第219話 入家の大祭 トーナメント前③
女性陣から離れたところに、静香に「まだ泳がせておくか」とつぶやかれたことなど知らない一悟と祐人は……いまだにコソコソしていた。
「まあいいか。確かにお前が最後まで残って、早々に四天寺さんに降参すれば……十分、合コンには間に合う。そのためにも、参加者を全部張り倒してこい! 聞いてりゃ気分の悪い奴らばかりだからな、四天寺さんみたいな美少女の価値が分からねぇクズどもは俺も許せねぇ」
「そうだね! 僕も許せなかった!」
「いいか、祐人。これはいわば一石二鳥だ! 美少女をクズな男どもから救い、そしてお前は、満を持しておっとり系の優しい女の子たちにも会える、という」
「……おお! もしかしたら……そこには将来の」
祐人の表情が明るくなっていく。
「……は? 将来? お前……そこまで考えてんの?」
「え!? いや! もしかしたらだよ? だってほら、僕の家は普通の人から見たら意味不明な家だし……今から努力しないと……結婚なんて」
突然、モジモジしだす祐人。
「……(こ、こいつ)」
一悟は鼻をひくつかせ、眉がピクピクしている。
(な、何だ? こいつは。変なスイッチが入ってるな……。四天寺さんの伴侶を探す、という、この大祭を見て、自分のことに置き換えたのか?)
一悟から見て祐人は明らかに卑屈な妄想で暴走直前だ。
冷静さがほぼ失われているのが分かる。
一悟が推測するに、自分の家の特殊性(面倒くささ)に加えて、裕福でもなく、名もない家(つまるところ貧乏な庶民)であることをリアルに感じ取り、「このままじゃ、自分は結婚できないんじゃね?」という考えにたどり着いたのだろうと考える。
(それで……この大祭後に開かれる合コンを思い出したおバカな祐人君がこんなことを?)
祐人は一悟に顔を向けてくる。
「僕、頑張るから! 合コン!」
「お、おう……」
拳を握る祐人を見た一悟の脳裏にすぐさま浮かんだ言葉……、
それは……
“これ、ヤヴァくね?”
であった。
(こ、これは……経験不足のチェリーが、過度に合コンに期待して、異常に重たいことを考え始めるという。『合コン初心者あるある』に、見事なほど、はまっているじゃねーか!)
祐人がどういう思考を経て、こんなことになっているのかは分からない。
実は今回の合コンなのだが、一悟にしてみれば、ちょっと女性陣を焦らせてやろう、ぐらいの気持ちであったのだ。
だが、それでも随分と自分は体を張ったと思う。
一悟はこの4人の少女たちの気持ちは知っているのだ、恋愛のことになると出てくる欠点も含め。
普段は優秀そのものだが、この手のことでテンパると何をするか分からない困った人たちだ。
そういったところが、海に皆で行った時にも発揮され……それを被った祐人がさすがに怒っていたことをきっかけに、合コンを開こうと思ったのだ。
一悟は少女たちに、少々お灸をすえるのと、“それじゃあ祐人との距離を縮めるには時間がかかりすぎますよ”ということを教えてやりたかった。
実際、この
(この
一悟は後ろを振り返り、マリオンや茉莉、ニイナをチラッと見る。
「……へ?」
一悟は思わず声を上げてしまう。
なぜなら……その一悟の視線の先にいる3人の少女の表情が目に入ったからだ。
何故だかは分からないがそこにいる3人の少女は、それぞれに深い愛情のこもった目で、自分の目の前にいる
ちょっと本気で怖くなってきた。
しかも……今の3人の表情は大分、素直に感情を表情に出しているように見える。
(それを普段から祐人の前でやれば……いや、というか合コンが命懸けになってきたと感じてきたんだが?)
額から多量の汗が流れる一悟だが、気持ちを奮い立たせるように拳を握る。
(一度決めた合コンを取りやめるなど、袴田一悟の生きざまに汚点を残す! 俺はやるぜ、絶対にな! それにだ、祐人と色恋を語るのにはいい材料でもあるしな……)
祐人とは長い付き合いで親友をやっている一悟には、祐人が茉莉や瑞穂、マリオンにニイナのことを大事にしていることは、よく分かっていた。
おそらく……少なからず異性として意識をしていることも感じてはいた。
しかし、恋愛にまでいくかというと、祐人はどこか自分にブレーキをかけ、前に進まずにそこにとどまっているようだった。
これは一悟から見れば……もどかしいの一言だった。
ただ、祐人は今回……自分を前に進めようとしている。
または前に進もうと決心しているのだ。
何が祐人の背中を押したのかまでは分からないが、これは良い傾向だと一悟は思う。
(きっかけ次第で祐人は動くようになる気がすんだよな。今回の
一悟が祐人に目を移すと、突然、祐人が必死な形相で一悟に縋りつく。
「い、一悟!」
「うわ、何だ、どうした!?」
「僕に合コン必勝法を教えてくれ!」
「…………」
一悟はもう一度、後ろに振り返った。
そこには、依然として優しい眼差しで祐人を見つめている3人の少女がいる。
一悟は思う。
これヤヴァくね?
このような中、この場で最も冷静な人物、水戸静香は顎に人差し指と親指を当ててつぶやく。
「さっきの袴田君のあの顔は覚悟を決めた感じかな? あれれ? 今は怯えてる? ……はっはーん、段々、読めてきたよ」
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