第174話 ナツコの特別訓練⑦

「撃たれた――」


 砲撃音を感知し回避行動に移るナツコ。

 しかし大きく横滑りしながら急加速した先へと、狙い澄ましたかのように88ミリ砲弾が飛来。

 砲弾接近警報を受けて慌てて進路変更を試みるも時既に遅し。

 至近で爆発した88ミリ榴弾によって巻き散らかされた金属片が機体に深々と突き刺さり、撃破判定を受けた。


 ナツコは初期位置へ移動させられると、一切感情の無く「20敗目」を告げたフィーリュシカを恨めしげに見やった。

 しかしそんなことをして強くなれるわけでもないし、フィーリュシカが手を抜いてくれるわけでも無い。

 この訓練は強くなることが目的なのだから、またとない機会を活かさなければならない。

 これまで自分でどう戦うべきか考えてきたが、遂に観念してフィ-リュシカに尋ねた。


「すぐ見つかってしまうんですけど、視界通ってました?」

「音で分かる」

「な、なるほど」


 音だけであそこまで精密射撃を仕掛けられるとは思っていなかったナツコは驚愕しながらも、次からは自分も気を付けてみようと決めた。


「あと、回避した先に砲弾が飛んできたんです。どうして分かるんです?」

「あなたもやっていること。機体の現在位置、保有エネルギー、荷重分布が分かれば短時間後の移動先は予測可能」

「え、えと、それはそうですけど、私、回避運動とりましたよ!」

「あなたの動きはわかりやすい」


 そこまできっぱり言われてしまっては、「そうですか」と返すしかなかった。

 それでも次に繋げるため、アドバイスを求める。


「一応、速度変えたり、直線で動かないようにしたり気を配っているつもりなんですけど、駄目ですかね?」

「動きが人間的すぎる。行動を予想するのは難しくない」

「う、うう。人間的じゃない動きって――そっか! 分かりました! ちょっと時間下さい! また夕方に再戦しましょう!」

「分かった。いつでも協力する」


 フィーリュシカは2つ返事で模擬戦を引き受けてくれる。

 これまで彼女は人に教えることが不得意であることを理由に個人訓練を余り積極的に受けてくれなかったが、ここに来てナツコの訓練に全面的に協力してくれるようになっていた。

 かつてST山地攻略の折に、フィーリュシカは訓練に付き合うことを了承してくれていた。きっとそのことを覚えていてくれたのだろうと、ナツコは嬉しくなった。

 フィーリュシカがシミュレータから接続終了すると、装備を整え直して自主訓練メニューを考える。


「よし! 折角フィーちゃんが訓練に付き合ってくれるんです! この機会を無駄にしないようにしないと! まずは、統計的〈R3〉戦闘力学をマスターするところからです!」


 教育用端末に保存されている論文データを目の前の空間に浮かぶ仮想ディスプレイに表示させて、ナツコは意気込みながら、AIターゲットを出現させて実践を開始した。


          ◇    ◇    ◇


 軍用飛行偵察機〈DM2000TypeC〉が急降下しながら襲いかかった。

 リルは一瞬だけ視線を上に向けて敵機を確認すると、〈Hairtail〉をロールさせて射線から逃れる。

 放たれた12.7ミリ機銃弾を回避するとフラップを全開にし、失速速度まで減速させふらふらと降下しながら手にした12.7ミリセミオート狙撃銃を構え、離脱を試みる敵機へ向けて2回引き金を引いた。


 初弾回避に動いた先へと、狙い澄ました2発目が命中。

 飛行偵察機とは言え、それなりの装甲が施された軍用機。訓練弾によって飛行翼終端付近にペイントが散ったが撃墜判定は出されない。

 リルは舌打ちしながら速度回復し、再び銃を構える。

 足の遅い〈Hairtail〉では逆立ちしても追いかけっこで勝てない。

 相対速度に大きな開きがあるため敵機は物凄い勢いで遠ざかっていくが、それでもリルは機銃を構えて1度だけトリガーを引いた。


 回避先を読み切った狙撃弾が、今度こそ飛行翼の根元に着弾。大きくペイントが弾け、撃墜判定が出された。


「クソッ。火力が低すぎる」


 飛行偵察機の入門に使用される、低速・低運動能力の〈Hairtail〉を使用しながら、軍用機に勝利したというのにリルは不満そうだった。

 着陸し訓練に付き合ってくれた統合軍飛行偵察機パイロットと握手を交わすと、演習場から出て機体の装備を解除。

 整備用ハンガーに掛けられた〈Hairtail〉を示して、無理矢理連れてきていたカリラに命じる。


「20ミリ砲積めるように改造して」

「無茶言わないで下さいまし。そもそもなんでわたくしがこんな何の面白みも無い機体の整備しなければいけませんの」

「あんたはツバキ小隊の整備士でしょ」

「整備はサービスでやっていることをお忘れ無く」


 それでもカリラは装備解除された機体を見ると放っておけず、〈Hairtail〉の整備を開始。

 リルの機体の癖を熟知していたカリラは直ぐに整備を終えたが、動作ログを見るとあまりいい顔はしない。


「機体を酷使しすぎですわ。〈Hairtail〉はそもそも格闘戦向きではありませんから、無茶させないで下さいまし」

「丈夫な機体だから問題無いわよ。だから20ミリ砲積んで」

「ですから不可能だと言っていますわ。どうしてそんなに火力が欲しいのです?」


 リルはふてくされたような表情をしたが、カリラが答えない限り改造は一切引き受けないと態度で示すと観念して答えた。


「あたしの機体にもう少し火力があれば、〈アヴェンジャー〉なんて最初の狙撃で仕留められたわ」

「そういうこと。だとしても、飛行偵察機に機関砲積むのは不可能ですわ。そもそもフレームがそうは出来ていませんもの」

「だから改造してって頼んでるのよ」

「改造でどうにか出来るレベルではありませんわ。偵察機に狙撃砲でも積んだらいかが?」


 カリラの提案は最もだったが、それでもリルは飛行能力を手放したくはなかった。


「空を飛べる機体に機関砲を積みたいのよ」

「昔からそういう事を言うバカはたくさんいましたわよ。いくつもの飛行攻撃機の構想がなされて、大量の駄作が産み出されましたわ。

 コレクションするには最高の機体ですけれど、実際に使いたいとは誰も思わないでしょうね」

「飛行攻撃機? あんた、持ってるの?」


 リルは不機嫌そうだった顔をほんの少し明るくさせた。

 しかし対するカリラは顔をしかめる。


「持ってますけれど、貸しませんわよ。そもそも駄作過ぎて実用性皆無のものしかありませんし」

「操縦技能で補うわよ」

「そう言う問題ではありませんわ」

「やってみないとわからないじゃない」

「このおチビちゃんは全く」


 ここに来て聞き分けのなくなったリルに対して、カリラは仕方なく整備用端末を取り出して、自身が所有している飛行攻撃機の映像を表示させた。


「〈FFF・リープス〉。頭のいかれた技術者が、飛行偵察機に25ミリ砲を積もうとして産み出された超駄作ですわ。

 問題は――見れば分かりますわ」


 映っていたのは、大きな音を立てながらブースターを噴射し、空中に浮き上がった機体。

 機体は腰の両側に装備した25ミリ砲を空中で放ち、ターゲットを完全撃破する。

 そしてそのまま降下すると、再びブースターを噴射して空中に浮き上がる。


「何よこれ。いつ飛ぶのよ」

「このふわーっと浮かんでいるのが〈FFF・リープス〉の『飛行』ですわ。飛行とは名ばかりで8メートル程度浮き上がることしか出来ませんの。

 ついたあだ名がボンバーフロッグ。こんな機体でも試して見ます?」


 リルは頬を引きつらせ、首を横に振った。

 こんなネタにもならないような機体では、戦闘はおろか前線に辿り着くことすら出来ない。


「飛行攻撃機なんてのは夢のまた夢ですわ。

 いくつかそれなりの性能を出した試作機もあるようですけれど、パイロットに対する要求がきつすぎて誰にも飛ばせずお蔵入りになった機体も露知らず」

「そう言うのでいいのよ。下手クソ共には飛ばせなくてもあたしなら飛ばせるわ。調達してきてよ」

「欲しいと言って簡単に手に入るような機体なら既にわたくしがコレクションしていますわ」

「使えないわね」

「使って頂かなくて結構。飛行攻撃機は諦めなさいな。おチビちゃんが頭から地面に突っ込んでいくような所、少しは見てみたい気もしますけれど、後処理のことを考えたら御免ですわ」


 嫌味ったらしく断ったカリラをリルは怒り心頭と言った顔をして睨み付けていたが、当の本人はまるで意に返さず、整備用端末を抱え整備完了した〈Hairtail〉の整備用コンソールの蓋を閉じると、その場から立ち去った。


「クソ。飛行攻撃機、有るとすれば――」


 試作機となればメーカー倉庫にあるはず。

 だが軍需メーカーの倉庫など、この戦時には相応のことがなければ義勇軍相手に開放されたりしない。

 それがトトミ星系総司令官コゼットの頼みであればいかなる倉庫だろうと簡単に開放されるであろうが、リルは機体のために会いたくもない母親に頼み事をするのは御免だった。


「駄目元でシュードに頼んでみるしかないわね」


 シュードカンパニーは学生だったリル向けに機体を提供してくれていた〈R3〉メーカー。突撃機から飛行偵察機、高機動機まで軽量機は幅広くカバーする大手軍需メーカーだ。

 重装機はおろか中装機すら作っていない軽量機専売メーカーだから望み薄だが、飛行攻撃機試作実績があると信じて、掛け合って見ることにした。


          ◇    ◇    ◇


 イスラは、カリラのリルに対する愚痴を聞き終わり、おチビちゃんらしいと便乗しながらもそれとなくなだめて帰すと、通信室へ向かった。

 使用許可は以前から取っていたのだったが、ハツキ島の旧政府と繋がりのあるサネルマに頼んでようやっと目的とする人物の連絡先を得ていた。


 カリラも通信室に誘おうとも考えたが、個人用の通信室は狭いし、通信相手とそりが合わず喧嘩に発展する可能性もあったので止めた。

 とかく相手は質実剛健。実用性を重視する堅物技術者であり、出来損ないや狂った設計コンセプトなどの変態機体を愛するカリラとは相容れない存在だった。


「やあティレーおじさん。あたしのこと覚えているかい?」


 開口一番そう語りかけると、通話口の向こう、技術者のニルス・ティレーはくぐもった声で応えた。

 彼はイスラとカリラの父、ロイグ・アスケーグの古くからの友人であり、ロイグが育児放棄してロマンを追い求め宇宙に出て行った後、2人が義務教育を終えるまで親代わりになって育てた過去があった。


『イスラか。元気そうだな』

「おかげさまでね。惑星首都で統合軍の技術教官してるってきいたけど本当かい?」

『ああ。軍属は嫌だったが、状況が状況だし、ド素人に〈R3〉を触られるのは癪だ。それで、お前は何処で何をしている』

「あたしはハツキ島義勇軍作って帝国軍と戦ってるよ。と言っても、戦闘よりもそれ以外の面倒ごとと戦ってる事の方が多いけどな」


 義勇軍と聞いてニルスは「珍しいこともあるもんだ」と相づちを打った。


『カリラもか?』

「ああ、一緒に居るよ。親父から連絡はあったかい?」

『こっちにはない。あいつは自由人だからわざわざ所在を連絡したりはしない。死んだとも聞いてないから、何処かで好き勝手やってるだろう』

「生きてりゃいいさ。それより本題だが――」


 イスラは咳払いして、もったいつけてから切り出す。


「〈空風〉を壊しちまったんだが、修理用パーツは何処で手に入れたらいいか知ってるかい? 作り方でもいいんだが」

『あの馬鹿げた不良品か? 壊したって事はあれを戦闘に使ったのか? よく生きていられたな』

「ちょっと怪我したがね。直ぐに治ったさ」

『怪我して当然だ。あんなもの』

「かも知れないが、相手も〈空風〉だったのさ」

『馬鹿が多すぎる』


 ニルスは呆れ果てて、通話口の向こうでため息をついた。

 それから先の質問に口数少なく答える。


『あれの製造にはかかわってない。知っているとすればロイグだろう』

「あー、やっぱりそうなっちまうか」


 〈空風〉の製作プロジェクトに関与したのはロイグだ。

 しかしそのロイグは宇宙の何処に居るかも分からない状態で、イスラにもニルスにも手がつけられない。


「じゃあそっちはいいや。もう1ついいかい? いや悪いったって頼むんだけどさ」

『なら聞くな。要件は?』

「カリラの倉庫から〈エクィテス・トゥルマ〉引っ張り出してきて送ってくれ。宛先は第401独立遊撃大隊ニシ閣下で」

『またそんな欠陥機を。そもそもあいつのコレクション倉庫には入りたくない』

「だとしてもさ。さっと行って、格納容器だけ持ちだしてくれりゃ良い」

『コレクションに手を出したら怒るだろう』

「それはこっちでなんとかするさ」

『――いいだろう。だが少し時間がかかるぞ。しばらく外に出られそうもない』

「構わないよ。時間が出来たときにそっと盗ってきてくれ」

『ああ、出来たときにな』


 ニルスは通話を終えようとしたが、イスラはそれを制するように声を上げ引き留めた。


「おっと待った。もう1つあった。いいかい?」

『なんだ』


 イスラの性格を知り尽くしたニルスは、重ねられた注文に対しても文句を述べたりせず、言いたいだけ言わせてやろうと返した。

 その返答が来ると分かっていたイスラは続ける。


「飛行攻撃機とか調達出来ないか? うちのかわいこちゃんが欲しいとさ」

『変態機収集の趣味は無い』

「だろうな。悪かった、忘れてくれ。じゃ、〈エクィテス・トゥルマ〉だけ頼むよ」

『ああ。401独立遊撃大隊ニシ閣下だな。レインウェルか?』

「今はね。すぐレイタムリットに戻る。そっから先は分からん。軍属なら追跡できるだろ? ニシ閣下と言えばすぐ分かるさ」

『ニシ閣下。懐かしい名だ。ひとまず雑用は任された。期待せず待ってろ。くれぐれも馬鹿な行動は慎め。お前たちに何かあったらロイグに当たられる』

「そりゃそっちでなんとかしてくれ。じゃあなおじさん。教育係頑張ってくれ」


 イスラは言いたいこと言い終えると通信を終了した。

 〈空風〉修理は先送りになったが、新しい機体の調達目処はついた。

 ただコアユニットとエネルギー転換機構周りに不備を抱える〈エクィテス・トゥルマ〉は、運用に際してタマキの大反対が予想された。


「タマちゃんの説得はどうすっかな。ま、実物が来ちまえばなんとかなるだろ」


 問題はあれど、楽観的に考えることにしてイスラは通信室を後にした。


          ◇    ◇    ◇


「ちょっとユイさん」


 カリラは〈R3〉の置かれた整備場内にある休憩所で、ユイの姿を見つけると声をかけ、後ろ手で扉を閉め鍵をかけた。

 ユイは仕事を一切するつもりはないと、並べた椅子の上に横になり毛布にくるまっていたが、カリラは構わずにその隣に立つ。


「少しお時間よろしくて?」

「見て分からないなら特別に教えてやるが、あたしゃ今忙しい」

「それでも聞いて頂かなくては困ります。わたくしはブレインオーダーのはずでしょう?」

「だろうな」


 カリラの言葉に対してユイは頷き、話はそれで終わったとばかりに頭まで毛布をかぶる。

 しかしそれをカリラはひっぺ返した。


「だったらどうして、1対1の模擬戦で勝てないんですの」

「はあ?」


 睡眠の妨害を続けられたユイは段々と不機嫌を募らせていたがそれでもカリラに対しては律儀に答える。


「ブレインオーダーってのは脳に直接知識や経験を書き込む技術であって、それは戦闘技能に限定されない。お前の場合、レナートの母体内に居る時点でやつの知識が書き込まれただけだ」

「ですが論文に隠されたメッセージには戦う力も授けたとありましたわ」

「こっちで受け取ったデータには書かれてなかったぞ」

「個人情報なので割愛しましたわ」

「全文を寄こせ」


 出さなければ相談に応じないと強硬姿勢をとったユイに対して、カリラは端末を取り出して隠しデータに含まれた画像データを表示させると、それを突き付けた。


「素敵な画像でしょう?」

「見るに耐えないね。何が知りたいんだ」


 ユイは仕方ないと強硬姿勢を取りやめた。

 脅しに屈した彼女に対して、カリラは主張する。


「お母様はわたくしに戦うための力を残したはずです。それがどうして使えないのか、知りたいのはそれだけですわ」

「レナートに聞け」

「可能ならばそうしていますわ。とても残念なことではありますけれど、頼れる人があなたしかいませんの。どうかお願いしますわ」


 レナートはカリラが幼い頃に病気で命を落としている。

 そしてレナートの研究成果について少しでも知っているのは、ロイグ・アスケーグの他にはユイしか居ない。

 懇願されたユイは、面倒そうにしながらも回答する。


「――脳に直接知識を書き込まれると、幼少期の発育に少なからず影響が出る。

 本来存在し得ない知識や経験が脳を圧迫し、幼少期に獲得するはずだった人間の根幹をなす脳成長が得られなくなるからだ。

 だから先天的なブレインオーダーを作成する場合は、肉体の成長に合わせて書き込んだ知識が徐々に発現するよう調整する。

 レナートが書き込んだと言いながらお前に戦闘技能が発現していないとすれば、肉体の未成熟が原因だ」


 突き付けられた回答に、カリラは困惑しながら返した。


「わたくしもう21ですわよ」

「あたしにゃまだガキに見える」

「あなただけには言われたくありませんわ」


 ユイは今度こそ毛布にくるまろうとしたが、やはりカリラはそれを止める。


「肉体が成熟しているにもかかわらず書き込まれた知識が発現しない場合の対処は?」

「そんな欠陥品に出会った例しがないから分からん」

「肝心な所で使えませんわね」

「そもそもレナートはお前が戦う事を望んでいたのか? 違うなら脳区画に制限をかけた可能性もある」

「それは――」


 レナートから託されたメッセージを読む限り、彼女は娘が戦いに身を投じることを消極的に捉えていた。

 知識ですら、宇宙が平和にならなかったときのためとわざわざ前置きし、戦闘経験についても戦いが避けられなくなったときと限定し、その力をロイグとイスラを守るために使えと記されていた。


「望んではいないでしょうね」

「だったらお手上げだ。あたしゃ天才だがレナートじゃない。奴が何を考え、何を実行したか。そこまでは分からん」

「後天的にブレインオーダーを作成することは可能ですの?」

「お生憎様。あたしの趣味じゃないね」


 八方塞がりとなったカリラは握った拳を震わせた。

 ユイはそれを興味なさそうに半分閉じた濁った目で見つめ、用が済んだのならさっさと帰れと告げた。


「分かりましたわ。これ以上話しても無駄のようですから帰ります。

 ――そう、もう1つだけ用がありましたわ。頼まれていた〈R3〉の設計修正完了していますわ。

 お姉様の分も合わせて共有データに反映させてあります。機体名も考えて差し上げましたから、精々お喜びになさって下さいまし」


 ユイは毛布の中から端末を取り出すと、カリラが更新した最終案の設計データを見て、そこに記された機体名にあからさまな不快感を示した。


「なんだこの名前は」

「狂った機体にはそれに見合った狂った名前が相応しいでしょう? 異論は認めませんわ」

「愚かな奴め」


 カリラは捨て台詞を聞く間もなく、休憩所から出て行ってしまった。

 起き上がる気のないユイは中途半端に開かれた扉を閉めに行くか否か考えた結果、毛布に頭までくるまった。

 今し方出て行ったカリラを思い起こし、恨むような口調で吐き捨てる。


「クソガキが。親の顔が――あいつらか」

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