第190話 ご褒美とは


 日本時間にして夜に帰国した祐人たちは、とりあえず、祐人は清聖女学院にあてがわれた寮に帰り、瑞穂とマリオンは四天寺家に帰った。

 瑞穂たちが言うには「機関にはこちらで報告しておくわ」とのこと。

 祐人は夜遅くに到着したこともあり、学院で留守をお願いした一悟たちへのお礼は明日の朝にすることにして、今日は休もうと考える。

 祐人は自分の部屋に入ると、息をついた。


「おっかえりなさいー! 祐人! 意外と早かったわね!」

「お帰りなさいー、祐人さんー」

「わーい、お帰り祐人!」

「待ってた……」


 突然、ベッドの方から大勢の声があがり、祐人は驚いてそちらに目を向ける。

 嬌子たちは所狭しと学生には贅沢なダブルベッドの上でくつろいでいる感じだった。


「あ、嬌子さん! みんな待っててくれたの? あれ傲光たちは?」


「傲光と玄は先に帰ったわよ。もう役目は終わったからって」


「役目が終わった? 役目が終わったって……ああ、僕が帰ってくるが分かったからか。今回はありがとうね! そういえば学校はどうだった?」


「もちろん、上手くいったわよ! 全然、問題なし! 祐人の代わりは傲光にお願いしておいたから、慣れたもんだったわよん」


 白とスーザンは祐人に駆け寄ると祐人に気持ちよさそうに頬ずりをしてきたので、祐人は二人を受け止めると二人の頭を撫でた。


「おお、そうなんだ、みんなありがとう! 白たちもお疲れ様! まだ回復しきってないのに色々とお願いしちゃって」


「全然、問題ないよ!」


「問題ない……」


「で、祐人の方は上手くいったの? そういえばなんか怪我が増えてない?」


「うん? ああ、こっちは全部、解決したよ。怪我も大丈夫だよ、これも嬌子さんたちがバックアップしてくれたおかげだね」


「ふふーん!」


「祐人さんー、良かったですね」


「あ、そういえばあの子たちは? 鞍馬と筑波は役に立った?」


「あの子たちは大活躍だったよ! 今はちょっと、またお願い事をしてあるから、すぐに帰ってくるとは思うけど、帰ってきたら何かご褒美をあげないとね!」


「ふーん……? なら良かったわ。それと~、祐人、私たちにもご褒美くれるわよね?」


 嬌子がニマーと笑い、立ち上がる。


「はいですー。私たちも頑張りましたー」


 サリーもゆったりと立ち上がった。


「う! も、もちろんだよ」


「やったー!」

「……嬉しい」


 白とスーザンも笑顔で祐人を強く抱きしめてくる。


(ご褒美はあげなきゃだけど、この二人は何をお願いしてくるか、不安……)


「じゃあ、ご褒美は帰ってから決めようね……」


「ここでもらうわ!」

「ここでもらいますー」


「え!? 今?」


「そうよ~、今回はここにいる4人はみんなで話し合って決めたから! 全員、同じものをもらうって!」


「前回は事前に話し合わなくて、失敗でしたー。抜け駆けしなければいいんでしたー」


「サリー! 余計なことは言わない!」


「は? 抜け駆け……? 今、何て言った、サリーさん?」


 嫌な予感がする祐人。

 前回のこの18禁コンビのおねだりに意識を失ったことを思い出し、無意識に体が逃げ出そうと反応するが……、


(あ、あれ? 動かない?)


 気づくと抱きついてきている白とスーザンの締め付けが……強い。

 というよりも……、


「痛ぁ!! 痛い! 痛たたたたぁ!! 白、スーザン痛いよ! 何で!?」


「ご褒美、ご褒美! へへへー!」


「……じゅる!」


「ちょっと! 白、スーザン! 目が怖い! あ、まさか……嬌子さんに言いくるめれて……駄目だって! 騙されちゃ駄目! 二人とも正気に戻って!」


「グッジョブ! 白、スーザン! そのままね~、では……準備を始めるわよ!」


「はいですー」


「ちょっ! あれ? なんで……服を脱いでるの? 嬌子さん、サリーさん?」


「ごっ褒美、ごっ褒美、嬉しいな~! 今日のために用意した下着! サリーが持ってきた雑誌で研究したのが、ついに!」


「はいー、厳選しましたー。白ちゃんとスーちゃんのものも私が選びましたよー、縞模様に統一してますー」


 そう言いつつ、嬌子とサリーは艶めかしいネグリジェ姿に……。


「ぶっ! な、何を言って……!? ちょっと! みんな僕と契約してんだよね!? なんでいうこと聞かないの!? ぐ、ぐるじい……」


 咄嗟に鼻から吹き出そうになった赤い液体をおさえる祐人だが、白とスーザンのおさえつけがきつくて動けない。


「はい! では! 私たちへのご褒美は~、私たちとの添い寝に決定ぃぃ! これでも控えめにしたのよ~? 今回は大した働きもしてないと思ってぇ、控えめに!」


「はいですー!! 本当は二人きりが良かったですー! それと添い寝だけですー」


 と言う嬌子とサリーの目は完全に猛禽類のそれと同じ……。

 明らかに言っていることと望んでいることが乖離していると、祐人の本能が伝えてくる。


(や、やばい! これはまずい! エロい! エロすぎる……じゃない! なんとか、ここは説き伏せないと! 僕の体がやばい……それにぐるじい! 白、スーザン、ぐるじい……)


 そこで祐人は契約人外についての知識が頭によぎった。


(あ、確か……強力な人外との契約は非常に有益だけど、契約者本人の力が弱まると襲われることもあるって、聞いたことが!)


 違う意味で襲われているが。

 ちなみに祐人のその知識は契約の仕方如何によるものだったりする。

 嬌子とサリーは顔を赤くし、よだれを吹きながら祐人ににじり寄ってくる。

 嬌子の身につけている薄い生地のネグリジェから透けて、黒の下着が見え隠れし、サリーの刺繡が細やかにされている生地の奥からピンク色の下着が……。


「さあ……今日という今日は観念してもらうわよ~。白、スーザン、祐人を放して、あなたたちも準備をなさい~? 添・い・寝・の!」


(嘘だ! その目は添い寝だけを狙ったものじゃない……! ぐ、ぐるじい、強すぎる! 白、スーザン、締め付けが強すぎ……い、息が……)


 夢中でギューッと左右から抱きしめてくる白とスーザン。

 二人の見た目中学生ぐらいの少女二人は、その目が興奮しすぎて我を忘れたようにぐるぐる目になっている。


「白、スーザン? もう放していいわよ? ちょっと聞いてる? 白ってば!?」


「添い寝、添い寝……頭撫でて、添い寝! 下着で添い寝!!」


 ギューーーー!!


「クハ!!」


 祐人の肺からすべての息が搾り取られる。


「あ! ちょっと! 放しなさいって! 祐人が! スーザンも放して!」


「祐人さんが、まずい状態ですー」


「……添い寝……添い寝……後ろから抱きしめて……(コクコクコクコク!)」


 ギューーーー!!


「ゲハ!!」


 酸欠で顔が真っ青になる祐人。


「ああ! 祐人が死んじゃう! 死んじゃうわよ! 放しなさい、二人とも!!」


「そうですー、落ち着いてー、白ちゃん、スーちゃん!」


 さすがにまずい状態と分かった嬌子とサリーは白とスーザンを祐人から引き離そうと飛びついた。


「落ち着きなさいっての! この娘っ子たちは!?」


 祐人は4人にの中心で揉みくちゃにされ、中々、離れない白とスーザンを脇から抱える嬌子とサリーとともに部屋の中を激しく移動すると、ようやく白とスーザンを嬌子たちが引きはがした。

 祐人はそのときの勢いで、体が飛ばされてベッドの上に落ちる。

 泡を吹いて……息絶え絶えの状態で……。


「ああ!! 祐人!」


「祐人さんー! 大丈夫ですかー?」


 ネグリジェ姿の嬌子とサリーがベッドの上で口からエクトプラズムを出しそうな祐人にすぐさま近寄り、体をゆする。

 そこで正気を取り戻した白とスーザンも祐人の様子を見て愕然とした。


「ああ! 祐人! どうして!?」

「……何があった?」


「あんたらのせいだわぁぁ!! 馬鹿者どもぉぉ!!」


「ええー! なにそれ!?」

「……言いがかり」


 そして、祐人はというと、


「ご、ご褒美……怖い……ご褒美、エロ怖い……ガク!」


 と言い残し……意識喪失。


「あああああ! またぁぁぁ!! 今度こそはって、作戦練ったのにぃぃぃ!」


 その後、意識を失った祐人を真ん中に、皆で寝たのだった。


「こんなの違う~」

「はいー、思ってたのと違いますー」

「頭撫でてくれない」

「……後ろから抱きしめてくれない」


「「「……グスン」」」


 次の日の早朝、今回ばかりは祐人が4人を説教した。




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