく取り乱してしまっていたことだろう。
「ああ、魔女殿。ようやく貴方にお会いすることが出来た」
「これは、騎士様。遠くまでよくぞおいでくださいました」
纏うローブの裾をつまんで、軽く頭を下げる。
「騎士様、などと。私の名前はジオドール・テセラ。どうか、ジオドールと名前でお呼びください」
「魔女とは言え私は田舎の小娘、騎士様を名前で呼ぶなど恐れ多くてとてもとても。テセラ様、とお呼びさせてくださいませ」
「……、貴方がそう望むのなら」
「それでテセラ様、どうしてこのような辺境の村に?」
私の問いに、ジオドール・テセラは整った甘い顔立ちに照れを含んだ笑みを乗せた。
「お恥ずかしい話ですが」
彼の手が私の手を取る。
「美しい貴方のことが、どうしても忘れられなかったのです。こんなところまで遥々会いに来てしまった私のことを愚かな男と笑ってくださってもかまわない」
「―――」
笑う、というか。
むしろ引いている。
この人、私を口説くためだけにここまでやってきたんだろうか。
一目惚れした相手に会いたくて旅をしてやってきた、というのならまだ格好がつくが。
私が『役に立つ男であるならば褒美として身体を与えるような魔女』の話を信じた上でわざわざ王都からやってきたのだというのなら、ドン引き以外の何物でもない。
そんなにも魔女と寝たいのか。
私の知らないうちに、魔女と寝たら金運があがり、恋人ができて、仕事で出世する、なんて噂に尾鰭でもついたのだろうか。
「遠目には美しいものも、近くで見ればそれほどでも、というのが世の常です。貴方の夢が砕けてしまわねば良いのですけれど」
そんな良いものでもないぞ、というのを遠回しに告げてみる。
ついでに、そ、とさり気なく取られた手を引き抜こうとしてみるものの、ぎゅ、としっかりと握り返されてしまった。
なんだこれ。
「どうか、私に機会をいただけませんか」
「どのような?」
「貴方のお役に立つ男だと証明する機会を」
うへえ。
そこまでして魔女と以下略。
「でしたら森の騎士たちと行動を共にしてみては如何でしょう。きっと、エリオット・スターレット様が良くして下さることでしょう」
早速、彼に頼ることにする。
彼の監督のもと、森の騎士としての任務を体験してみればその地味な作業っぷりにさっさと飽きて王都に戻ってくれるだろう。
「私はこれから仕事があるのですが――…よろしければ誰か、手の空いているものに詰所まで案内させましょうか」
言外に、私は付き合う気はないぞ、というのを匂わせる。
これで諦めてくれないか、と思ったものの、未だ目の前の男は私の手を放そうとしない。何なんだ。本当に何なんだ。
段々イライラとしてくる。
生来私はそれほど気の長い方ではないのだ。
「テセラ様、まだ何か私に御用でも?」
「ああ許してください。まだ、貴方と話をしていたいのです」
朗々と響く甘く請う声音。
けれども、それにちっともときめかないのはどうしてだろう。
ジオドール・テセラだって十分に顔の良い騎士だ。
多少騎士にしては華美にすぎるきらいがあるが、その身なりの良さは家柄の良さを証明しているようなものだし、滴るように甘い声音で熱っぽく請われれば、多少は心が跳ねそうなものだ。
それなのに、どうしてだか彼の言葉は響かない。
「どうか魔女殿、私を拒まないで」
詩を吟じるような言葉に、ああ、と思った。
そうか。
彼の言葉はどこまでも白々しいのだ。
声音は甘く、熱も籠っているけれど。
その熱も、甘さも、私に向けられているようで向けられてはいない。
これは彼が彼自身のために行うパフォーマンスだ。
例え下心からであっても、彼の本心から零れた言葉、なのでなく。
彼自身を主役にした劇において、彼を良く見せようという一心でもって吐き出されたものなのだ。
単純な話、彼は彼自身に酔っている。
『淫らで美しい森の魔女の虜となり、求愛する騎士』という物語を演じる上での相手役として私の関心を惹こうとしているだけなのだ。
私自身に対して、何か思うところがあるわけではきっとない。
もし彼が真っ当に私に対して何か気持ちを抱いていたのなら、つれなくあしらうことに対して多少の躊躇いを覚えるようなこともあったかもしれない。
だが、彼がしたがっているのがただのごっこ遊びなのだと思えば、そんな仏心が沸く余地はなかった。
「手を、離していただけますか」
思っていたよりも、冷えた声が出た。
もう少し、猫を被っていられるかと思っていたのに。
強引に握られた手を引き抜いてやろうか、と行動に移しかけたところで。
「おや、テセラ卿ではありませんか。魔女殿に何か御用ですか?」
背後から、低く穏やかな声音が響いた。
彼だ。
エリオット・スターレットだ。
格上の騎士の登場に、さすがに女の手を取ったままでは格好がつかないと判断したのか、それとも他に何か理由があるのか、ジオドール・テセラがようやく私の手を開放する。
エリオット・スターレットは私の半歩後で足を止めた。
ちらりと仰ぎ見たその表情は穏やかで、口元にはにこやかな笑みが乗っている。
だが、その澄んだ蒼の双眸がさりげなく、どこか威圧するような色を帯びているようなのは私の気のせいだろうか。
背中のあたりがひやりと冷たい気がする。
「せっかくここまで来たのだからね。魔女殿に直接森のお話を伺おうと思っていたのです」
「ですが、魔女殿はお忙しい身。私で良ければ、話し相手になりましょう。多少は森の騎士としての務めもわかり始めたところです」
「そうね。エリオット様、彼を案内してさしあげてくれますか?」
「ええ、もちろんですとも。ああ、それと魔女殿」
「なんでしょう」
「ニコルが魔女殿に何かご相談があるそうですよ」
「ああ、それなら私はこれで失礼させていただきますね。ご機嫌よう、騎士さま方」
ローブの端をつまんでもちあげ、辞去の礼をする。
そしてそそくさと、いかにも仕事熱心な魔女であるかのようにニコルさんの家へと向かって歩きだす。
せっかく彼が逃げ出す口実をくれたのだ。
村長の家に向かう前にニコルさんに会いに行ってみるとしよう。
ニコルさんというのは村に住む気の良いおじさんだ。
年齢は五十路の手前、というところだろうか。
娘さんは先日隣村に嫁に行き、今は優しい奥さんと二人暮らしだ。
特に持病もなかったはずだが……、老齢にさしかかり始めた頃合いであることを考えると気にかかる。
何事もなく、本当に私があの場を去るためだけの口実であってくれたら良いのだけれども。
「こんにちは、アデリードです」
「ああ、若魔女さん! もう身体の具合は良いのかい?」
「ええ、もうすっかり。ご心配をおかけしてしまって」
「良いんだよ、若魔女さんのおかげでレニグレラ茸の被害者が出ないで済んでるようなものなんだから。トマスも無事で本当に良かったよ」
玄関先で声をかけると、ニコルさんの妻であるヘレンさんが元気よく迎えてくれた。
どっしりとした体格の、いかにも肝っ玉母ちゃん、といった風のヘレンさんだ。
どうぞ、と促されて家の中へとお邪魔する。
「大したことはないんだけどね、今までこんなことなかったものだから。あんた! 若魔女さんが来てくだすったよ!」
「ああ、来てくれたか」
ヘレンさんの呼びかけに応じるようにして、二階からニコルさんが下りてくる。
いつもは元気よく、まだまだ若いもんには負けないぜ、といった風情を漂わせているニコルさんだというのに、今日は随分と元気がない。
「どうしたんですか? 具合でも?」
「いや、違うんだよ。昨日な、ちょっと酒で失敗しちまって」
気恥ずかしそうな告白に、私は思わずぱちくりと瞬く。
それだけ、言われたことが意外だったのだ。
この村の男衆にとって、酒は生活の一部だ。
そしてそんな酒と切っても切れないのが失敗談だ。
酒の上での失敗談など、笑い話としていくらでも伝わっている。
ニコルさんだって、酔った勢いで奥さんにプロポーズした話やら、酔って家を間違えて帰宅した、などなど様々な武勇伝というか失敗談をもっている。
それ故に、どうして今更そんな気恥ずかしそうな告白に至るのかがよくわからなかったのだ。
「……この人、昨日酔っぱらって川に突っ込んだんだよ」
「川に突っ込んだ?」
眉間に皺が寄る。
酔って川に落ちた、ならわかる。
だが、川に突っ込む、とは。
私の訝し気な視線に、ますますニコルさんはしょぼくれたように肩を落とす。
「俺ぁ覚えちゃいないんだがよ。昨日酒場で飲んだ帰りに、俺はどうやら川に入っちまったらしいんだよ。普通なら、いくら酔ってたって川に入ったら変だって気づくもんだろ? 靴やらなにやら濡れるんだからよ」
「そう、ですよね」
「それなのに、俺はふらふらと川の中にそのまま入っていこうとしたみたいで」
「それは……」
心配になる。
まったく年寄りが若いつもりで酒なんか飲むから、ときつい小言を並べるヘレンさんも、ニコルさんを見る双眸には心配そうな不安の色が滲んでいる。
ニコルさんもそれがわかっているから、いつものように軽口を叩き返したりもしないでいるのだろう。
「今は具合、どうですか?」
「まだちょっと、ぼーっとはするんだ」
「酔いが残っている感じですか?」
「二日酔いって感じじゃあねぇんだけどなァ……」
「しばらく、お酒は控えた方が良いかもしれませんね。一応、二日酔いに効く薬草をお渡ししておきます。湯に溶いてゆっくり飲んでくださいね。ちょっと苦いけど、気分がしゃっきりしますから」
私は携えていた薬箱の中から、二日酔いに効く薬草を煎じたものを包んだ紙をいくつかヘレンさんに渡す。
「そのうち、グレイソン先生に診てもらった方が良いかもしれません」
「そうだなぁ、そうするよ」
早速薬湯を作るべく湯を沸かし始めたヘレンさんの後ろ姿を眺めつつ、ニコルさんは俺も年かねえ、と力なくぼやく。
そうして落ち込んでいると、余計に老け込んで見えてしまって心の中がざわついた。
養母の代からの知り合いなのだ。
ニコルさんにはいつまでも元気でいて欲しい。
「なんか変なイキモノにでも化かされたかねェ……」
「変なイキモノ、ですか」
確かに魔獣の中には、人を騙すものもいる。
昨夜私がエリオット・スターレットにして見せたように、魔眼持ち、と呼ばれる種類の魔獣もいるし、その他にもタヌキやキツネから変異した魔物なども尾を使って人に幻惑の術をかけることで知られている。
だが、そういった魔獣や魔物のほとんどは臆病だ。
戦う力に乏しく、臆病だからこそ人々を騙して戦闘を避けようとするのだ。
主に彼らがそういった力を使うのは、人を自分のテリトリーに近づけないように、といった場面が多い。
そんな魔獣、もしくは魔物が果たして村に出てくるだろうか。
まあ、何かの拍子に村に迷い込んでしまったものが、逃げ出すために人を化かした可能性はある。
「森の騎士にも伝えておきますね。もし何か他にも困ったことがあったら、いつでも連絡してください」
「いつもありがとうねえ。ああそうだ、昨日採れたばかりの野菜があるから、持っていくと良い」
少しばかり安心したように、いそいそとヘレンさんは野菜を包み始める。
薬草の礼にしては幾分か多すぎる気のする野菜をもりもりっと持たされて、私はニコルさんの家を後にすると村長の家へと向かった。
村長への挨拶を済ませて村を出ようとしたところで、エリオット・スターレットがゲート近くにいることに気が付いた。
先ほどはジオドール・テセラのことがあったものでそれほど意識せずに済んだものの、私はこの人を相手に昨夜告白、なんてこと突発的にやらかしてしまっているのだ。
彼自身は、覚えていないのが唯一の救いではあるのだけれども。
…………覚えてない、よね?
ちらり、と伺った彼はいつもと変わらぬ様子だ。
良かった。
少しずつ距離が近くなると、彼はゆっくりと馬を操って私の隣へと並んだ。
ニコルさんの件を話しておきたかったからちょうど良いとはいえ、何か私に用があるのだろうか。
「何かあったの?」
「いえ、特に何かあったというわけではないのですが……自宅までお送りします」
「一人で帰れるわ」
「――テセラ卿に捕まりたいですか?」
「ぜひ送って欲しいわ」
即答でお願いする。
ジオドール・テセラはどうやら未だ諦めていないらしい。
確かに帰路で偶然を装って声をかけられてそのまま家までついてこられる、なんていうのは避けたい。
その点、彼がついていてくれればその心配はない。
二人、馬を並べてゆるゆると帰路を共にする。
「テセラ卿とは、お知り合いだったのですか?」
「知り合い、というほどではないのだけれど」
面識、といっても依然王都に訪れた際、あの酒場で偶然顔を合わせたというだけだ。
何故あそこまで彼が私に執着するのかは私にも謎だ。
『魔女』と『騎士』というシチュエーションに酔っているらしい、というのは彼の口ぶりからも伝わってはくるのだが、それだけだ。
「貴方の前の騎士団長の友人、というのは聞いているでしょう?」
「ええ」
「前に私、彼を訪ねて王都に赴いたことがあるの。その時に一度顔を合わせて――軽口めいた誘い文句で口説かれたことがあるのよね。あちらも本気ではなさそうだったから、私もさらっとかわして終わったのだけれども。よほど『魔女』をモノにしたいのかしら」
「―――」
隣の男が、苦虫を噛み潰したような顔をする。
明らかに不機嫌そうだ。
この人が、こういうネガティブな感情を表に出しているのは初めて見たかもしれない。
「不機嫌そうね」
「ええ、不機嫌です」
「どうして?」
「当然でしょう。あなたをトロフィのように扱われるのは面白くない」
「―――」
至極、真っ当な怒りだった。
ジオドール・テセラと同じ騎士であり、男である彼が、その感覚に対して怒りを抱いてくれたことになんだかとてもほっとする。
「……そうね。私も『魔女』を口説き落とした、という箔が欲しいだけの男を相手にするなんて、御免被るわ」
「そう言っていただけて安心しました。ですが魔女殿、どうかお気を付けください」
そう言う彼の口調に、軟派男を警戒する以上のものを感じて彼へと視線を流す。
「もちろん気を付けるつもりではいるけれど……何か、気になることがあるの?」
「…………、」
私の問いに、彼は少し困ったように眉尻を下げる。
しばし言いにくそうに、言葉を探すような間をおいて、それから覚悟を決めるようにして口を開いた。
「あなたの魅力を否定するつもりはありません。ですが――…あなたを口説くためだけにここまでやってきた、ということに違和感があります」
「―――同感だわ」
あっさりと同意して見せれば、それにはそれで何か言いたげな顔をするのだからこの男もなかなか扱いが難しい。
『魔女』を口説き落としたい、なんてロマンに酔って押しかけてくるにはここは王都から離れすぎている。
それに、ジオドール・テセラが
休みを取ることは可能だろうが、普通、そこまでするだろうか。
王都の騎士というのはそれほど暇なのだろうか。
続いて、私の方からはニコルさんの件についてを報告する。
「もしかしたら、村の近くに幻術を使う魔物、もしくは魔獣がいるかもしれないわ。彼らは臆病だし、こちらから手出しをしない限りは理由なく人に危害を加えたりはしないの。だから、もし見つけてもあまり手荒なことはせず、森に戻るのを待ってあげてくれると助かるわ」
「わかりました。一応念のため確認しておくのですが――…人に危害を加えた獣を討つことは、森の王との約定には触れないのでしょうか」
「あまりその状況を想像したくはないのだけれども……、そうね。そういうことには、なっているわ」
森の中で狩りをして良い狩猟区が定められているように。
森には同様に人の領域も定められている。
森において最大の禁忌は森に棲む魔獣に不用意に手を出すことだ。
だが、魔獣が人の領域に姿を現し、人に害を為すようなことがあったのなら、人はその魔獣を討つことが許されている。
実際何代か前の魔女の時に一度、正気を失った魔獣が森の浅層まで姿を現し、人を狩るようになってしまったことがあったのだという。
その時には魔女は森の騎士たちと協力しあい、その魔獣を討ったのだと話が伝わっている。
私の代では、是非ともそんな惨事は起きて欲しくない。
そんな話をしつつ、辿り着いた自宅の前。
ドアの前に設置された花束に、なんだかどうしようもなく気が滅入ったのは言うまでもない。
うへえ。
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