第301話 予感①
「じゃ、じゃあ行こうか、祐人」
「う、うん」
一悟は精神と気遣いと力を使い果たした顔で言うと頬をゲッソリさせた祐人がそれに応じた。
人生初の合コンというものを今日、祐人は経験した。
そして、精も根も尽きた。
「優太もありがとうな」
「あはは……なんか大変だね、二人とも。でも僕は楽しかったよ」
今回の祐人以外の合コンメンバーとして呼ばれた同じクラスの新木優太が心配そうに二人を労わった。
新木優太は一悟と仲が良く、祐人を除くと一悟と本音で話せる数少ない人物である。この新木優太は心根が優しく、温和、そして空気が読めるという優秀な男なのだが、実は吉林高校においてある意味、有名な人物である。
その原因はその容貌だ。
それで一部の女子生徒から圧倒的な支持を得ている。
ちなみにその支持している女子たちは数系統に分化されるが、それはここで省くとして、その女子たちが日ごろ優太に対してどのように言っているかで想像できる。
「抱っこしたいわ。この胸で寝かせたい」
「私の嫁」
「年下王子」
「永遠の弟よね」
「受け以外、考えられないわ!」
「可愛い、ああ……新木君、カワイイ」
といった感じである。
本人は至って普通に過ごしているのであるが、時折、心配になった一悟がフォローやアドバイスを送っている。
「いいか、優太。基本的に必要がない限り、上級生の教室の前を歩いては駄目だ。それと部室棟も危ない、かなり危ない。特に女子部のある二階は絶対に行くなよ。それと映研、漫研、文芸部の連中も要注意だ」
「え? 何? どうしたの? 一悟君、突然。何が危ないの?」
「うーむ、無自覚か。中学時代はどうやってやり過ごしたんだ……。いいから俺の忠告は覚えておくんだぞ。正直、俺は「草むしり君」一人で精一杯だから。まあ……俺といるせいで悪い噂が立っている部分もあるんだけど逆に身を守ることにもなっているのはお前には嬉しい誤算……なのか? トホホ」
「……?」
優太本人は一悟の云わんとするところがあまり理解していないようであったが、非常に素直な性格のために一悟のアドバイスは聞き入れている。
何はともあれ、こういった風貌と性格から相手から警戒もされることもなく、また印象もすこぶる良いので超お嬢様との合コンにはうってつけの人材だったのは間違いない。
今はもう夕方になり、すでに男女ともに解散となった。
「本来はここから男だけで反省会を開いて熱く語るのがセオリーなんだが、今日は疲れた。もう、帰るぞ」
「そうだね……賛成だよ。それに何を反省するのか、何から議題にしていいのか、分からないし」
「あはは……お疲れ様」
駅に向かいながら一悟と祐人の会話に愛想笑いをすることしかできない優太。
今日、集まった人数は大所帯となったので一悟は全員を引率するだけでも一苦労だった。
お昼前にファミリーレストランに集まり、元々のメンバーである法月明子と他のお嬢様二人と何故か直前で参加することになった瑞穂、マリオン、茉莉、ニイナ、静香。そして、レストランに入り座った隣の席に見たことのある二人の女の子がいた。
一悟は驚き、祐人も驚愕する。
その二人の女の子とは秋華と琴音だった。二人はその後、自然な形で合流を果たし、ボーリング、カラオケまでと実に最後まで一緒に楽しんだ。
全体的にいえば非常に盛り上がり、なによりもお嬢様方は初めて経験することばかりだったので、深々と一悟にお礼をして満足顔で帰って行った。
それはいい、それは良かった。
良かったのだが……一悟としては納得のできるものではなかったらしい。
「ちっとも、お嬢様方とお近づきになれなかった。これは合コンなどではない。ただのお友達会だ」
「僕にいたっては立ち居振る舞いを監視されるだけの時間だったよ。合コンって一体……」
「あはは……ほら、でも皆、感謝してたよ。特に清聖女学院の女の子たちは一悟君の企画には大喜びだったし、スムーズに移動もできて、会話も盛り上げてくれたって高評価だったよ!」
優太はガックリしている一悟と祐人を見て、元気を取り戻してもらおうと空気を変えようと声を掛ける。
「ああ……そういうのはいいんだよ。俺が欲しいのは役職を褒めるような言葉じゃない。俺個人にしかない何かに惹かれた的な反応が欲しいんだわ」
「……う。あ、法月さんって祐人君に興味があると思うんだよね。僕は見たよ、時折、祐人君に送る視線を。あれは絶対に興味があると見たよ。今度、連絡してみればどうかな。法月さん、すごく可愛いし、優しいしそうじゃない」
「うん……法月さんや他のお嬢様と話すたびに背中が寒くなるような視線を感じたんだよね。あれは誰だったんだろう? ハッとして見回してもそんな目をしている人はいないし。いつも、感じる視線の方向も毎回違った気がするし」
「あ……」
優太は笑顔で固まったまま、汗を流す。
優太も見ていたのだ。
祐人がお嬢様と仲良くするごとにフゥっと笑顔が消える女性陣を。
しかも常に祐人の死角にいる人だけがそうなる。
あれは正直……ちょっとしたホラーかもしれない。
(白澤さん、四天寺さん、マリオンさん、ニイナさんって吉高一年生男子、憧れの四人があんな顔をするの初めて見たよね。それに合流してきた二人も可愛かった。ひょっとして祐人君ってすごい人なんじゃ)
「でも祐人、お前はすごいよ」
「え? 何が? 一悟」
「だって今日のお前、ダイナマイトを巻きつけながら火山の中でダイヤをとろうとしてるんだからな。あの環境で法月さんと仲良くなったのは、勇者としか言いようがないわ。俺なら死んでいる、すごいぞ、祐人」
「それはどう受け取っていいのか、さっぱり分からないんだけど」
(すごい分かる!)
優太は大きく頷く。
「まあ、今回は俺のミスもある。もっとちゃんとセッティングできていれば祐人と法月さんはデートのワンチャンあったかもしれない。次回こそは……」
「ええ! またやるの? もういいんじゃない? 僕は精神が削られて疲労感がすごいよ」
「こんなの合コンじゃないんだよ! どこにクラスの女友達の方が多い合コンがあるんだ! いいか、機が熟したらやるぞ。待ってろ、今度こそはミスはしない。隠密裏にことを運ぶ。優太も頼んだぞ!」
「え!? 僕も!?」
「何を言ってんだ! 今日の法月さん以外のお嬢様二人はお前のことを気に入っていたぞ! あれは結構、本気と見た。俺には一人も来なかったけどな」
「そうかな……そういう風には見えなかったけど」
「この無自覚コンビが……。優太は自分が女を狂わす魔少年の才能にそろそろ気づけよ。何で俺が苦労せにゃならんのだ。もういい、帰るぞ」
三人は駅に到着すると電車に乗った。
先に優太が降り、祐人と一悟は二人になる。
電車が止まると祐人は一悟に「じゃあ、またね」と言って電車を降りた。
「あれ? 祐人、ここで降りるのか?」
「うん、今日は実家に用事があってね」
「そうか、じゃあまたな」
「うん、また」
祐人は一悟に手を振ると久しぶりに実家の道場に向かって歩き出した。
実は祐人は纏蔵に相談したいことがあった。
それは四天寺家を襲撃してきた連中のことである。
(あいつらは堂杜家としても放置できない連中かもしれない。できれば魔界にいる父さんとも連絡を付けたいんだけど……)
そう考える祐人の顔は深刻そのものである。
それだけ危険な連中だった。
「スルトの剣、伯爵……そして、ジュリアンたち。あいつらは繋がっている。あいつらの目的、狙いを調べなくてはならない」
そう言い、祐人は数ヵ月ぶりに実家の道場に到着した。
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【ご報告!!】
ついに明日、8月1日が「魔界帰りの劣等能力者4.偽善と酔狂の劣等能力者」の公式発売日です!
ありがとうございます。二章の完結巻になる4巻がでるのは、私としては本当に嬉しいです。
Web版に相当量の改稿も加えております。嬌子たちの戦闘も一人、大幅に書き足し致しまして私としても満足のいくものになったと思います。
是非、お手に取ってくださいね。
特典SSは電子書籍版に「マリオン覚醒(趣味が)」
メロンブックス様で「茉莉、お弁当を作る。母、娘の欠点を知る」
が、それぞれについてきます。
今後とも魔界帰りをよろしくお願いします!
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