加賀美咲という存在。
同じ出版社の似たようなジャンル。俺と姉は必要のないところまで似てしまった。
……尤容姿も似ている、という事でもないのだが。
【加賀司とかいう加賀美咲のパクリ作家】
ネットでそんな文を何度も目にしている。
もちろん俺が意図的に姉の小説に似せたわけではない。姉が俺と似たような小説を書いたのだ。後出しと言っても差し支えないだろう。
しかし俺より早く書籍化され、アニメ化が決まった姉の方が世間はオリジナルと捉える。
そんなことは分かっていた。いや、分かってるつもりだったんだ。
だが、姉の口から直接その言葉を聞かされると意外にも応えた。
俺はいつから姉を追いかけていたんだろう。
「ねぇ那知。本当は何がしたいの?」
背中越しに聞こえる姉の声はとても冷たかった。
「ラノベ作家として生きていきたいの?それとも……」
「……姉さんには関係ないだろ」
俺の心を見透かしたような口ぶりはやめてくれ。
「そうかな?そうは思えないけど」
そんなことは俺がよく分かっているはずじゃないか。
喉から手が出るほど欲しい才能を姉は持っている。
そんな姉が羨ましかったんだ。
「……部屋に戻る。」
俺は姉に背中を向けた。
これ以上リビングに居ると俺の心が折られかねない。
「そっか、じゃあね」
明るい口調で姉がそう言った。
そんな姉が笑顔を浮かべていない事くらい俺にも分かった。
「はぁ……」
思わず溜息が漏れる。
姉とは関わらないようにしてたはずなんだけどな……
どうしてこうなった。唯一無二の姉弟だからだろうか。その心が自分を傷つけることになることを理解していなかったのかも知れない。
自室に入りベッドに倒れこんだ。
そしてタイミングを計ったように携帯電話が鳴った。
「……もしもし」
『もしもし司くん?』
どうやら相手は俺の担当編集者ー片瀬聡美(31歳)らしい。
「それ以外に誰がいるんですか……で、何の用ですか」
この前書籍化されたばかりだ。原稿の話ではないだろう。
『加賀先生と連絡が取れないんだけど何か知らない?』
「……もしかして姉さんのことですか」
『そう!』
マジかこの人。いくら自分の担当じゃないからって間違えるのはだめだろう。
「姉さんは加賀じゃなくて加賀美です!」
加賀 美咲ではなく、加賀美 咲。間違える人が多い。
『あー加賀美先生。どこにいるか知らない?』
「まだリビングに居ると思いますよ」
『ホント?じゃあ電話代わってくれない?』
いいですよ、そう言おうとして思い出す。
今俺は姉と会うべきではないことを。
「すみません、これからちょっと出掛けるんです。今なら電話を掛けても出てくれると思うので」
もちろん嘘だ。
『そうなの?分かったわ。夜遅くにごめんね』
そう言われ電話は切られた。
「はぁ……」
今夜は溜息が止まらないな。
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