第378話 魔神の花嫁③
秋華を中心に設置されたマトヴェイの針から直情に光の柱を形成する。
すると幻魔降ろしの儀の際に起こる特有の霊力波が全方位に吹き荒れた。
密閉された幻魔の間に霊力の嵐が巻き起こり、髪の毛を靡かせながらマトヴェイは術式回路を凝視する。
「ハハ……ハッハッハー! これは凄い。なるほど、そういうことですか! 【憑依される者】の作者はとんでもない人だ! 最後の謎が解けましたよ。取り入れた幻魔の力を能力者の霊力に強制接続するのですか。それで取り入れた幻魔の術を使いこなせるのですね。これは斉天大聖の権能を引き継ぐ黄家の直系でなければ無理です。普通は能力者の霊力路を幻魔に無茶苦茶にされますからね。しかし、九百年前にこのような術を一体、どのような能力者が編み出したのか。さらに謎が生まれますね」
新たな探究心に火をつけられたかのようにマトヴェイは狂喜した。
「お、教えてあげましょうか、この変態」
興奮するマトヴェイに苦しげだが冷や水をかけるような声色を作り秋華が口を開いた。
「うん? まだそのような口をきく元気があるのですか。大したものです。何を教えてくれるのですか」
「先に言っておくわ。あんたごときに【憑依される者】は解明できない。何故ならあなたはここで終わるから」
「この期に及んでまだそのようなことを! 憎らしい人だ」
マトヴェイはもう不愉快さを隠さずに目を吊り上げ幻魔降ろしの儀の最後の手順を踏んだ。
霊力回路に浮かび上がっている小さな魔法陣に五指を当ててダイヤルを回すように右に手首を捻る。
この時、秋華の瞳孔は開き、口は顎が外れんばかりに開く。
「さあ、高位次元へ接続します! さらにその高位次元から他次元へ道を開く。このルート、術式を開発したあの御仁は素晴らしい方だ。こんな知識、秘術を惜しげもなく伝授してくださるとは!」
横たわる秋華の上の空間が歪みごく小さな穴が形成され、それは徐々に大きくなっていく。
「ああ、感じますよ。来ます、来ますよ! こちらに来たくて来たくて仕方のない強大な存在が! あなたという最高の触媒を得て! あなたの自我など一瞬で消し飛ばし、自由を得た破壊と恐怖が降りてきます」
「ふふふ……馬鹿ね。笑えるわ」
気分が最高潮のマトヴェイにまたしても秋華が水を差す。
顔面蒼白にも関わらず力の籠った瞳で小馬鹿にするようにマトヴェイに目を向ける。
「むう、まだ意識があるとは」
秋華は歯を食いしばり己に迫る霊力の圧力に耐えながら口を開く。
「あなたはいくつか大切なことを知らないのよ」
「ふん、下らない駆け引きなどするつもりですか。いや、逆に感心しますよ。何をしても無駄な状態でそれをしようとするあなたには」
相手にする気もないとマトヴェイは空間の穴へ集中する。
「あなたは……私が幻魔降ろしに失敗した本当の理由を知らない」
「む……?」
マトヴェイは相手にしないつもりが思わず秋華の言葉に耳を傾けてしまい、秋華に目を移した。
「どういうことです」
「……いるのよ」
「……は?」
「すでに私の中にはいるのよ、幻魔が。しかも強烈で強力でくそったれな奴がね。自分以外を認めない傲岸不遜、大欲非道、支離滅裂なやつよ。それが私が暴走しかける理由なの。こいつが怒るのよ、私が恐怖するとね」
「な、何を馬鹿な! それならとっくに皆が分かっているでしょう。そんな馬鹿な大嘘が」
「分からなかったのよ。分からなくても仕方がなかったというべきかしら」
秋華がすべての世界を見下すような得も言われぬ笑みを見せた。
「私の中にいるのは……斉天大聖よ」
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