第266話 【番外編】白澤茉莉の入学式
報告です!
「魔界帰りの劣等能力者1.忘却の魔神殺し」が8月1日に発売することが決まりました。
それに伴いましてカバーイラスト等も公開していますので、是非、ご覧ください。私のツイッターでも見れます。
それで一章部分の番外編を5話ほど投稿します。本編も今、書いてますのでお待ちくださいね。
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今日は蓬莱院吉林高校の入学式。
茉莉は自宅の洗面所で鼻歌を歌いながら新しい制服を身につけ、何度も全体をチェックをしていた。
「茉莉ー! いつまでやってるのー? 朝ごはん早く食べなさい、私はもう大学に行くわよ!」
リビングから、茉莉の母である雪絵の声が聞こえてくる。
「分かってるー!」
茉莉はそう応えるが、最後にもう一度だけ確認をしようと横を向いて、制服と髪の毛を見ていた。
「もう、この子は何をやってるの、同じことを何度も何度も。そんなこと繰り返しても胸は大きくならないわよ?」
「む、胸は関係ないわよ! 身だしなみよ、身だしなみ! 今日は入学式なんだから、第一印象が重要なのよ!」
そう言いながら、茉莉は思わず母である雪絵の胸部に目がいく。
雪絵はキチッとしたスーツ姿をしているが、そのワイシャツの内側から大きく盛り上げるようなフォルムになんとも言い難い表情をした。
(な、何で……親子なのに!?)
雪絵は娘に呆れた表情を向ける。
「ふーん、第一印象ねぇ~。それは新しい制服を見せたい人がいる、の間違いじゃないの? 主に祐人君とか、祐人君とか、祐人君とか?」
「な! そんなわけないでしょ! これから出会う新しいクラスメイトとかに!」
「はいはい、分かったから、さっさと朝ごはんを食べて、その新しい制服を誰にでもいいから見せに行きなさい。お父さんは出張中で、今はあなただけなんだから」
「分かったわよ、もう~」
学校では優等生然としている茉莉だが、自宅ではごく普通の少女だった。
茉莉の父、正隆は大手商社に勤めており、出張も多く、家にいないのは珍しいことではなかったが、父親のことを言われると素直に茉莉は雪絵の言うことに従った。
というのも、正隆は厳格な父であったが、出張に出発する前に、高校入学のお祝いとして茉莉にスマートフォンを贈ったのだ。
茉莉は父の意外なプレゼントに飛び上がって喜び、昨日も父にメールを送っている。そういうこともあり、今は父のことを言われると素直になる茉莉だった。
茉莉はリビングテーブルの椅子に座ると、朝食を取りながら何となくテレビに目をやる。
そこには最近、人気の出てきたグラビアアイドルが胸を強調するような恰好で元気な声を出し、わざとらしく飛び跳ねた。
茉莉はつまらないものを見るような顔をする。
朝からこんなノリはいらないだろうと心から個人的に思った。
“はーい、今日の占いのコーナーです!”
飛び跳ねるたびに、大きくバウンドする肉の塊。
「……」
“今日は各地で入学式が催されるようですね! 入学式には新しい出会いがいっぱい! いいですねぇ! 胸が膨らみますねぇ! あ、膨らんでない方ごめんなさい! テヘ!”
「……(イラ!)」
“私も思い出しますー、甘酸っぱい高校生活の始まり! それは出会い! あ、もちろん男女の意・味ですよ~。あ! そこの男子! だからと言って入学式から張り切り過ぎちゃダメですよー?”
「……!?」
“でも! 気持ちは分かります! 男の子はみんな、今日という日に運命の出会いを妄想しちゃうのよね~。その願いが叶うかは、これからの努力次第ですよ? そうですねぇ~、男の子の友達同士で協力するのがお勧めですよー。一人で突っ走るよりも可能性がグンと高まるわん。これは先輩からのア・ド・バ・イ・ス”
「……ハッ!」
茉莉の脳裏に祐人の親友でもあり、話がうまく女の子との距離の取り方がうまい……そして、何よりも女の子に並々ならぬ情熱を持つ一悟の存在が頭に浮かぶ。
すると……茉莉の研ぎ澄まされた感覚が伝えてくる。
この危険な男子が祐人に余計なことを吹き込む可能性大であると。
茉莉の目が大きく広がり、ワナワナ……と肩を震わした。
「茉莉、テレビなんか悠長に見てていいの? 私は先に行くわね……茉莉?」
茉莉が突然、勢いよく立ち上がった。
「すぐに行くわ! 学校!」
茉莉はお皿をキッチンのシンクに片づけると、まだ筆記用具とノートしか入っていない吉林高校指定の学校カバンを片手に持つ。
「は? そ、そう? じゃあ一緒に……」
「行ってきまーす!!」
「ちょっ! もう……なんなのかしら? あの子は」
雪絵は首を傾げて、困ったように嘆息した。
こうして足早に登校してきた茉莉は吉林高校の校門の前でお目当ての幼馴染の少年を見つける。
というよりも、校門の前で一悟と騒いでいたので、すぐに分かった。
(やっぱり……袴田君と何かはしゃいでいるわね)
すぐにでも祐人たちのところに駆けつけたい茉莉だが、逆に歩く速度を落として背筋を伸ばし、静々と近づいていく。
この辺は入学式当日に慌ただしくするのはあまり良いことだとは思わない、という茉莉の優等生らしい考え方があった。
が、心は違う。
すると……段々、少年たちの……一悟と祐人の会話の内容が聞こえてくる。
表情は変えない茉莉。
しかし、聴覚にその全能力を集中させている。
そして、祐人の声が耳に入ってきた。
“分かったよ! 一悟。僕も頑張る。まず何をすればいいのか、教えてくれ!”
何を頑張ろうとしているのか、それはもう茉莉には分かっている。
どうやら……茉莉の悪い予感が的中したことが確認された。
何故なら、乙女の勘が最大限の警鐘を鳴らしているのだ。
これはなんとしても、やめさせなければならない。
茉莉の笑顔が不自然に形成される。
そして……その騒がしい少年たちの後ろで立ち止まった。
「おはよう、二人とも。こんなところで何をやってるの? 入学式はじまっちゃうわよ?」
と、お淑やかな声で話しかけたのだった。
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