第54話 同期との再会②

 

 三人は微妙な空気で座っている……。

 目を覚ました祐人は、今、瑞穂、マリオンと共にミレマーの地図を広げているテーブルに座っていた。

 祐人は、あの瑞穂とマリオンにノックアウトされた後、暫くして目を覚ますと、すぐさま二人から謝罪を受けた。さすがの瑞穂も素直に謝ってきた。

 祐人は二人からの謝罪と「何故か分からないけど、顔見たら突然腹が立って……」「何かの間違い」等々の言い訳も聞き、取り敢えず二人からの謝罪を受け入れたのだった。


 だが、瑞穂とマリオンはまだ、居心地悪そうに祐人を見ている。

 それは祐人が謝罪を受け入れはしたが、まだ釈然としない表情をしていたのだ。

 確かに、それだけのインパクトと破壊力はあったのだが……。

 祐人はマリオンからもらった二つの氷入りのタオルを両頬に当てて黙っている。

 瑞穂とマリオンは気まずそうに眼を合わせた。


 とはいえ、二人は未だに、何故、自分がこの少年を会うや否や頬を張り飛ばしたのかが分からなかった。若干、男嫌いの瑞穂でさえ、普段、こんなことはしたことがない。瑞穂は不器用だが礼節は重んじる性格だ。

 そして、普段、穏やかなマリオンに至っては自分の行動が衝撃的だった。今までの人生で人を殴ったことさえ記憶にないのだ。

 ……三人は微妙な空気で座っている。

 今、祐人はいきなり殴られたことも当然、釈然としないのだが、それよりも、二人の「顔を見たら突然腹が立って……」の言葉に痛く傷ついていた。


(僕の顔って……一体……。そんなに腹の立つ顔? 生理的に合わないとか? 以前、出会った時は二人ともそんなことなかったのに……)


 瑞穂とマリオンの前で祐人の顔がみるみる影を作り、いかにもどん底といった表情になった。それを見て瑞穂とマリオンは冷や汗を流す。

 テーブルの下で瑞穂がマリオンに声をかけろと、肘で小突くがマリオンは涙目で顔を振ってくる。


(あ、でも! そうだよ! 以前、出会った時はそんなことなかったんだから……。もしかすると、ひょっとして! 僅かにでも僕の記憶があるのかも!)


 瑞穂とマリオンの前で祐人の顔が、ぱあーと太陽の光を燦々と浴びた向日葵のように明るくなった。

 瑞穂とマリオンは祐人の変わりようにギクッとして、思わず体を仰け反らせる。が、かと思うと、すぐに祐人は顎に手を当て、真剣に考え込むような顔になった。


(……でも、だとして、怒っているっておかしくないか? 僕、何かしたっけ? 何の記憶が残ってるんだ? えーと、確かあの時……僕の力に巻き込まれたらいけないと思って、最後……あ!)


 瑞穂とマリオンは一体何を考えているんだろう? とお互いに目を合わせると、祐人が突然、思い出した! というようにカッと大きく目を開けた。瑞穂とマリオンは思わず驚いて、お互いの肩を掴んでしまう。


(最後に僕は二人に氣を当てて、気絶させたんだ! ということは……その時の怒り!? まさかその記憶だけが……? 良かれと思ってしたことなのに! でも、だとすると相当怒っていても……当……然)


 祐人は真っ青な顔になり、汗を額からタラ~と流し、瑞穂とマリオンを見つめる。

 瑞穂とマリオンは「な、何?」という顔。


(男が女の子を気絶させたら、そりゃあ……。ま、ましてや四天寺さんなら……)


 瑞穂とマリオンを見ながら祐人の体が無意識にガクガクと震えだす。

 打って変わって、その祐人の怯えきった態度に瑞穂とマリオンは、さっぱり意味が分からず狼狽する。

 だが、瑞穂とマリオンは、やはり先程の突然の両頬ビンタが祐人の中でトラウマになっているのだろうと想像し、少なからず罪悪感が出てきてしまった。

 確かに、あれはなかったと瑞穂とマリオンも思う。しかも、二人ともランクAだし……普通の人なら、本当に不味かった一撃だったし……。

 祐人、瑞穂、マリオンは深刻な顔になる。


「「「…………………………」」」


 そして、三人は……意を決っしたようにお互いに目を合わせると……



「あの時はごめんなさい!」「先程はごめんなさい!」「さっきは悪かったわ!」



 と同時に勢いよく頭を下げた。



「「「……………………へ?」」」



 三人とも呆けた顔を上げる。

 それは「何で謝ってるの?」という顔で、お互いに見つめ合ったのだった……。


 その後、三人は少々ぎごちなく、改めてお互いに簡単な自己紹介をして、ようやく仕事の話に入った。


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