第262話 四天寺総力戦 乱戦②
「ぬうう! 小僧ぉぉ!」
オサリバンが祐人を執拗に追い回す。祐人は冷静に、だが紙一重でオサリバンのハルパーを躱した。そして、そうしつつもジュリアンとドベルクの動きに気を配った。
さすがの祐人も自分の息が乱れ始めているのを感じとっている。まだまだ、相手に狩られるつもりはないが、決定的な反撃のチャンスも見出せてはいなかった。
(こいつら、感じてはいたけど……強い! 個々の戦闘では相当な連中だ。一瞬も気が抜けない! でも……そろそろ四天寺に動きがあるはずだ)
倚白を正眼に構え、オサリバンをけん制すると、祐人は戦いが次のフェーズに入るだろうと予想していた。
祐人はこの強敵たちをヒーロー気取りで、ただ自分に引きつけたわけではない。
ましてや、自分一人の力ですべてを倒そうとなどと考えてはいなかった。
祐人の狙いは二つ。
まずは時間稼ぎである。
だがそれは瑞穂をはじめとする四天寺家の人たちを逃がすための時間稼ぎではない。
そうであればとっくに逃げるように伝えている。襲撃者の狙いは四天寺そのものなのだ。ここで逃げたとしても根本的な解決にはならない。必ず、またやって来る。
それにここは四天寺の本丸。四天寺がこの場所を放棄するなど実力的にもプライド的にも考えないであろう。
ということは、四天寺はここで敵を完膚なきまでに叩くつもりのはずである。
さらに言えば祐人はここに至って、ひょっとすると四天寺はわざと敵を誘ったのでは、とも感じていた。
(そうだとすると……喰えない人だよ、朱音さんは。最初から僕を巻き込む気だったんだ)
そのために、祐人は挑発して自分に引きつけた。
数々の能力者との戦いの歴史がある四天寺だ。必ず、対抗策を打ち出してくる。
だから祐人は敵の手の内をなるべく引き出させるように戦い、能力者としての特徴を分析する時間を四天寺のために稼いだのだ。
そして、祐人のもう一つの狙い。
実は今の祐人にとってはこちらの方が重要だ。
それは堂杜家の祐人、としての狙い。
(こいつらは……まず間違いなく、スルトの剣、カリオストロ伯爵と繋がっている。確証はない……でも、こいつらの背後には〝魔界〟がちらつく)
これだけは堂杜家の人間として絶対に放置できない。それが堂杜家の存在理由でもあるのだ。
ロキアルムや伯爵と同じく妖魔の力を取り込む術。この術はこちらの世界では存在していないもの……それをこの襲撃者たちもその身に使っている。
(カリオストロ伯爵は魔界で僕が倒した災厄の魔神、アズィ・ダハークの名を知っていた。しかし、魔界との出入り口、魔來窟は完全に管理できている……。では、こいつらは一体、どこから?)
祐人はなんとしても、この辺の情報が欲しかった。
ジュリアンたちは一体、何者なのか、組織された連中なのか。
組織であるならば、どのような目的を持ち、そして、今回、どの程度の戦力を割いて攻め込んできたのか。
(魔界について、どこまで知っているのか……それが分かれば)
しかし、こいつらは一人一人が恐ろしく強い。
まさかとは思うが、こいつらと同等の戦闘力を持った能力者たちが、相当数、控えているのであれば、正面から戦って対処できるものではない。
祐人も魔界での生死をかけた幾多の戦闘経験がなければ、ジュリアンたち三人も同時に相手にはできなかった。
(もし……こいつらがすでに魔界についてかなりのことを知っていて、どのような目的であれ、その存在を白昼に晒す危険があるのならば……)
父親の遼一、祖父の纏蔵も当然、動くだろう。
今までのように身を隠しながら魔來窟だけを守るのではなく、堂杜も積極的にその力を振るわなければならない。
祐人の目が鋭くなり……力が宿る。
(もちろん僕も……全力で排除する。どんな手段を使っても……ね)
祐人がオサリバンを睨みつつも、頭の中で四天寺が動きを見せたときにどう動くかシミュレーションはじめた時、オサリバンが肩を揺らして笑いだした。
「ク……ククク、はっ、なんだよ、あいつら! もう手の内を隠さなくてもよくなったのかよ! それなら俺も好きに行くぜぇぇ」
そう言ったオサリバンが突然、動いた。ハルパーを両手に掴み、祐人の左側から湾曲部分で刈り取るように薙ぐ。
(な! 速い!)
祐人は油断してなどいなかった。
ところが瞬時に、オサリバンが懐に入ってくる。
祐人は避けることができず、倚白でハルパーを受け止めると凄まじい衝撃波が祐人の周囲を包み込むように抜けていき、祐人の両頬を裂く。
「……ッ!」
(まずい! 今、ジュリアンたちに囲まれたら……来ない? あ、あれは!?)
祐人はオサリバンの後方にいるジュリアンとドベルクを見て、目を見開いた。
すぐに二人が自分の時間稼ぎに付き合うことを止めたと理解したが、驚いたのはそこではない。
驚愕したのはジュリアンとドベルクの霊力と妖力が完全に交じり合い、一つの力として全身からあふれ出しているのを見たからだ。
そして眼前のオサリバンも同様だ。霊力と妖気が交じり合っていき、それにともなってオサリバンの力が増し、祐人を倚白ごと後退させていく。
「グウゥ!」
祐人は倚白の柄と刃に手を当ててハルパーを凌ぐ。
(この連中は、まさか! なんていう奴らだ!)
祐人はこのジュリアンたちの変化を知っている……。
以前戦った闇夜之豹たちが、伯爵の手によって妖魔の種子を植え付けられて得た力に似ているが、その実はまったく違う代物だ。
その脅威も危険度も比べ物にならない。
もはや人間とも妖魔とも言えない。
魔界における祐人の戦いを難しいものにしていった要因の一つ。
「お前ら……まさか、魔人化まで!」
オサリバンがこの祐人の言葉にまなじりを上げる。
「なんだと……はーん? 何でそんなことをお前が知っている? てめえ、本当に何者なんだ?」
直情的なオサリバンもさすがに祐人に疑問が湧いた。が、どちらにせよ、問題にならないと言わんばかりに鼻で笑う。
「まあ、いいか、どうせここで死ぬんだからなぁぁ!」
オサリバンの霊妖力が噴出し、祐人は顔を強張らす。
これと同時にジュリアンとドベルクが四天寺の重鎮席に跳躍した。これ以上、祐人を相手にする愚を悟ったかのように、二人の凶悪な殺気が四天寺の中枢に向けられている。
(しまっ……!)
祐人にとって厄介な状況になった。
今まで、こうならないように三人を引きつけ、もし、誰かが自分を捨てて四天寺重鎮席に行こうとしたとしても、そこをついて一撃を加えるつもりだった。
いや、むしろ祐人の戦いの組み立てはまさにそこに集約していた。
挑発して自分に引きつける、だが、強烈な反撃を与えるタイミングは重鎮席を狙った時としていた。矛盾するようだが、祐人はこの三人を相手にする時、これが最も効果的に時間を稼げ、最も有効な手傷を与えられると考えていた。
しかし、祐人もすべてを見通すことはできない。
まさか、敵が〝魔人化〟すると想像ができなかった。
オサリバンに懐深くに入られた今の祐人は体勢が悪い。そのため、オサリバンをいなして援護に向かえない。
〝祐人! すべてを一人でやろうとするのは、あなたの悪い癖って言ったでしょう!〟
(え!?)
祐人の耳元に風が横切り、よく知っている、覇気のある少女の叱咤する声が鳴り響いた。
すると、祐人の視界の……オサリバン越しに二人の少女が見える。
前面にマリオン、後方に瑞穂という位置取りをしており、それは闇夜之豹の本拠地である水滸の暗城を祐人と三人で攻め込んだ時と同じフォーメーションだった。
(あれは! マリオンさん、それに瑞穂さんまで!?)
二人の少女はすでに術を完成させており、あとは発動をするのみの態勢でいるのが分かった。祐人は瑞穂とマリオンと目が合うと、それだけで戦い方のバリエーションが数十増える。
(あっちは明良さん! 間に合った!)
さらに、四天寺中枢を狙うジュリアンたちに、戦力を再編して帰ってきた明良たちが無数の精霊術を繰り出す。ジュリアンたちにとって、一つ一つの術は軽微でも二方向からガトリングガンのように集中砲火されれば動きは鈍る。
そして……状況は大きく動く。
これは祐人もジュリアンたちも想定していなかった事態だ。
ジュリアンとドベルクは明良たちの攻撃を数千と浴びながらも強引に突撃を試みた直後……なんと、魔人化した二人が後方にはじき飛ばされたのだ。
祐人は目を疑った。
なぜなら魔人化に成功した能力者の脅威を知っているからだ。
明良たちの援護攻撃があったとはいえ、そして、虚を突いたとはいえ、神剣のレプリカを持った魔人化した能力者二人を跳ね返すとはどれだけのことか、と祐人は思う。
すると……それを成した人物が音もなく着地した。
「私も参加させてもらおうか。乱戦となれば、どうなるか読みづらい。それにこれ以上、若者ばかりに任せていては、先輩として居心地が悪くなるのは困るのでね」
光り輝く大剣を握る男がブラウンの髪を靡かせ、不敵な笑みを見せた。
この人物こそ……世界能力者機関の定めるランクSSにして二つ名は【剣聖】
十三人の【魔神殺し】の一人であり、接近戦において無類の強さを誇る、生ける伝説。
今、アルフレッド・アークライトが参戦してきた。
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