第3話
国沢純也(17)の場合
「ぶっコロス!」
それが国沢純也の口癖だった。
世の中の理不尽を暴力で屈服させる快感。
怒りの沸点が平時にも低い位置に有り、瞬間的にピークに達する。生い立ちの不幸が国沢純也を作り上げたのではない。そういう人間なのだ。
「ぶっコロス…!ぶっコロス…!」
達磨のようなずんぐりむっくりな身体に、潰れた鼻、荒んだ目付き、金髪のパンチパーマ、ゴツいピアス、首のタトゥー。
前傾姿勢に肩をいからせて歩き、道行く人達を睨み付ける。
今時いない。
だからこそ、異様。
「今宵の客人が見付かった」
誰もが避けて通る国沢純也の目の前に痩せたピエロが現れた。
「ぶっコロス…!」
有無も言わさず猛然と突進する国沢純也は痩せたピエロに開かれた世界に脇目も振らずに突っ込んだ。
その先には訝しげな顔をした太ったピエロがいる。
「ぶっコロス…!」
国沢純也はそのまま太ったピエロに突っ込んだ。
ドシンッ!
バイン、バイン、と太ったピエロは国沢純也に吹っ飛ばされて、弾みながら遠く消え去って行った。
真っ赤な世界。
「ぶっコロス…!」
気が付くと国沢純也の目の前に1本の刀が地面へ突き刺さっていた。その隣には銃がある。
目の前にはまた痩せたピエロがニヤリと口元を歪ませている。
国沢純也はザッと刀を抜き取ると、痩せたピエロへ向けて走り出した。
「ぶっコロス!ぶっコロス!」
ズブ!
痩せたピエロの頭へ刀が突き刺さる。
ダァン!
国沢純也の胸に風穴が空いている。
太ったピエロが後ろから硝煙立ち上る銃を国沢純也に向けていた。
「ぶっコロス…!ぶっコロス…!」
そう呟いて国沢純也が痩せたピエロに折り重なるように倒れたその時、痩せたピエロの形に向こう側の世界が見えた。
グニュン。
倒れながらその扉を抜ける時、胸に空いた風穴がグニャリと引っ張られるように国沢純也は元の世界に戻ってきた。
「ぶっコロス…ぶっコロス…?」
カツ、カツ、カツ、カツ、
目の前のお年寄りが白い杖を付きながら歩いている。
「おじいさん、僕があなたの目になろう」
国沢純也の憎しみの心は死んだ。そして国沢純也はその5分後に死んだ。
国沢純也の心の99%は憎しみで出来ていた。
扉の向こうではピエロ達がニヤリと笑っていた。
絶望の世界。
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