第222話 トーナメント戦②
「おお……ついに始まるか。いや、すげーな、何だこれ? 大型モニターが4台もあんのか。すべての会場の様子が分かるようになってるぞ」
観覧席で一悟はそうつぶやくと、四天寺家の重鎮たちが集まっている屋敷のバルコニーの方に目を向ける。
そこには瑞穂の姿も見ることができた。
一悟たちは瑞穂の友人ということで来ているが、さすがに祐人の仲間でもあるので公の場所で瑞穂たちの近くにいることはできない。それは他の参加者に四天寺家が特定の参加者に便宜を図っているというような余計な勘繰りを受けないためだ。
トーナメント戦についての説明が終わった参加者たちは準備のためか、一旦、自室の方に移動を開始し始めている。
「なんか緊張してきたよ。堂杜君、大丈夫かな。ここから見ても他の参加者はすべて年上っぽいし……あ、同世代っぽいのもいるね!」
静香は初めて観戦に来た格闘技の試合前のような状態だ。
「まあ、なるようになるだろ。あ、ニイナさん、四天寺さんには連絡とったの?」
「はい、もちろん。堂杜さんが最初から本気でいくということも伝えました。こちらの意図も伝えています。それと皆さん、堂杜さんの以外の試合もよく見ておいてください。あとでまとめて報告しますから」
ニイナは持参した資料を見ながら、返答をする。祐人に圧倒して勝てとは言ったが、当然、情報収集ぐらいはしておかなくてはならない。
せめて自分たちが出来ることはすべてしておかなくてはならないと考えているからだ。
「おう、分かってる」
全員、頷くとニイナは茉莉に目を向けた。
「それと茉莉さん」
「何? ニイナさん」
「袴田さんのお話ですと、茉莉さんの能力は状況把握が特に優れているものだと思います。茉莉さん、是非、その能力を発揮して欲しいんですが」
「え!? あ、でも、私……まだ自分の力がどういうものなのか……というより、自分が能力者ってことすら分かっていないの。ましてや、どうやってその力を振るうかなんて……」
ニイナの要求に茉莉は動揺したように応える。
実際、これは本音で茉莉にしてみれば、昨日に突然、「あなたは能力者」と言われて、まだその事実をかみ砕けていない。正直に言えば、勘違いではないか、とすら思っているのだ。
その茉莉の様子にマリオンは眉を寄せる。
「そうですね……聞いていると、茉莉さんはまだ覚醒したばかりのようですし……何も訓練もない茉莉さんには難しいかもしれません。私も袴田さんから聞いた嬌子さんの言う“ハクタク”の血統なるものも初耳でしたから。ただ昨日……祐人さんと別れる時に茉莉さんはその能力を使っていた節があります。なにかきっかけのようなものがあれば……あるいは、ですが」
「……そうですか」
残念そうにするニイナに、茉莉もどうしていいか分からない。今のマリオンの話を聞いてもどこか他人事かのように聞こえてしまっている自分がいる。
「……ごめんなさい」
「いえ! 謝ることなんかないですよ。私もいきなりなことを言ってすみません。私も堂杜さんに戦わせておいて、しかも注文までつけてしまったので、堂杜さんに少しでも役にたつようなことはできないかって考えたら、つい、茉莉さんの能力を思い出してしまって」
「……祐人の役にたつ……」
茉莉はそう小さくつぶやくと……祐人以外の参加者たちに目を移した。
以前に女学院の屋上で目の当たりにした能力者たち同士の戦闘が頭に浮かぶ。
あの襲撃者と祐人やマリオンたちの劇画のような、それぞれの信じられない動きをみて衝撃を受けたことを思い出す。
それは何も知らない茉莉から見ても、とても危険で生命の危機にもなるものだったと感じていた。
茉莉は参加者の中の祐人を見つける。
(よく考えれば、これは試合といっても、とても危険なもの……よね)
今のところ、この大祭で死者は出ていないが、重傷者は既にいる。すべて四天寺家が責任をもって治療をしているので問題はないということだが、一歩間違えれば、どのようなことが起きても不思議ではない。
今頃になって能力者たちの常識……一般人から見た非常識に毒されていたことに茉莉は気づく。それは一悟や静香も同じだろう。ニイナは自分たちよりも能力者たちを熟知しているところがあるので、自分たちとは感覚が少々違うのかもしれない。
茉莉は不安に駆られた……が、今更、祐人を止めることはできない。自分も祐人を信じて送り出しているのだ。
(じゃあ……私は)
茉莉は両手を握ると顔を上げた。
「マリオンさん」
「はい……?」
「私に力の使い方を教えて。何でもいいから……コツのようなものとか」
マリオンは茉莉のお願いに難しそうな顔をする。
「……そうですね。系統の違う能力者が能力発現のコツを教えるのは難しいです。特に茉莉さんの能力はまだ捉えどころがないですし」
「……そう」
「でも、まず能力者は霊力や魔力をコントロールすることが基本です。それならアドバイスをすることができますよ。茉莉さんは、自身の力を偶然かもしれませんが二度も発現させています。ですので霊力のコントロールができれば……何か気づくところがあるかもしれません」
「本当!?」
「はい、まだ分かりませんが、可能性はあります」
茉莉は顔を明るくさせると、早速マリオンに師事することを決めた。
これで少しでも祐人の役に立てるかもしれないと思うと、嬉しかったのだ。
対戦は一時間後。
「祐人は8ブロックだな」
ニイナたちは対戦表をもう一度確認した。
1ブロック
三千院水重 VS アルバロ
2ブロック
ダグラス・ガンズ VS オシム
3ブロック
ジュリアン・ナイト VS ミラージュ・
4ブロック
ガリレオ VS
5ブロック
ヴィクトル・バクラチオン VS A・A
6ブロック
7ブロック
てんちゃん VS 黄英雄
8ブロック
堂杜祐人 VS バガトル
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