第263話 四天寺総力戦 乱戦③


 オサリバンが祐人を押し込むところを見てジュリアンとドベルクは他を無視し、腹ただしくもこの戦いすら高みの見物を決め込んでいるような四天寺の中枢に仕掛けることを決断した。


「さあて、行くか、ジュリアン!」


「チッ」


 だがそれと同時に、二手に別れた明良率いる四天寺家の精霊使いたちが、凄まじい手数で精霊術を繰り出してくる。

 そのクロスファイアーポイントにいる二人はそれらの集中砲火をまともに受けてしまう。


「むう! なあんだ、あいつら必死だな、ウゼーぞ」


「ドベルク! お前はあの雑魚どもに向かえ! 四天寺の頭には俺が仕掛ける。そうすれば、目の色変えて飛び込んでくる。それであいつらは終わりだ!」


「冗談じゃないぜ! あのおいしいガキをオサリバンの野郎に仕方なく譲ったんだ。それであんな雑魚どもの相手なんかしていられるか!」


 そう言うと明良たちの攻撃が吹き荒れる中を強引にドベルクは移動を始め、四天寺の重鎮席に特攻する。


「お前も来いよ、ジュリアン! どうせお前もこっちと戦りてぇんだろう?」


 ジュリアンは指示に従わない仲間に苛立ちの表情を見せたが、もはや何を言っても無駄だと理解したのか、またはドベルクの言うことが事実だったからか、精霊術を霊妖力で防ぎながらドベルクと共に四天寺重鎮席に向かい地面を蹴った。

 その時である。


「む!」

「何だ!?」


 まるで分厚い壁に猛スピードで突進してはじき返されたような衝撃が二人に走った。

 何とか〝その攻撃〟を凌いだ二人は後方に吹き飛び、地面を滑走するように踏ん張りながら着地すると新手の敵を確認する。

 すると、ドベルクのテンションが激しく上がり、額から伸びる角までも喜びで紅潮するようだった。


「おい! おい! おいおい! おいおいおい! マジかマジか!」


「き、貴様は!?」


 二人の眼前に【剣聖】アルフレッド・アークライトが愛剣エクスカリバーを握りしめ、四天寺重鎮席を背に立っている。


「ハッハッハー! さすがは四天寺! またスゲェのを呼んでるじゃねーかぁぁ!! ジュリアン! 前言撤回だぜ、こいつは俺がもらう、いいな! お前は四天寺でも、あのガキでも好きな方に行けや!」


 ドベルクは嬉々として叫び、まるで爆発音が耳に鳴り響くかのように霊妖力を全方位に解き放つ。

 アルフレッドはフッと笑みを浮かべると小枝を振るように片手で大剣を頭上から振り下ろして構えた。


「そこまで歓迎してくれると私も嬉しくなってくるね。是非、日紗枝にもその姿勢を学んでほしいかな。では、私もその歓迎にお応えしようか!」


 途端にドベルクの姿が残像を残して消える。

するとアルフレッドは前を向きながらその場で剣を横に振ると、真横に姿を現したドベルクの大剣ダーインスレイブを受け止めていた。

 剣圧による突風が周囲にまき散らされ、ジュリアンの髪の毛が後方に靡く。


「おい、剣聖さんよ! 真剣にやってくれるんだろうな!」


「フッ、私は歓迎してくれる相手に対して礼を失したことはないんだがね」


 二人がそう言った直後、二人の大剣が激しく舞う。

 ジュリアンの周囲を消えては現れ、ぶつかり合う剣の激突音が鳴り響く。

 魔人化したドベルクの人間離れした動きに難なく合わせ、アルフレッドはドベルクの剣撃をすべて撃ち落とす。


「さすがにやるなぁ! 剣聖!」


「この程度で満足されるとは存外、欲がないな」


「冗談じゃないぜ、これからギアを上げていくぜ! このドベルクの本気を受け止めてくれよ? お前のエクスカリバーを超えれば、俺の剣が本物へと昇華されるからな!」


「ほう……あなたがあの【鍛冶師】か。となると、神剣のレプリカはあなたが鍛えたものいうことか。どこでその素材と技術を手にいれたのか興味が湧くね!」


 そう言うとアルフレッドが高速移動しながら愛剣エクスカリバーに手を添えて刃先まで指をなぞるように滑らした。そのなぞる指先には超高密度の霊力が押し込められており、ぼんやりと薄赤い光が漏れ出ている。

 するとエクスカリバーの腹に見知らぬ文字が浮き出た。


「なに!? 何だそれは!? 剣が……」


 魔人化しているドベルクが驚愕する。

 今、エクスカリバーの柄の形が大きく変化し、アルフレッドの右腕まで包む籠手になる。


「何かって? おもてなしだよ、鍛冶師。レプリカではない〝本物〟をその目で見るがいい」


「ぬう、てめえ!!」


 ドベルクが激高する。

 アルフレッドの言いようは鍛冶師である自分を小馬鹿にしたように聞こえ、ドベルクの誇りを傷つけた。


「吼えろ、魔剣ダーインスレイブ! 敵の血を吸え! 剣聖の血はお前をさらなる高みへ連れていく!」


 ドベルクの額の角がさらに伸び、息が詰まるような妖霊力が吹き上がる。それと同時にダーインスレイブの刃はドベルクの妖霊力を吸い、小刻みに振動した。

 ドベルクはそのまま空気の壁を破る踏み込みスピードでアルフレッドの一刀足の間合いに入り込み、大剣ダーインスレイブを振りかぶる。

 その圧縮された恐るべき力は受けても躱しても周囲を巻き込むエネルギーをまき散らすだろうことは高位の経験豊かな能力者なら分かる。四天寺家の広大な敷地も半分は更地に変わるだろうものだ。

 これにオサリバンと交戦中の祐人は寒気が走る。だが、すでにどうにかできる状況ではない。


(もう、魔人化したこいつらに仲間にどんな影響が及ぶのかという考えすらないのか!)


 祐人は瞬間、オサリバンに仕掛けるとドベルク、アルフレッドの位置からオサリバンを盾にするように移動し、かつ瑞穂、マリオンが自分の背後になるようにすると衝撃に備える。


(明良さんたちと朱音さんたちまでフォローできない!)


 祐人は歯を食いしばり、悔しさと無力感が一緒くたになった表情を見せた。

 そして、魔人と剣聖が激突する。

 仲間を守ろうとする祐人の仙氣が膨れ上がる。


 その直後……、


 魔人ドベルクは全身を炎で焼かれながら重鎮席前の広場からその先の木々の中へ吹き飛び、魔剣ダーインスレイブが……折れた。

 想像に反する絵に目を広げる祐人はオサリバンから距離をとりアルフレッドの立つ方向へ目を移す。


「私はこれでも剣聖と呼ばれていてね。【剣聖】が【鍛冶師】に剣技で後れを取っては、私の存在価値に関わるだろう? 力はまき散らすのではなく、集中させる。剣技とは意外と地味なのさ。覚えておくといい、鍛冶師」


 そこには……そう静かに語る剣聖アルフレッド・アークライトがエクスカリバーを薙いだ。


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