第317話 複数の目②


 襲撃者は二人とも上下にスエットを身につけた男で、見た目は公園でランニングをしている一般人のような格好だ。

 襲撃者の一人は跳躍後に天井に張り付いたかと思うとまるで天井が地面かのようにそのまま逆さまのまま走る。

 もう一人は水平に跳躍し祐人に迫った。


(こちらに来るのは僕を抑える気か。だとすれば上の天井にいるのが本命の秋華さん狙い)


 祐人はそう分析するとまずは自分に飛び掛かってきた男に向き合う。

 そして同時に指示を飛ばした。


「琴音ちゃん、風を前方に! 攻撃力はなくていい! できる限りの強風!」


「はい!」


 言い放つ祐人は琴音の返事は待たずにその場でバック転の要領で敵の跳び蹴りを寸前で躱すとそのまま両手を地につけ、同時に天井に向かって蹴り上げた。

 祐人の強烈な蹴りが腰部にめり込み、あまりの苦痛に敵は息を吐きだす。さらにはそのまま直上の天井に吹き飛び、天井から走り寄ってきたもう一人の敵と激突した。


「グウ!」


 襲撃者たちは天井にめり込むと重力に逆らえず落ちてくる。

 そこに琴音の風精霊術が発動。


「風よ!」


(できる限りの強風を!)


 ただ風を起こす術は基本中の基本。

 極度の緊張に包まれる琴音でも発動は容易であり失敗はない。

 人が吹き飛ぶには十分な風が前方に発生する。

 いつの間にか祐人は琴音の術の妨げにならない真横に立った。

 落ちてくる意識を失いかけた襲撃者たちは、成す術もなく琴音の起こした風に乗り駐車場奥の壁まで吹き飛んでいった。


「警戒を解かない! 琴音ちゃん、土精霊術! 周囲のコンクリートの強度を上げる!」


「はい!」


 琴音はすぐさま土精霊を掌握。周囲の建造物の石の密度を強制的に上げる。

 いわば全体の石を近くに寄せるために十数メートル先の術の境目にあるコンクリートにひびが入る。

 すると祐人たちのいる僅か三メートル程先の床が盛り上がった。


「ぐぁぁ‼」


 悲鳴と同時に床から三人目の襲撃者が飛び出してきた。

 床下のコンクリート内を移動中に琴音の術で圧死しそうになり飛び出してきたのだ。

 琴音は目を見開くが、気づけば祐人はもう横にはいない。

 祐人は飛び出してきた男の鳩尾に入れた拳を外し、意識を飛ばしたその男をその場に寝かしつけた。


「す、凄すぎ……お兄さん」


 後方でこれを見つめる秋華は驚きを隠せずにこの状況を見つめる。左右の従者も額から汗を流しながらこの状況を見守るばかりだ。

 祐人の一連の動作、指示はすべて敵を倒すことに繋がり、気づけば三分も経たずに戦闘は終了した。

 祐人は一瞬、駐車場の外に顔を向ける。


(他にもいるな。でも動く気配がない……何だ? こいつらは僕を測るための捨て駒か?)


 そう思うと駐車場の外からの気配はすべて消えた。


「ふむ……まあ、いいや。さてと、こいつらはどうしようか、秋華さん」


 祐人が振り返りながら秋華に尋ねると目の前の視界が何らかの布に覆われた。


(しまった! まさか、まだ僕の気づかない敵が……って、柔らかい?)


「お兄さん、すごい! かっこいい! 素敵! 見た、見た? あなたたち見た?」


 祐人の耳元から秋華の元気な声が聞こえてくる。


「ムームー!」


 どうやら歓喜した秋華が祐人の顔にジャンピング抱きつきを敢行し、祐人の頭に頬ずりしてまったく離れない。

 琴音は戦闘の緊張から解放され呆然とするが、秋華のはしゃぐ姿にようやく気付く。


「あ、秋華さんずるいです」


「琴音ちゃんもおいで! それよりもいい? あなたたち見たわよね!」


 秋華は従者たちに迫るように祐人の活躍を確認している。

祐人の頭に巻き付きながら。


「ああ、もう最高よ、お兄さん。琴音ちゃんは胸に飛び込みなさいな」


 そう言いながらもう一度、祐人の髪の毛に顔を埋めた。


「ムームー」


(苦しい! 息がぁぁぁ)


※※※※※※※※※※※※※※※

ここで力尽きた作者(AHO)でした。

書籍版もよろしくです……ガクッ



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