第302話 予感②
久しぶりの実家はとても懐かしく感じ、祐人はホッとした心持ちになる。
この日に帰ると伝えていたためか、玄関に鍵はかかっておらず、祐人はそのまま中に入った。不用心とは思うが中に誰かがいれば堂杜家は昔からこのような感じだ。
この貧乏道場に盗む物などないというのもあるが、住人は男だけであり、何よりも堂杜家の達人が強盗ごときに遅れをとることはない。
「爺ちゃーん、帰ってきたよ! 爺ちゃーん!」
(あれ? 返事がないな)
今回はさすがに不在なわけはない。
連絡をした時、纏蔵は面倒くさがりなので、むしろ相談自体を渋るかもしれないという心配があった。ところが、意外なことに「ちょうど良かった、儂からも大事な話があるから来い」と言われたのだ。
この時、祐人は纏蔵も自分と同じ内容を話し合うつもりだったのだろうと直感し電話を切った。
(四天寺家を強襲してきたジュリアンたち。あの連中は魔界との繋がりを持っている可能性が高い。だとしたら、堂杜も黙ってはいらないはずだからね)
祐人は廊下の電気をつけて進み、居間の襖を開けると、そこには畳の上に数種類の雑誌を広げ、難しい表情で腕を組み座っている纏蔵がいた。
「何だよ、いるじゃない。返事してよ、爺ちゃん……って何してるの?」
祐人は纏蔵が唸りながら睨みつけている雑誌群に視線を移すと……頭の中が「??」で埋め尽くされる。
「は? なにこれ? 新婚旅行先10選?? 人気の挙式プログラム????」
「……うん? うおい! 祐人! 帰ってきておったか! 帰って来たなら声くらいかけんか!」
見苦しいほど極度に慌てた纏蔵は雑誌をまとめて後ろに隠す。
「声はかけてたよ。というより……何を見てたの?」
「何でもない! 何でもないぞ! 何も見ておらんし!」
「……」
それが何でもない人間の表情と態度かと突っ込みを入れたくなったが、纏蔵のしていることを真剣に絡もうとすると訳が分からなくなってくるのはいつものことだ。
これから堂杜家としても重要な話をしようとしている時に、話題が逸れるのは避けたいので祐人はスルーすることに決めた。
「はあ~、爺ちゃん、早速だけど相談したいことがあるんだよ」
「お、おお、うむ! ではお茶でも入れてこい」
「分かった。茶葉はいつものところ?」
「そうじゃ!」
祐人が荷物を置いて台所に行くと背後から必死に雑誌を隠そうとしている音が聞こえてくる。祐人はあきれ顔でお茶を沸かした。
テーブルにお茶を並べると早速、祐人が切り出した。
「爺ちゃん、相談っていうのは他でもない四天寺家に襲ってきた連中のことだよ」
纏蔵はお茶を啜る。
「おお、あの威勢の良い連中か。あいつらがどうした?」
「え!? 爺ちゃん、気づいてたんじゃないの?」
「何がじゃ? あいつらに何かあったのか? まさか……実は女性とか!?」
「んな訳あるか! あいつらは魔界のことを知っている節があるんだよ! それだけじゃない、ひょっとしたら今現在も魔界の人間、もしくは魔神と繋がっている可能性があるんだ」
「む、それは本当か? 祐人」
魔界、という言葉を聞いて、さすがのハチャメチャ老人の纏蔵も目が鋭くなる。
それは当然のことだ。堂杜の存在意義に関わることなのだ。
というより何も考えてないであの連中を圧倒していたのか、と祐人は頭が痛い。
「ふう……証拠はないよ。でもほぼ間違いないと思う。あいつらは魔界の魔神側に付いた人間たちが得意としていた半妖の術式を使っていた。しかも魔人化まで手にしていたんだ。つまり、あいつらは魔來窟とは違うルートで魔界の誰かとコンタクトをとっている。となれば魔來窟を守ってきた堂杜にとって忌々しき問題だよ。すぐにあいつらの組織を特定してルートごと潰さなくちゃ!」
「まあ、落ち着け、祐人。確かにそれは非常に問題じゃ。じゃが、ちと情報が少ないの。それと恐らくじゃが、そやつらは魔來窟のように自由に魔界へ行き来しているわけではあるまい。もしそうであれば、今頃、魔界からどんな化け物が来ていてもおかしくない。そうであれば、あちらに行っている遼一もすぐに気づくはずじゃろうからな」
「でも……!」
「分かっておる。どのような方法かは分からぬが、魔界の誰かと定期的に連絡を取っているということであれば、そのままにはできん。じゃが、やる時はすべてを、だ。取りこぼしがあってはならん。それでは同じことを繰り返す」
纏蔵に表情が消え、静かであるが冷徹で有無をも言わさぬ氣を感じとる。まるで、邪魔になる者はたとえ罪なき者でも排除するだろうと思わせる氣だ。
だが、祐人は知っている。
これが堂杜なのだ。
一千年の長きにわたり、魔來窟を守り、魔界に関わろうとしてきた悪鬼、魔神、人間を屠り、もしくは封印してきた。それが堂杜の扱う超級の封印物件である。
さらに言えば、その逆もしかりである。
堂杜は現世と魔界を行き来してきた堂杜は魔界側から現世へ来ようとする者たちをすべて抑えてきた。
これらはすべて堂杜家初代が決めた堂杜の役目である。
この重大で難儀な役目を何故、堂杜が背負わなくてはならないのか、と祐人は考えたことはない。むしろ、誇りを持っていた。
祐人は初代を尊敬し、有体に言うと〝大好き〟だった。
偉大なご先祖様だから、というのもある。
だが、本当の理由は初代が現世の防壁となろうと決意した理由を纏蔵から教えられたからだ。
それは祐人が幼き頃、富士の山裾にある樹林の奥深いところで過酷な修行をこなしていた時に纏蔵から聞かされた話だ。
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