ようこそ、私立黒華桜我ヶ峰学園へ
プル・メープル
プロローグ
選ばれし者しか通うことの許されない学園の門の前に、新たな影が立っていた。
「ここか……」
その影はゆっくりと学園に踏み込んでいく。
コンコン
彼は重そうな扉をノックして声をかける。
「誰かいるか?」
「誰もいないよー」
適当且つ腑抜けた声が返ってくる。
「…………入るぞ」
一応、理事長室ではあるので「失礼します」と言って入る。
「…………君か」
理事長と思われる人物はこちらに背中を向けて窓の外を見ている。
「君かというなら顔を見てから言ってくれないか?」
「すまない、だが、君だとわかるのだよ
顔を見なくてもね」
男は振り返り、年の割に若く見える顔で微笑む。
「君という人間はほかの
不敵な笑みを浮かべる男は椅子に座って書類を取り出す。桐亜にも椅子を勧められ、遠慮なく腰を下ろす。
「ところで君はもう、この学園の仕組みは理解してもらえてるかな?」
「いや、まだ一部だけだ」
「そうか、なら順に説明していくよ」
「…………それは嬉しいんだが、、、」
「ん?どうかしたかね?」
「いや、アイス食べながら話すのやめろよ……ほら、書類に垂れて……」
「嫌だな!この汁はアイスじゃなくて私のヨダレだよ。」
「さらにその上を行く嫌悪感だな」
「そんなに引かないでくれよ、あ、ちょ!帰ろうとしないでくれ!違う書類にするからさ!」
「…………ま、まぁ、それならいいが」
溜息をつきながら浮かしていた腰を再度椅子に下ろす。
「まずこの学園の名前、知ってるかい?」
「ああ、『
「正解だ、よく知ってるね。」
「自分の入る学校くらいは知ってる……。」
「じゃあこの学園はどういう制度かは知ってるかい?」
「ああ、当たり前だ」
桐亜の目が怪しく光る。
『
「くく、正解だよ。この学園はゲームの成績によって住む環境や食事、着るものまで制限されることもある」
「そして、ゲームができないやつは、容赦なく――――――」
「退学さ」
桐亜は思わず息を漏らす。だがそれは、ため息でも戸惑いの吐息でもない。それは、まるで嘲笑うかのような吐息だった。
この学園は狂っている。
すべてをゲームで判断する。
すべてをゲームで抑えつける。
外界の権力なんて関係ない。
ゲームができれば……強い。
「じゃあまずは―――――」
男は机に備え付けられたボタンを押す。
すると机の一部が回転し、画面が現れる。
「入学試験……と行こうか」
――――――――――――――――――――
「おっと、同点か……」
「あーあ、これじゃあダメか?」
「いや、入学基準は負けないことだ。
君は負けてないから合格だよ。でも……」
男は見当違いだとでもいうような顔で桐亜をみる。
「これでいいのかい?」
「なにがだ?」
「君の実力なら確実に勝てたはずだよ。まさか、手を抜いたんじゃないだろうね?」
「そんなわけないだろ?そんなことして何になる?俺はしっかり本気を出した、その結果だ」
「本当かなぁ?ま、入学おめでとう。だけど君は試験の結果に
最低ランカー、それはこの学園で最も弱いものの総称だ。正式にはFランカーと言う。
「毎月の生活費は配布されるGPで
「ああ、それでいい」
「なぜ、本気を出さない?」
男は少し怒ったような、それでも笑顔できいてくる。
「俺の目的はここに通うことだ。それ以上のことは望まれていない。なら、俺は無駄にゲームはしない……」
「あれほど戦った君がかい?」
「あれほど戦った俺だからこそだ。もう、金に溺れたり、失っていくヤツらを見たくない……」
「そうか……」
男は頷いて桐亜にデバイスを手渡す。
「この学園の生徒手帳のようなものだよ。
常に持ち歩いてくれ」
「わかった、じゃあもう授業が始まる……」
「君のクラスはデバイスで確認してくれ。」
その言葉を背中に、桐亜は理事長室をあとにした。
「はぁ、桐亜くん……、君の力はすごいんだと改めて思うよ」
理事長室では男がひとりでいた。
男は桐亜と入学試験を行った机の上の画面を撫でながら笑いを堪えている。
「くくく、オセロで同点なんて……並の人間じゃ、狙ってできないよねぇ?」
そして桐亜は教室の前に立っていた。
「ここか…………」
デバイスで教室を確認しながら担任が来るのを待っていた…………
プロローグEND
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