第14話ランク試験②
このような静香たちのやり取りがあるとは露知らず、茉莉が悪い女の子に祐人が引っ掛からないように注意すると決意して数時間後、祐人は三日間分の着替えだけを持って、品川にある巨大なホテルのロビーにいた。
世界能力者機関から送られてきた案内状を片手に、スケジュール表をもう一度あらためる。
「チェックインは済ませたし、説明会の会場は……三階か。ちょっと早いけど、どうしようかな。うーん? あ、喫茶店があるな」
祐人は、ホテル内の喫茶店を見つけて時間が潰せるかな? と思い、店の前まで歩を進めた。
しかし、店の前に掲げてあるオーダー表を見て固まってしまう。
「た、高い……。何でコーヒー、一杯がこんなに高いんだ」
祐人が店の前のオーダー表を見ながら深刻そうに考えていると、ホテル正面玄関の方から、ある一団が入ってきた。
その一団はスーツ姿の大人を数名従える形で、青のフォーマルドレスを身に着けた少女が長い黒髪を揺らしながら歩いている。
だが、誰から見ても、その少女の様相はまさに不機嫌そのもの。
「何なのよ、もう! あの馬鹿な連中は! 気分が悪いったらありゃしない。時と場所とを弁えなさいよ! こんな日に勝負を申し込んでくるなんて、まったく!」
その独り言のような主人の言葉を、従者である神前明良が淡々と応答する。
「それは瑞穂様が“私より強い男性しか興味ない”みたいな事を勢いで公言するからです」
「私はそれを言った覚えがないわよ! 何でどいつもこいつも、そう思い込んでるのよ!」
「では、瑞穂様がそれを否定せず、相手を倒すからです」
「仕方ないでしょ! もう面倒くさいのよ。そうでもしなければ、つまらない相手ばかり寄ってくるし! 大体、前の見合いの相手は何よ! 大した能力も無いくせにプライドばかり高くて」
「いや、あの方は御厨家の長男で、能力も家柄も問題は無かったのですが……」
「やたら弱かったじゃない!」
「瑞穂様が強すぎるんです。それと近寄ってくる男性を片っ端から張り倒すのは止めてください。もう少しお淑やかにしないと、四天寺家の長女として。私達の後処理も楽じゃないんですから」
「わ、分かっているわよ! ん? ちょっとあなた、邪魔よ! 店に入らないのならそこを退きなさい!」
相変わらず、店先で考え込んでいた祐人は吃驚して振り返り横に退いた。
「あ、すいません!」
不機嫌そうな表情を除けば、黒髪で純和風といった面持ちの少女が立っている。格好はフォーマルドレスなのに、その容貌は大和撫子を感じさせ、印象的な雰囲気があった。
ふん! と言って、その少女は店内に入ろうとすると、ピタッと祐人の前で足を止めた。
「うん? あなた……能力者?」
「え!? あ、はい……」
「あなたも私と勝負したいの?」
「は?」
祐人は言っている意味が分からずオロオロする。
当の少女は困っている祐人を無視して、祐人が入ろうかと迷ったその喫茶店に、ずかずかと消えていった。後に連れ立っていたスーツ姿の大人達もそれに従う。
(何なんだ? 一体……)
祐人は呆然と見送っていると、その一団の最後尾にいた明良が頭を下げた。
「大変、失礼しました。本人はあれで悪気は無いので、気にしないで下さい」
そう言うと、明良は大きく溜息を吐くと祐人と目を合わせる。
「ところで君……能力者と言いましたね。君ぐらいの歳でここにいるということは、君も新人試験を受けに来たのですか?」
「え? あ、はい……」
「そうですか。じゃあ、うちのわがまま姫の同期になるかも知れませんね。まあ、ランクを取得できればの話ですが。私は四天寺家に仕える神前明良と言います。失礼ですが、お名前は?」
「あ、堂杜祐人です。初めまして」
「堂杜……。聞いたこと無いですね。あなたは能力者の家系なのですか?」
「それは……」
すると店内から「早くなさい! 明良!」の怒号が聞えてくる。
「あはは。困った方でねぇ。では、後程また会いましょう、堂杜君」
軽い会釈をして、神前と名乗った従者は喫茶店の中に入っていった。
それを見送りつつ、祐人はさっきの少女は自分のこの漏れ出ている霊力に気付いたのかと思い、ちょっと気を引き締めた。
結局、祐人はホテルのやたら広い敷地の外周を散歩しつつ、時間を潰したのだった。
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