劣等能力者の受難

第195話 プロローグ①


「おお! すごいな! 鞍馬くらま! 綺麗な砂浜!」


「おお、すごいぞ! 筑波つくば! 海だ! 広いな! 大きな!」


「あ、こら! 鞍馬、筑波! 海に行くなら水着に着替えてから……って行っちゃったよ」


 祐人ひろとは眼前に広がる白い砂浜と青い海を前にいつも以上にハイテンションになってしまった鞍馬と筑波に注意するが、二人には届かなかった。


「まあまあ、いいじゃない。すぐに戻ってくるわよ。それよりも祐人、私たちも着替えて早く行きましょうよ!」


「そうですー」


「あ、ちょっと嬌子きょうこさん! 荷物を置いてからじゃないと」


「祐人! 早く私も行きたい!」


「……行く」


「分かった、分かったから、ちょっと待ってね。荷物が多くて」


 ぱいとスーザンも待ちきれない様子で祐人の背中を押す。

 玄やウガロンは物珍しそうにキョロキョロし。傲光はいたって静かだ。

 そこに、今回の引率役をかってでてくれた神前明良かんざきあきらがメンバー全員に声をかける。


「はい! 皆さん、管理人から鍵を取ってきましたよ。では、別荘はすぐそこですので、そこに荷物を置きに行きましょう。部屋は十分にありますから、部屋割りはそこで決めましょう、それで着替えたら、この場所に集合ということでいいですか? 皆さん」


「「「「はーい」」」」


 祐人一家の女性陣の元気な声が響くと一行は四天寺家の別荘に移動を開始した。

 今は夏休み。

 祐人たちは四天寺家所有の南にある小さな島に来ていた。

 闇夜之豹騒ぎのあと、そのときに大いに活躍した鞍馬と筑波にご褒美を、と祐人は二人に欲しいものを聞いた。すると二人はみんなで旅行がしたい! ということだったのだ。

 そこで、祐人は旅行の計画を学校の仲間たちに持ち掛けたところ、悪友である一悟いちごがその計画を引き継ぎ、茉莉まつり静香しずか瑞穂みずほ、マリオン、ニイナにも声をかけ、大所帯での旅行になった。

 ちなみに花蓮かれんにも声をかけたのだが、夏休みは実家に帰らなければならないと、至極残念そうに言い、必ずお土産を買ってくるのだ! と念を押された。


「うわぁ、本当に綺麗なところ~、これが貸し切りなんて信じられないね! 茉莉! 瑞穂さんのお家ってどれだけお金持ちなの?」


「そうね! 瑞穂さん、ありがとう! こんな素敵なところに招待してもらって」


「私、実は海水浴に来るのは初めてで嬉しいです! ミレマーでは海に行ったことがなかったから」


「私も子供の頃に行ったきりで、本当に久しぶりです」


「ええ、みんな喜んでもらって良かったわ。最近は来ていなかったんだけど、自由に使っていいから。ここにはシュノーケリングの装備も揃っているから、いつでも言って。茉莉さんも静香さんもやってみたいって言ってたでしょう?」


「やりたい! 茉莉、絶対やろう!」


「すごいー! 本当に楽しみ!」


「マリオンとニイナさんは?」


「あ、私はいいです」


「わ、私も……」


「そう? ま、気が変わったら言いいなさいね」


 茉莉たちは何があったのか、いつの間にかお互いに名前を呼ぶようになっている。祐人もここに来て知らないうちに仲良くなってたんだ、と意外に思っていた。

 瑞穂たちが吉林高校に編入してきた時は、微妙な感じだったので。

 先日、一緒に買い物に行ったと聞いていたが、その時に仲良くなったのだろう。


(まあ、同い年の女の子同士だし、その辺は、きっかけがあればすぐに関係を築いたんだろうな。でも……さ)


 今、祐人は学校の女性陣の荷物をすべて持ちながら歩いている。

 そのため、とんでもなくかさばり、歩きづらいのだ。


(何で、僕が荷物係なのかな?)


「おい、祐人、早く歩けよ。俺にはこの旅行のカメラマンという大事な役割もあるんだからな」


「この僕の状況を見て、それが言える一悟の人間性を問いたいよ!」


「……お前、また何かしたんじゃないのか? せっかくの美女、美少女オンリーという奇跡の旅行なんだからな、彼女たちの笑顔を曇らすような真似はすんなよ?」


「それがまったく……心当たりがないんだよ~」


 実は何故か、この島に移動している最中から、女性陣の機嫌が悪い。

 鞍馬たちはこの島に着いてから呼んだのだが、嬌子たちは移動中の船上に現れた。何でも船に乗ってみたかったのだそうだ。

 ただ、よく考えるとその辺りから、雰囲気がおかしかった。

 嬌子たちと何か話していたようだったのだが……。


 先頭に明良が歩き、その後ろに茉莉たちと祐人一家、最後尾に祐人と一悟が歩くという構図だ。

 すると、前方にそれは立派な建物が見えてくる。


「あれが、別荘よ。みんな」


「うわー、大きい!」



「しかも新しくて綺麗ね!」


 島の若干、高台に建てられた別荘からは海が一望でき、景色も景観も申し分のない贅沢な別荘に静香と茉莉も大喜びだった。

 明良が門を開けて、中庭を通り別荘の大きな玄関の扉を開けて、中に入るように促した。


「皆さん、入ってください。はい、どうぞ、あ、靴はそのままでいいですので。さあ、入って、入って、白さん、スーザンさん走ると危ないですよ! 部屋割りをしますから、リビングに行ってくださいね。あ……祐人君、ご苦労様……」


「……はい」


 最後に祐人は荷物の山を抱えながら玄関のドアをくぐった。




 40畳以上はあろうかという広いリビングで皆、集まると明良が部屋割りの案を紙で渡した。


「じゃあ、皆さん、2階にツインの客室が8部屋ありますので……」


「はいはーい! 私は祐人と同じ部屋がいい!」


「あ、ずるいよ、嬌子! 私も祐人と一緒がいい!」


「コクコク……私も」


「ずるいですー」


「え!? ちょっと……みんな」


「「「「絶対にダメよ!(です!)」」」」


「のわ!」


 突然、息があった4人の少女の声に祐人が飛び上がる。

 祐人は激しい異議を唱えた少女たちに顔を向けると、鋭くも暗い4つの視線の集中砲火を受ける。


(何、何? 何なの? この殺気は!?)


 すると……茉莉が、瞬きを忘れた鋭い目で祐人を睨みつける。


「祐人……あなた、清聖女学園の寮で嬌子さんたちと一緒に寝たらしいわね」


「え!?」


 それは……あの時の? 窒息で死にかけた……。

 まさか、船で嬌子さんたちと話していたのは……!?


「しかも、4人をベッドに侍らすなんて……どこのエロ大王なのかしら?」


 み、瑞穂さん、エロ大王って……


「神聖な学び舎で、しかも、主人の命令に逆らえない嬌子さんたちを……不潔です!」


 え? え? 違うよ、マリオンさん、逆らえないどころか、言うことを聞いてくれなくて困ってるんです。


「学園に残された私たちが……どんな目にあってたと思ってるんですか? それで堂杜さんはハーレムごっこですか? いい御身分ですね。ええ、本当に……」


 ニイナさん、僕は知らなかったの。学校で何があったのか知らなかったの。


「とりあえず……今日の」


「祐人の寝床は……」


「外にテントを張って」


「一人で寝てください!」


「ええーーーー!! そんなぁ!! テントはもう十分、経験済みなのに、旅行先でもテントなんてぇ!?」


 祐人は涙目に頑張って抗議をしたが、この4人に勝てることなど出来るはずもなく、とりあえず、3泊4日の1日目は、中庭でテントを張ることになった。

 そう決まると嬌子たちはテントで祐人と一緒を希望したが、瑞穂に昼食と夕食を人質に取られるとこの処置をあさっり了承した。


(ねえ、忠誠心は?)


 ちなみに傲光と玄は島を把握するために、今日は別荘には泊まらないとのことで、ウガロンは庭で寝ることを希望したので、祐人は一人にはならなかった。


「ウガローン、ありがとう~(涙)」


「ウガ!」




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