其ノ九
「では……始めるぞえ、兄者」
最初の夜と同じ白い浴衣に身を包んだ華名が、厳粛な面持ちで俺の方を見る。
「──ああ、やってくれ」
俺が頷いたのを確認すると、華名は何か呪文のようなものを唱えながら、俺の部屋の四方の壁に、和紙に墨で何やら文様を描いた呪符らしきものを貼っていく。
ラノベ好き的観点から予想すると、たぶんこの部屋に結界でも張っているんだろう。
「ほぼ正解じゃ。外部からの干渉を遮断すると同時に、この加奈子の心身を活性化し、加奈子本人の意識を目覚めやすくする術式じゃな」
わかるようなわからんような……。
「ところで兄者、
そう言えば、確かにそんな事言ってたな。
「一つ目が華名の意思、二つ目がこの儀式だとして、三つ目の条件って一体何なんだ?」
「うむ、それは──兄者の協力じゃ」
華名いわく、現在の主体である華名が交替に同意し、この結界内の術式で交替をより起こりやすくしているが、もう一手、加奈子本人を呼び覚ます手段が必要らしい。
「それはわかったが……俺は何を?」
俺が続きを促したところで、ついと華名は視線を逸らす。
「兄者よ、今更な話ではあるが妾は感謝しておる。
魂に刻まれた宿業と言うべきか、妾は何度生まれ変わっても、常にひとりっ子じゃ。
加えて、妾の転生する人物は、成長するにつれて備わるその特異な能力故か、人並みの幸せな暮らしとは縁が遠い。
あるいは排斥迫害され、あるいは化生との戦いなどに駆り出されて、天寿をまっとうすることなくその短い生を終える。
もしくは、逆に「生神」「聖なる巫女」として奉られた籠の鳥として一生を過ごす。
フフフ……笑ぅてくれ。妾は、人に生まれ変わってから、転生に転生を重ね、のべ400年近くの時を生きていながら、「人の優しさ」や「暖かさ」なぞと言うモノに満足に触れた記憶は、最初の生──藤堂華名の時だけなのじゃ。
お主は実の兄ではないが──それでも加奈子を、そして妾を「妹」として慈しみ、接してくれた。こんなことは、長い時を刻んできた妾の記憶の中でも、初めてと言ってよい」
時折華名が見せる、飄々とした性格に似合わぬ暗い影には、俺も気づいてはいた。いたが……まさか、そこまで重い話だったとは。
頭で理解はしていたが、やはり「彼女」の持つ疑似的な不死性は、呪いと呼んで然るべきだろう。
「え、えーと……好印象を抱いてくれるのは有難いが、結局俺はどうすればいいんだ?」
「ふむ。至極簡単なことじゃ。兄者は下穿きを脱いで布団に横たわり、天井の染みでも数えておればよい」
え、えーと……その言い方だと、限りなく嫌な予感がするんですけど……。
「──それって、もしかして……ドラマとかでツバキの花がハラリ、と散るシーンなのか?」
いくら精神年齢数百歳のご先祖様とは言え、姿形は年若い女の子に「セックスするの?」とは聞きづらいので、遠回しにほのめかす。
「うむ、大丈夫じゃ。問題ない」
そう言いながら、顔をそむけてんじゃねーよ!
「却下だ却下! だいたい、心はともかく、その身体はカナのモンだろうが!?」
ついさっきまでの「ちょっといい話」的な雰囲気が台無しだぁ!
「その点は心配せんでよい。コトが終わった際に自動的に発動する復元呪術を、この身体にかけておくでな。加奈子の純潔そのものはすぐに元通りじゃ」
あ、そうなのか?
いや、しかし……うーーむ。
「要するに俺に華名を抱け、と。それしか手がないのか?」
「可能性を考慮し、かつ時間を考慮に入れなければ、いくつか案はある。しかし、今すぐ執り行え、確実性が高い方法となると、妾にはコレくらいしか思い浮かばぬよ」
このテのオカルティックな事柄の専門家で大陰陽術師(自称)である華名が言うのだから、その点は間違いないのだろうが……。
「それにしたって、なんでその、セックス、なんだよ?」
「男女の交わりの際に神秘学的な意味での膨大な力──えねるぎーが発生するという事柄は、兄者も聞いたことがあるであろう?」
クンダリニとかシャクティとか立川流とかのアレか。そういや某PCゲームでも魔力を繋げる手段として使用してたな。
「うむ。しかも、兄者は藤堂家の血を引く男子であり、潜在的に強い霊力を持っておる。さらに言えば、加奈子の想い人であり、妾自身も憎からず思ぅておる故、この術の協力者として最適なのじゃ」
なるほどー、そーなのかー……じゃなくて! 今、無視し得ないような情報をサラッと言ったな、ヲイ!
「霊力のコト以外は、全く気付いていなかった、とは言わせぬぞ」
う゛っ……。そりゃ、まぁ、何となくは感じてないワケでもなかったけどな。
そもそも、俺はシスコン、カナはブラコンであることは自他共に認めてはいたんだし。
加奈子、そして華名から、俺に向けられる好意の何パーセントかには、純粋に兄に対するものでなく「好ましい異性」に対するものも含まれてることも、まぁ、自覚が無かったと言えば嘘になる。
となると、結局は俺自身の気持ちに帰結するワケか。
「なに、そう難しく考えるコトはない。コレはあくまで儀式じゃ。先程も言うた通り、兄者は黙って仰向けになって、天井の染みでも……」
「馬鹿言え。そんなもったいないコトできるか!」
あぁ、認めよう。
俺は妹に──加奈子、そして華名に欲情しているスケベなロリコン兄貴さ。
愛しているから……と言うのはひとつの言い訳にはなるだろうが、それでも俺が20代後半のいい歳した大人で、相手が(少なくとも身体は)中学に上がったばかりの未成熟な少女であることは間違いない。
本来なら、せめてカナがもっと成長するまで待つのが筋なのだろうが、思いがけずこういう機会を得て俺は、少なくとも俺の本心の何割かは、喜んでいるんだ。
その証拠に……さっきから俺のアソコは猛りっぱなしなんだから。
「──わかった。俺はこれから俺の意思でカナを元に戻すための儀式に協力する」
「うむ。それでは……」
「待て、これだけは言わせてくれ」
早速儀式に入ろうとする華名を手で押しとどめて、その華奢な両肩に手を置き、真正面から華名の瞳を覗き込む。
「けどな、それとは無関係に、華名、今お前を抱きたいという気持ちも確かにあるし、差し支えなければ、そうさせてもらおう」
「ほ、本当かえ!?」
まさか、ここまで俺が開き直るとは思っていなかったのか、一瞬呆気にとられたような表情になったかと思うと、みるみるうちに、華名の頬が紅潮し、目に涙が浮かんでくる。
「うれしい……兄者」
嬉し泣きする華名を抱き締めると、華名もまた両手を俺の身体に回し、思い切り強く抱きついてくる。
そのままでは身長差があり過ぎるので、華名をお姫様抱っこの姿勢で抱き上げて、ぐっと顔を近づける。
華名の髪からは、ふわっと石鹸の香りが漂っていた。彼女が目を閉じるのを確認しつつ、桜色の唇を奪う。
「んんっ……」
瞬間、華名の体が俺の腕の中でピクリと身を震わせ、合わせた口元から熱っぽい吐息がこぼれた。
しばしの後、俺が唇を離そうとしたところ。
──ぎゅ……
華名の手が俺の首の後ろに回され、強く絡み付いてきた。その小さな腕が精一杯力を込めて俺を縛り付け、そのまま触れ合った唇から、華名の舌が俺の口内に侵入してくる。
「んっ、ちゅ……」
唇を触れるだけのキスよりも、さらに深く互いを貪ぼりあうようなディープキス。
「あむ……れろ、んん……」
無論、俺の方も、差し出された舌に自らのものを絡める。
舌上にぬらりと熱をもったモノを感じる。
「……ぷはぁ」
口元を離しても、名残惜しそうに銀糸が一条、俺達の間に伸びていた。
「大人の接吻を教えてやろうと思ぅたのに……兄者、どこでこんな?」
「内緒だ。イイ男の過去を詮索しないのがイイ女の不文律ってヤツだろ?」
ニヤリと笑うと、そのまま華名の身体をベッドに横たえ、着物の合わせ目から指先を忍ばせて、華名の素肌を撫で回す。
「んんっ……はぁはぁ……」
胸の敏感な部分に触れると、華名は切なげにため息を洩らした。
「んくっ……兄者、やはり、女に……なれて……はぁん」
「はいはい。ま、俺も学生時代は一応、な。ま、この話はココまでだ」
俺の手の動きにつれて、華名の着ている白い着物が少しずつはだけ、今やその愛らしい乳房をほとんど隠していない。
さらに裾の方も乱れて、股間の淡い陰りが見え隠れしている。
(おぉ! 和服の時に下着付けないって、本当だったんだなぁ……)
「……何を考えておるか大体わかるが、兄者。コレは儀式に備えておったからで、特別じゃぞ?」
タハハ、表情を読まれたらしい。
苦笑しながら、俺もいったん身体を離して、部屋着にしているトレーナーの上下を脱ぎ捨てた。勢いあまってトランクスまで脱げちまったが、まぁいいだろう。
「あ、兄者、そそそ、ソレは……」
真っ赤になりながら、俺の股間を見つめる華名の様子に、ちょっとだけSっ気が刺激される。
「おいおい、まがりなりにも過去に結婚&出産を経験した女性が、男のモノを見たくらいで動揺するなよ。馬並みってほどデカいわけじゃあるまいし」
粗品ってワケじゃないが、俺のアレはせいぜい平均レベルだ。
「ば、馬鹿者! それは、妾とて夫のモノぐらい見たコトはあるが……記憶にあるソレより三割方大きいぞえ」
マジで!? ……あ、なるほど。
「たぶん、体格の問題だろうな。俺は178センチで、カナは身長145ぐらいだろ。かつての華名が150センチ前後でそう変わらないとしても、日本人男子の身長はここ100年くらいで急激に伸びたし、当然各部位も相応に、な」
「な、なるほど……」
頷きつつソレから目を離せないらしい華名の様子に苦笑しながら、再びベッドの上で彼女に覆いかぶさる。
ほとんどあらわになった胸に手を伸ばし、かすかに表面の皮膚だけをなぞる。
「ひぃあッ! あ、兄者、もっとキチンと……くふぅん」
言いながら華名は切なげな喘ぎ声をあげて、自分から胸全体を押しつけてくる。
再び少し意地悪したい気分になって、わざと触れるか触れらないかといった程度に掌で乳首を擦ってやった。
「ふぅ……あああン!」
ピンク色の蕾がツンと硬く尖った。
すかさずその先端を吸うと、華名は「ヒュウッ」と笛の音にも似た甲高い悲鳴を漏らした。
「強すぎたか?」
「い、いや……そんなことはない。もっと吸ってたもれ……」
「ん、了解」
……
…………
………………
その夜の「最初で最後の交わり」で、俺達ふたりは同時に頂点を極めた。
「あ……あとのことは、任されよ、兄者ぁ………」
ぐったりと力が抜け、カナの身体の上に崩れ落ちた俺の耳に、優しく囁く華名の声を聞きながら、俺は心地よい疲労とけだるさに負け、そのまま眠りに落ちたのだった。
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