第35話 帰館


 祐人はすっかり夜遅くになって、自宅となってまだ間もない家に帰ってきた。だが、その祐人の足取りと表情は重い。


「あ~あ、またこれで僕のこと誰も覚えてないんだろうなぁ。ランクを取得したのはいいけど、高校生活が一からやり直しだよ、もう……」


 祐人はどこか白々しく、一人ぼやきながら中に入ろうと自宅の大きな門に手を伸ばす。正直、色々と疲れた。

 あの新人試験に関わった人達のために吸血鬼を撃退して、外に出れば能力者機関の職員にも受験者たちにも既に顔を忘れられていた。もちろん、支部長である大峰日紗枝も例外ではない。

 今日は何も考えずにすぐに寝よう。祐人はそう考えると、このようなことは魔界で慣れている状況のはずなのに、祐人の心には少しだけ寂寥感があった。


「祐人! 遅い! 何でこんな時間なのよ!」


「え!?」


 まさか、こんな休日の夜遅くに自宅前で呼び止められて祐人は驚く。


「やっと来たね~。もう帰ってこないかと思ったよ。折角、親にお泊り会って言って来たのに」


「まったくだ。お前も一人暮らしなんだから、携帯ぐらい何とか持っていてくれよ」


「あ! 茉莉ちゃん! 一悟も水戸さんも! どうしてここに?」


 祐人は3人の幼馴染みとクラスメイトの登場に心底驚くも、本当に聞きたいことはそこではない。


「いやそれよりも何で? ぼ……」


 僕のことを覚えているの? と言いかけ、祐人は口を噤んだ。


「何がよ。祐人の引っ越し祝いをしていないから、纏蔵師範に家の場所を聞いて来てあげたのよ! 折角の休みだし、静香も袴田君も誘って」


「ぷぷぷ。私と袴田君は諦めて何度も帰ろうとしたんだよ? でも茉莉がもうちょっと、って」


「そうそう、俺はともかく水戸さんが帰ったら親に怒られるって言ってね。あんなに懇願する白澤さんが見られるとは……それだけでも来た甲斐があったよ。ぷっ!」


「な! 違っ! 私はただみんなと一緒にお祝いしたかっただけで、折角の連休だし……」


「今日の今日で誘ってくるから、親に言うの大変だったんだよ? 茉莉の名前出したから何とか大丈夫だったけど」


「俺はいつでも歓迎。女の子と一夜を過ごせるのを断るのは男じゃないからな」


「わ、悪かったわよ……。でも今日しかないと思ったから……」


「「分かってる、分かってる。今日しかないもんね~」」


 静香と一悟は声を合わせる。憤然やるかたない茉莉は、矛先を祐人に向ける。


「祐人いつまでここにいるのよ! 早く中に入れなさいよ! ……って祐人?」


 祐人はその場で茉莉、一悟、静香たちのやりとりを呆然と見つめていたのだ。


「祐人。ちょっ、何泣いてるのよ? 何かあったの? どうしたの?」


 祐人はこの時、指摘されて初めて、自分が涙を流していることに気づいた。


「え? あれ? な、何でもないよ! ただちょっと吃驚しただけで……」


「お前、最近、本当に涙腺弱いよな~」


「私たちが来て泣くなんて、本当は一人暮らしが寂しかったんじゃない? ほら、お祝いにお菓子とジュース買って来たからパーティーしましょ」


「あ、う、うん! ありがとう! 本当に」


 祐人は慌てて涙を腕で拭くと、古びてはいるが、昔は立派だったであろう大きな門を開けて、皆を中に招き入れる。

 祐人を待っていた間、本当にこの家が祐人の新居か? と驚いていた茉莉たちは興味津々で後に続いた。


「わー! 庭が広ーい!」


「ってボロボロじゃねーか! お前本当にここに住んでんのか?」


「あ! 忘れてた! ちょっと待って!」


「祐人……あのテントは何よ?」


「あれは! あれは……あれは……あれは実は……」


 茉莉の冷めた質問に、祐人はどうすることもできず、引っ越しの際の事情を三人に話す。




「ぎゃはは! 凄すぎる! お前、凄すぎるよ! テントって! は、腹が痛い! ヒー!」


「ぷっ! 袴田君。 ぷぷっ! わ、笑っちゃ悪いわよ……お、お腹痛い!」


「……祐人!」


「はい!」


「困っているなら! ちゃんと相談して……心配になるじゃない……」


 祐人は茉莉に怒られるかと思い、背筋を伸ばしたが、ちょっと悲しそうな顔でいる茉莉にちょっと驚き、情けないやら恥ずかしいやらと複雑な気持ちになる。

 だが……それは祐人の心を温かくさせた。

 そしてこの時……祐人は大事なことを思い出した。

 いつも、どんな時も、祐人があの能力を振るった時も……。

 今、目の前にいるこの栗色の髪の少女だけは、自分のことを忘れたことがない。


 祐人は同じくどんな時も自分を忘れなかった藍色の髪の少女を思い出した。

 それが今、自分を心配そうに見ている茉莉と笑顔の藍色の髪の少女……リーゼロッテが重なる。

 正直、外見は似ているわけではない。

 ただ、この瞬間、祐人は確信してしまう。

 今、目の前にいる少女は、自分にとって掛け替えのない人間なのだと。

 そして、今ここにいる友人たちも同様に……。


「お、このテント意外と広いじゃん!」


「本当だ! これなら4人ぐらい楽勝で入れるね。じゃあ、お祝いはテント内で!」


 いつの間にか、テントの中を覗いている一悟と静香は、購入したお菓子とジュースの入った買い物袋をテント内に持ち込もうとしている。


「あ! ちょっと待ってよ。片付けるから!」


「いいから、いいから。俺はもう待ちくたびれてんだよ。さっさと始めようぜ」


 と言って一悟と静香は、勝手にテントの中に入っていってしまう。


「そうね。もう始めましょうか、引っ越し祝い。いいわね、祐人」


「う、うん」


 茉莉の言葉に仕方なく祐人も従い、一緒にテントの中に入り電球で明かりを灯した。


「おお、いい感じだ! たまにはいいな! たまになら!」


「うん! こんなのも、たまにはいいわね! 楽しい! たまにはだけど!」


 はしゃぐ一悟と静香に祐人は唇を尖らす。


「悪かったね! 僕は毎日だよ! でも、これも家を修理するお金が出来るまでだ!」


 祐人はこの二人の言い様に反論すると、茉莉が何か気付いた様に聞いてきた。


「あ、そういえば祐人。資格試験って言っていたけれど資格は取れたの? まさか落ちたんじゃないでしょうね」


「え? いやそれは……」


「あの~、お取り込み中、申し訳ないのですが……。祐人の旦那?」


 見知らぬ声が突然、テントの外から発せられた。


「うお!」


「キャッ!」


「え? 外人?」


 そこにテントの入り口から覗いてくる長身の外国人が現れ、一同が驚く。


「あ! お前、ここまでついて来たの!?」


「な、何? 祐人の知り合い? 誰なの?」


 祐人は動揺したように、茉莉も驚いたまま、この外人が誰なのかと聞いてくる。祐人は、どう説明したものかと困ってしまう。


「あ~、資格試験で色々あって……。なんか懐いちゃってさ……」


 すると長身の目の彫りが深い銀髪の男が、ヘコヘコと頭を下げながら、愛想笑いを浮かべてテントの中に入ってきた。


「どうも、私の名はガストンって言いまして、祐人の旦那に命を救われた者です、はい」


 ガストンは、身元を怪しまれないように言っただけのものだったのだが、面白そうな話題が大好物の水戸静香が目を爛々に輝かす。


「え!? 何それ! 聞かせて聞かせて! ここに座って。いいわよね堂杜君」


「何だよ、祐人。資格試験って外国の人も来てんの? 一体、何の資格だったんだよ」


「祐人、説明して」


「あ、いや、だから……これは、この人は……そのー、何て言うか……」


 祐人にしてみれば、それは説明できない。

 能力者機関の新人試験など言っても信じないだろうし、信じられたとしても、自分の能力者としての正体を明かすことになる。

 三人からの視線を一身に受け、冷や汗を垂らしながら、完全にテンパる祐人の横にガストンは笑顔で座った。ガストンはこの状況に祐人の立場を理解したようだった。


 そして小声で、


「祐人の旦那、大丈夫です。……まかせてください」


 ガストンの言葉に本当? という顔で祐人はガストンを見ると、ガストンは頼もしくも大きく頷き、皆が祐人に説明を求めた内容を話し始める。

 やはり、伊達に歳はとっていない。千五百年も生きてるんだもん、当たり前だよな。祐人はそう思い、頼もしげにガストンの横顔に目を向けた。


「この資格は簡単に言いますと、ある派遣会社の専属になるための資格試験みたいな、そんな感じのものです。そこで祐人の旦那と出会い、人生相談をたまたましたら、なんだかんだですべて解決したから、私の命の恩人みたいな感じなんですよ」



 何? このふざけた説明。



 祐人は堂々と説明するガストンに、狼狽して声を上げようとすると、


「なるほど……。祐人、お前……成長したな……」


「堂杜君! すごいじゃない。意外~」


「これを聞いてやっと分かったわ。こういう風に最初から説明しなさいよ、祐人」


「ええー!?」


 何で納得してんの? と、不思議顔で祐人はガストンに目をやると、ガストンはニヤッと笑った。


(あ、何かやったな……)


 ちょっと涙目の静香は、感動した面持ちで祐人とガストンに迫るように近よって来た。


「じゃあ、二人はもう親友なんだね! 奇跡の出会いってやつだよ! これはまさに!」


 静香の感動具合に、祐人はガストンやりすぎだ、とも思ったが結果オーライでもある。

 祐人は諦念した感じで息を吐くと、真面目な顔になりガストンに顔を向ける。


 ガストンはヘラヘラした顔をし、これで良いでしょう? という表情。

 ガストンのそれは、よく見れば自分のご主人が喜んでくれれば、自分も嬉しいといった感じに見える。


 祐人は、そんなガストンに真面目な顔で言う。


「……そうだね。ガストン、僕たちはもう友達だよ。出会って直ぐに嫌ってほど、お互いのことを知ることが出来たしね。まあ、何というか……よろしくね、ガストン」


「え……?」


 その祐人の言葉にガストンは硬直した。

 そして、肩を震わし祐人を見つめ返す。

 気のせいかもしれない。だが、ガストンには見えたのだ。


 ほんの一瞬だが……ソフィア・サザーランドの笑顔が。


 熱いものがガストンの頬を伝って、頑丈そうな顎からポタポタとこぼれ出す。


「わ! 何で泣いてるのさ、ガストン」


 祐人は驚き、慌ててガストンの肩に手をかける。


「すみません、すみません……旦那。ただ、私はたった今……人生で二人目の友人を手に入れたんですよ。だから……今は勘弁してください……」


 そのガストンの様子を、茉莉も一悟も静香も黙って見ている。

 皆はガストンを知らない。だが今、ガストンは生の感情を見せている。

 そこには嘘も偽りもないことは、誰の目にも明らかだった。


「はい! じゃあガストンさんも! 一緒にお祝いしましょ!」


「そうだな! 祐人の引っ越し祝いと……」


 静香と一悟が明るい声を上げる。そして、茉莉がガストンに微笑した。


「ガストンさんの人生で5人……の友達が出来た記念を……ね」


 ガストンは茉莉の言葉に驚き、顔を上げる。


「え?」


 事態が掴めない。また、その言葉の意味も。


「祐人の友達っていうことは、私たちの友達でもあるでしょう? 私は白澤茉莉です。今後ともよろしくお願いしますね」


「私は水戸静香だよ! 外国の友達が欲しかったんだー! 静香でいいからね。よろしく!」


「俺は袴田一悟。祐人とは腐れ縁の仲だけど、ガストン兄さん、よろしく!」


 ガストンは自己紹介を受けて、三人の申し出に信じられないという驚きで感極まり、小刻みに何度も頷いた。


「は、はい……。私はガストンと言います。私はフランス出身でロンドンから来ました。皆さんよろしくお願いします」


 祐人は、目の前の光景に目頭が熱くなっていた。

 こうやって繋がっていくんだ……。

 ついさっきまで、お互いを知らなくても。


 祐人は思う。

 であるならば僕は諦めない。

 例え、何度忘れられても、僕はまた皆と繋がりたい。

 この素晴らしい友人たちや、これから出会うだろう友人たちにも。

 それは祐人の静かな、しかし、確固たる決心でもあった。


「何で祐人が泣いているのよ」


「ぷっ、本当だ」


「お前のその泣き癖……直した方がいいぞ」


「いやこれは!」


「本当ですよ、旦那。男が簡単に泣くもんじゃありませんよ」


「お前が言うな!」


 既に涙を拭いた、したり顔のガストンに茉莉、静香、一悟も笑顔。

 そこに、思い出したように静香が乗り出してきた。


「あ、堂杜君! 茉莉が大事な話があるんだって! ふふふ、片山先輩のことで」


「ちょっと! 静香!」


「え、何? 茉莉ちゃん何かあったの?」


「お! 何それ? 俺にも聞かせてくれ!」


「そ、それは……それは……えーと、そう! 実は!」


「えー! 茉莉ちゃん片山先輩と別れたの!? どうして? 何で?」


 飛び上がるように驚く祐人だが、横では静香と一悟は半目で乾いた笑い。


「ほほう、そんなことが……青春というやつですね?」


 驚く祐人に、乾いた笑いからニヤニヤした表情に変えて目を合わせる一悟と静香。ガストンも何故か話題について来ている。


「まだ正式に付き合ってなかったわよ! ただ……今回は私の未熟さで先輩を傷つけてしまったわ……。だから、もう一度自分を見つめ直してみたいと思って……」


 なんだそりゃ? と笑いを堪える一悟と静香。

 祐人は真面目に茉莉の話に耳を傾け、真剣に声をかける。


「私の我儘って分かっているけど、皆んなに伝えた方が私自身がひと段落すると思って……」


「そうなんだ……。でも茉莉ちゃんならすぐにいい人が見つかるよ! って痛!! 何で殴るの?」


「祐人も自分を見つめ直しなさい! 大体、何なのよ、あの時の告白は! あんなんで女の子が喜ぶとでも思ってるの!? 今日という今日は、今まで言えなかったことを言わせてもらうわ! 覚悟なさい!」


「へ? 何で僕が? それに、もうそれは過ぎた話じゃ……」


「黙って聞きなさい! 大体、祐人は……」


 その二人の様子を、静香と一悟にガストンを加えて顔を寄せ合い小声で話し合う。


「え~。皆さんこれは何なんです? 祐人の旦那が形無しなんですが」


「いや~、ガストン兄さん。この二人は色々と複雑で、過去にね……」


「ほうほう、そんなことが旦那に。でも旦那の心には……」


 とガストンは言いかけて、これは不味いと思い、口を閉ざした。さすがに、祐人の魔界での過去を話すわけにはいかない。しかもそれは、祐人の心から直接見たのであって、祐人の口を通して聞いたものではない。それを話してしまうことは出来ない。

 だが、そんな機微を見逃すような静香ではない。


「何、何? ガストンさん、堂杜君の女性関係を何か知ってるの?」


「俺も知りたい! あいつ俺にも内緒にしてるんですよ!」


 目をキラキラさせる静香と睨んでくる一悟に、冷や汗を流して困る口を滑らした不死者。

 千五百年、ほぼ友人らしい友人がいた経験のないガストンは、この状況に狼狽える。とにかく、どうにかこの話題をそらそうとした結果……。


「あ……いや。え~と、あ! そういえば試験中にとても美しい二人のお嬢さん方と仲が良さそうでしたので……」


「本当ですか!? 」


「何ぃぃ! 祐人のくせにそんなことが! どんな娘たちです!? スリーサイズは?」


 ガストンは話を逸らして、事態を鎮静化させるつもりが、できたばかりの友人二人をより熱くさせてしまったことに驚愕して、汗が止まらない。

 実は、ガストンはサトリ能力を使用していない。思うところがあり、当分この能力の使用はしないと決めたのだ。

 だが、今、ガストンにしてみれば説明書の無いまま、見知らぬ乗り物を操縦する気分だ。しかも、猛スピードで。


「あわわわ……えーと、はい。一人は艶やかな黒髪のお嬢さんと、もう一人はシルクのような金髪のお嬢さんでした。えー、私の見立てでは、二人は少なからず旦那のことを気に入っていたように見えました。確か名前は……」


「へー、堂杜君も隅に置けなくなったね~。茉莉も大変だ」


「おいこら、祐人! 試験中に会ったお嬢さん方を紹介しろ!」


 ついに我慢しきれなくなった一悟は、依然と茉莉の説教を受けている祐人の両肩を掴む。


「うわ! って何? 突然」


「ガストン兄さんから聞いたぞ! すげぇ、きれいな娘たちと仲良くなったんだろう?」


「袴田君、何? その話……」


「茉莉、今、ガストンさんが教えてくれたんだけどね。何と……」


 静香からの説明を受けると、茉莉の顔がみるみる怒りに染まっていく。


「祐人! 説明しなさい! 誰なの? その娘たちは!」


「ガストン! 余計なことを! 違うよ! 四天寺さんとマリオンさんはそこで偶然会って話しただけで! 多分……向こうはもう僕のことなんか覚えていないよ」


 祐人は突然に一悟に迫られて驚くが、後半の方は少し寂しげになってしまう。


「旦那、すみません……。もう私にはこう言うほかはなかったんです」


 祐人の説明に納得のいかない一悟は祐人の両肩をさらに強く握った。


「馬鹿野郎! 入学式の時に話したろ! 祐人。今からでもこちらから連絡を取るんだ! 向こうから来ないのは分かっていることだろう!」


「今回は無理だって! 連絡先も知らないし! それに向こうも覚えてないって!」


「そうよ、祐人には無理よ。どうせ上手くいかないんだから! それよりも自分をもっと見つめ直して、もう一度……」


「あはは。なんか茉莉、必死だね~。私の言った通り堂杜君に悪い虫ついちゃったね~」


「そ、そんなんじゃないわよ! 私は同じ道場の同門として祐人を! その女の子たちにも迷惑がかからないように言っているだけよ!」


「なんか旦那は何でも複雑なんですね~。私としては、友人として旦那がモテるのはうれしい限りです。旦那に惚れるなんて見る目があると思いますしね。あの美しいお嬢さん方もまんざらではないように見えましたし……どうです? ここは二人まとめて面倒見たら。きっとあの娘たちなら、旦那のことをすぐに思い出すと私は思いますよ?」


「だ、駄目よ! どうせ失敗するわ!」


「駄目だ! その前に紹介しろ!」


「あはは! 堂杜君、今度その子たちを連れて来てよ!」


「あああ、もう! ガストン! これ以上かき乱さないでくれ!」




 『祐人の引っ越し祝い兼ガストンの人生で5人の友達が出来た記念』のささやかなパーティーは賑やかに続いていく。

 友人との語らいは楽しいものだ。祐人の女性関係の話は落ち着き、学校の話や今後の話、ガストンの過去の経験などを深夜まで5人は語り続けるのだった。


 このような中、祐人には自分の前途多難な高校生活が目に浮かんでいる。生活面も学業面もそれは苦労するだろうなと。

 そして、自分の背負った堂杜という家も含めた、この人生そのものも……。


 でも……それだけではない。

 今の祐人はそれを知っている。


 今、祐人は己を知ってくれている良き親友達に囲まれて幸せな気分に浸っていた。


(一からでもいい。また学校のみんなに僕を知ってもらおう。そしてもし……会う機会があったら……四天寺さんやマリオンさんにも……)


 祐人のその表情は……誰の目からも明るいものだと分かるものだった。


(誰にも忘れられないくらい、自分を皆に知ってもらおう)



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