第135話 茉莉の向かう先
午後の授業の一コマ目が終わり、祐人は茉莉の方に目を向けた。
昼休みから茉莉とは話が出来ていない。
昼休みに祐人たちが謎の能力者たちに襲撃を受けた後、教室に戻ってきた時にはすでに茉莉は自分の席について、他のお嬢様がたに囲まれていて声をかけづらかった。
だが、祐人はどうしても茉莉に確認をしなければならない。
あの屋上でのことを、見ていたのか……。
もし、そうであれば、それは瑞穂やマリオンも能力者であることが知られたことになる。こうなってはもはや自分だけの問題でもなくなるのだ。
祐人は意を決して、立ち上がるとお嬢様がたに囲まれている茉莉の席に向かう。
瑞穂とマリオンとニイナは、瑞穂のところに集まり、その祐人の行動に意識を向けているが、何も反応を起こすことはなく見守る。
祐人は瑞穂とマリオンの背後を通り過ぎ、お嬢様がたに声をかけつつ、茉莉に話しかけた。
「茉莉ちゃん……ちょっといいかな」
茉莉は祐人がこちらに向かって来ているのは、気付いていた。実は茉莉も祐人のことをさりげなく確認していたのだ。
茉莉は一瞬だけ寂し気な表情を見せたが、すぐに軽く顔を強張らせるようにして、祐人に顔を向ける。
「……なに? 祐人」
茉莉は何とか自然に言葉を発するが、祐人を見つめ、軽く祐人から視線を外した。
それでいて、今度はその顔が上気しているように頬を赤らめている。茉莉がこんな態度を祐人に見せるのは珍しい。
そして今は元気がなさそうに目を落としている。
何か、茉莉の中に様々な感情が入り混じっているようだった。
祐人はその普段とは違う茉莉に、やはり……と思い、茉莉との話し合いを急がなければと改めて考える。
「うん、放課後にちょっと話があるんだけど……」
「……話? 実は……放課後は剣道部の人に招かれていてるのよ。明日でいい? それか今日の夜に電話で……」
「今日、話したいんだ。電話じゃなくて直接」
茉莉は目を軽く広げた。
真剣な顔の祐人と若干、動揺が見える茉莉の間に僅かな時間が流れる。
祐人が、会話の中でこんなに強引に話を進めるのは珍しい。
茉莉はちょっと嬉しそうな表情をしたが、すぐに引っ込める。
「分かったわ……静香に言って、剣道部の人たちに話しておいてもらうわ」
「ありがとう、茉莉ちゃん。じゃあ、後でね……」
祐人は真剣な顔の中にもホッとしたような表情を見せ立ち去り、自分の席に帰っていった。
この様子を間近で見ているお嬢様がた……。
皆、ヒソヒソとお互いに小声で話し合っている。
「殿方の堂杜さんからのお話って……しかも、とても真剣な顔でしたわ!」
「何故かしら……わたくし、顔が熱くなって……」
「あんな風に強引に……ああ!」
「道子様! お気を確かに!」
「共学になればこんなことが私にも……」
「今日は皆さま、放課後に集まりましょう!」
えらく盛り上がっているように見えた。
その少し離れたところではマリオン、瑞穂、ニイナも半目でこの茉莉の様子を見つめていた。それはこの3人には見える危険な信号をキャッチしているかのようだった。
「……あの子、祐人への応対が随分と変わったように見えるわ。祐人の正体に気付いただけでああなる? まだ、分からないけど……」
瑞穂が思ったことをそのまま独り言のように言うと、マリオンとニイナも頷く。
「そうですね……祐人さんを見る目が少し……」
「私のところに助けに来た時の刺々しさが感じられません。あれじゃまるで……」
三人の少女は、ムムム、といった感じで首を傾げる。
「距離が離れて気付くこともある。あれは恋という妄想に堕落しかかった女……。二人きりにすれば、一気に盛り上がる。場合によっては女の方から襲い掛かる」
「「「!」」」
瑞穂たちがハッとその不穏な言葉の主に顔を向ける。
そこには花蓮が自分の机で、腕を組みつつ、うんうんと頷いていた。
「少しは出来る女と思っていた。でも、残念。ああなったら、いい女とは言えない。いい女は黙っていても男を引き付けるもの。茉莉……グッバイ!」
そう言い放った花蓮はニマ~と笑い、立ち上がると固まったようにしている瑞穂たちの前で止まり3人の少女を見上げる。目は隠れて見えないが。
「「「……」」」
「トイレに行ってくる」
日本、フランス系アメリカ人、ミレマーの少女が同時にこける。
「黙って行きなさい! それこそ、いい女がそんなこと言わないわよ!」
「!」
花蓮は驚き、そうだったのか! という態度をしながら、コソコソと教室を出て行った。
そして、放課後に祐人は茉莉に屋上に誘った。
あえてこの場所を選んだのだ。
一悟もすぐに来るとのこと。
そして茉莉は今、祐人の背中をジッと見つめ、言葉を発さずに黙ってついていった。
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