第431話 恋のため
「よし、陸上競技の参加者はこれでいいだろう。どう、みんな?」
一悟たちは体育祭の暗部の話は一旦、置いて競技参加者の調整をクラス名簿を見ながら決めていった。
当然全員参加が鉄則なのでどんなに運動が苦手なクラスメイトでも競技には出る。陸上競技に関しては事前に立候補をしてもらっているので調整だけだった。
「うん、いいんじゃないかな」
「僕もいいと思う。うちのクラスの戦力的にこれがベストじゃないかな」
「一悟、なんか僕の参加が多くない?」
「当たり前だ、祐人。お前はうちの超兵器だぞ。全部、一位を取ってこい」
「へえー、堂杜君ってそんなに運動が凄いんだ。知らなかったよ」
祐人は優太をチラッと見ると一悟と静香に近づき、小声で伝える。
(気づいていると思うけど僕は怪しまれないように運動はみんなに合わせてたんだよ? それが体育祭でいきなり大活躍したら変だと思われるよ)
(それは分かっている。だが今回は仕方ないだろう。絶対に勝ちにいくんだ。そうでもしないと白澤さんたちの誰かがお前んちに来ちゃうぞ)
(うっ! でも)
(大丈夫だよ、堂杜君。堂杜君は夏休みでみんなに忘れられているから。いきなり変わったとは思われないよ)
(おお、そうだったな。ということはあんなに凄い人だったんだ、ぐらいだ。よくやった、祐人!)
(あの能力をそんな風に評価してくるの一悟たちぐらいだよ)
(いや、これでお前のことをまたみんなが覚えてくれるし、すごく良いことだと思えてきた! これで俺はお助け係の斡旋のために奔走しなくて済む。一石二鳥、いや三鳥だ!)
(そうだね! 堂杜君、体育祭デビューで一気に人気者になろう!)
(すんごいポジティブ! ていうか奔走していたのかよ!)
(お前なぁ、どうやら分かってなさそうだから言うが俺たちが負けて誰かが優勝したとしてだ。お前んちに彼女たちの誰かが来るだろう? 言っておくがそれでお終いだと思うか?)
(それはどういうこと?)
(ああ、そうだよねぇ。問題は堂杜君んちに行けなった人たちだね)
(そうだ。お前んちに行けなかった他のレディたちの機嫌は相当……ヤバいことになるぞ)
(ええ⁉ ど、どうしてそんなに僕んちに来たいんだよ~。たしかに僕の家の方が学校とか近いけど……何か目的が変わってきてない? みんな負けず嫌いすぎておかしくなってるよ)
祐人が頭を抱えて天を仰ぐと後ろで優太はどうしたのかな? と首を傾げている。
一悟と静香はそんな祐人を無視して次の問題を吟味しだしている。
「問題はこの体育祭とは思えない色物競技の方だな」
「そうね。それぞれに配点が高くて優勝を目指すならこの辺は無視できない。それで特にこれよ」
そう言って静香は体育祭のパンフレットに乗っている一つの競技を指さした。
「ああ、これだ。『戦友は担任! バーチャル異種武道大会』って何なんだ。優勝に配点が500点って異常すぎる。しかも概要を読んでみると余計に訳が分からん」
『担任と生徒が組んで戦うバーチャル空間! 格闘ゲームをリアルに再現した最新技術を体験しよう!』
〇概要
参加者:担任に指名された生徒と担任の十八チームでトーナメント。
生徒と担任は二人一組でSO・NYエンターテイメントの協力の超最新ゲームで戦います。ゲームの中から好きな戦闘スタイルを選んでバーチャル空間で戦ってもらいます。
その戦闘はなんと超高解像度ホログラム映像でまるで本物のように見えます。まるでファンタジーな戦いをみんなでお応援しよう!
戦闘スタイル例……剣士、拳士、魔法使い、などなど、スタイルの種類は無限にあります。
「うわぁ。これ、書いた通りなら本当に凄そうだね! SO・NYエンターテイメントが協賛しているとなると超期待しちゃうよ」
ゲームが好きな優太は目を輝かせている。
「担任が指名ということだから美麗先生が決めた生徒ってことよね?」
「うん、そういうことだよな。まだ美麗先生は聞いてないから明日、聞いてみるよ」
「分かった。あ、ごめん! 私は部活があるから今日は抜けるね。次回から全部参加するから」
「ああ、分かった。こっちはとりあえず今日中に競技ごとの参加者を決めておくわ」
「堂杜君、新木君もごめんね! じゃあ」
静香は手を合わせてそう言うと部屋を出て行った。
「うん、分かった」
「水戸さん、またね」
一悟は静香が出て行った方向をジーと見つめながら腕を組んで黙り込む。
「どうしたの? 一悟」
「読めん。どういうことだ?」
「何が?」
「水戸さんだよ。俺の予想では白澤さんを第一に考えているはずなんだが、このノートな。黙ってはいたが俺も調査を入れていた内容と同じところが多々あるんだ。すべてではないからそれ以外の情報は分からんが大事なのはここだ」
「うん? あ、これ茉莉ちゃんと同じ青チームの情報だ! これを出してくるっていうことはⅭ組連合にもしっかり警戒しているじゃない」
「うーむ、分からん。何を考えているんだ。たしかに情報戦や裏からのうちのクラスメンバーへの仕掛けは俺と水戸さんがいればほとんど躱せる。これは罠か? いやもしくは大事なことは書いていない? いやいや、虚実を交えて俺の判断を狂わせて白澤さんのチームに有利なように誘導させて……」
「ねえ、一悟の考えすぎだったんじゃない? 水戸さんもやっぱり自分のクラスのために動いててくれたんだよ」
「うん! きっとそうだよ! 良かったぁ、水戸さんがいれば心強いもんね」
「まったく、そんな単純なら俺も悩まねーよ。はあ、仕方ない……俺だけでも警戒しておくしかないな。どちらにせよ、化かし合いや腹芸に関してお前たちは戦力外だからな。俺が踏ん張るしかない。一年のクラスでこの辺がしっかりしているのはニイナさんくらいか。ああ、もう! 考えることが多すぎんだよ」
そう言うと一悟は天を仰いだ。
「……みたいなこと考えているんだろうなぁ、袴田君。まあ、すべて間違いではないけどね」
剣道着に着替えた静香は茉莉に向かって苦笑いした。
「いいの? こんな大事な情報が書いてあるノートもらっちゃって。調べるの大変だったんでしょう?」
「うん、いいよ。それは袴田君にあげたノートとまったく同じ内容だからね」
「ありがとう。全部目を通して頭に叩き込んでおくわ」
「茉莉、前にも言ったけど私の茉莉への友情としての行動はここまで。これからは全力でⅮクラスのために動くからね」
「ふふふ、袴田君のため、でしょう?」
茉莉がニヤニヤして言うと静香は「うっ」と顔を赤らめるが、すぐに諦めたように恥ずかしさを隠さずに肯定した。
「うん……そうかな」
「これは愛だね。本人に気づかせないようにしているのが静香らしいけど」
「よく言うよ。茉莉だって堂杜君の家に行くために全力投球のくせに」
「もちろんよ。私、今回は絶対に勝って祐人の家に住んで、色々とお世話して、それで、それで……祐人の生活を助けてあげて、それで、それで……」
茉莉は頬を染めてモジモジし始める。
「ふふーん、エロいなぁ、茉莉は。これが吉林高校一年を代表する才女の姿とはね」
「な、誤解よ。私は祐人の側で少しでも支えてあげたいだけよ」
「でも私も負けないよ。私も袴田君をこの体育祭で一番の功労者に仕立てるっていう目標があるんだからね」
「例年、この体育祭で活躍したり名が売れると高確率で大学の推薦枠をもらえる。それを袴田君に手に入れさせようなんて静香もすごいこと考えるわよね」
「袴田君って頭良いのにどこか脱力系だから三年になって受験やめるとか平気で言いそうだと想像しちゃうんだよ。私はやっぱり袴田君に実力に伴ったところに行ってほしいの」
「それでその大学に静香も行こうって頑張るのよね。なんか遠回りしすぎな気がするけど。それなら告白して付き合って同じ大学に行こう! って言えばいいだけじゃない?」
「駄目、まだ無理」
静香が珍しく声が小さく耳を真っ赤にした。
「じゃあ、いつならいいのよ」
「わ。分からないよ。高校の間では駄目かもしれない」
「だから大学も同じ学校に通って告白できるまで時間を稼ぐって……しかも袴田君を高評価するあまりに良い大学の推薦枠を取らせたい。恋愛で大失敗している私が言うのはなんだけど……静香も結構、面倒な性格しているわよね」
「むう。し、仕方ないよ。だって全然、自信が湧かないんだもん」
「そうかなぁ、お似合いな二人にしか見えないけどな」
「お似合いでも成功するかは別でしょ。と、とにかく私にも目的があるし茉莉を親友として応援しているの。だからこのノートで義理は果たす。それで今後は私は自分のために頑張るからね!」
「分かったわ。これからはお互いに自分のために頑張りましょうね、静香」
「うん、負けないよ、茉莉」
二人はにっこりと笑って握手を交わした。
「「お互いの恋のためにね!」」
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