第320話 友人のニイナ②
ニイナは黄家の使用人の後ろをアローカウネと共に屋敷の廊下を歩いていた。
アローカウネを連れていくか最後まで悩んだが、アローカウネの強い申し出もあって連れていくことにした。
さすがに命の危険はないとは思うが、アローカウネにとっては万が一すら見逃すことはできない立場だ。さらに秋華の話を聞けば、ここは任務地であると同時に敵地ともなるややこしい場所であることが分かった。
ニイナの護衛兼執事のアローカウネにしてみれば仕方のないことだと思う。
とりあえずニイナは今の自分の立場を整理しなくてはならない。
自分は祐人のマネージャーとしてここに同行してきた。
いわば『堂杜なんでも事務所』の社長、堂杜祐人の秘書兼窓口といったところだ。
つまり今回の依頼の詳細の確認と契約回りをしっかり監督するのが自分の仕事だと思っている。
(まったく、何で私がここまでしなくてはならないでしょう。これも堂杜さんが頼りないのがいけないんです。友人として放っておけないじゃないですか)
と、ふと思いなおすニイナは大きくため息を吐いた。
困ったものです、という表情で足取りが若干、重くなる。
だが事実は……偶然、祐人が秋華から警護を依頼されたのを聞き、強引にその役職に就いたことなど、何故か置き去りにされていたりする。
そもそもこの件に食い込んできたのは〝乙女の勘が警鐘を鳴らしたから〟とは、普段から理屈づくめのニイナには思いもよらなかったのだろう。
(今回の仕事だって正直、怪しいんです。秋華さんの話は聞きましたが本当に護衛だけが目的か分かりません。あの子はどうにも信用ならない感じがします)
ニイナはこの秋華の依頼についてタイミングが良すぎると思うのだ。
(あの四天寺家の大祭は有力な能力者の家系、または能力者組織に大きな影響を与えている可能性があります。朱音さんのことですから情報操作や〝飛ばし〟の情報で混乱させていると思いますが、あの場にいた者で起きた出来事を正確に把握できた者がいたとしたら……)
ニイナは目に力が籠る。
(私なら必ず堂杜さんを調べます。もちろん自分の陣営に引き込むために。それに堂杜さんのランクがDというのも余計に食指をそそりますしね。とてもおいしい物件にしか見えないでしょう)
行動の決断に恋心だけでなく、こうした状況把握が入っているのがニイナらしい。
だからニイナは祐人のそばにいるべきと思ったのだ。
(堂杜さんは隙が多すぎなんです。自分の価値が分かっていないというか、売り込む気がないというか、だったら目立たなければいいのに……仲間のためとなるとそんなことも忘れて活躍してしまって)
これで秋華からの超好条件の素早い依頼。
軍人であり政治家の娘のニイナはピンときたのだ。
(相手が賢くかつ手段を選ばずに堂杜さんを絡めとりにきたら厄介です。堂杜さんは戦い以外では善良で警戒心が薄いですから……)
今回は依頼主の秋華からの情報しかない。
さすがのニイナも能力者の世界の常識は分からない。だが表世界の常識は通用するところと、しないところがあると考えておいた方がいいだろう。
しばらく歩くと黄家の使用人が両開きの扉の前に止まりノックをした。
扉が開き、中に入る。
「ニイナ様をお連れしました」
「うむ、どうぞ中へお連れしなさい」
使用人に返事をする壮年の男性の声が聞こえてくる。
おそらく黄家の当主、黄大威であろうとニイナは推測した。
ニイナはここで表情と頭を整える。
(調べること、聞き出す内容は多々ありね。相手に必要以上の敵意を引き出さずに情報だけとにかく手に入れましょう)
そう考えるとニイナは広間と言っていいほどの大きな部屋に足を踏み入れた。
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短くてすみません!
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